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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第二章 悪夢の失墜篇
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第十七話「心の支配」改済

◇ ◆ ◇


 放課後──


飛鳥あすか…………」


 途方に暮れる金太郎きんたろう

 あれから金太郎は、休み時間になるたびに飛鳥を探し回っていたのだ。

 だが結局、見つからなかった。


 どうしてこんなことになってしまったのか。

 飛鳥に言われた言葉の数々が、金太郎の頭にまとわりついて離れない。

 特に最後のひと言が、金太郎に多大なショックを与えていた。


 その時、金太郎たちの会話を聞いていたクラスメートのうち数名が、ヒソヒソとなにかを話していたのだ。

 それが気になった金太郎が彼らに問いただした結果、耳を疑いたくなるような事実があきらかとなった。

 それは飛鳥が行方不明になっていた期間における目撃談だったのだ。


 彼らの話によると、クラスメートのひとりが、知らない男と仲良さそうにしている飛鳥を目撃していたらしい。

 その情報は、目撃したクラスメートのグループ内で拡散されていた。

 そして金太郎の知らないところで、その男のことを『飛鳥の男』と呼んでいたというのだ。


 今日も見たこともない男といっしょに登校してきた飛鳥を、クラスメートのひとりが目撃していたらしい。

 金太郎と飛鳥の仲を知っていたクラスメートだからこそ、金太郎の前では話せなかったのだ。



 しばらくは心ここにあらずといった感じの金太郎だったのだが、時間の経過とともに思考力も回復して、放課後には多少の落ち着きを取り戻していた。


「飛鳥のやつ……どうしてあんなに大切にしていたモンスターを交換になんか──」


 金太郎は気持ちを切り替えるために、クロスレイド部が活動している理科準備室へと足を運んだ。


◇ ◆ ◇


 理科準備室──


 気の抜けたような表情で、金太郎が理科準備室のドアを開けた。

 すると、そこにいたのは──


「……あ、飛鳥! 授業にも出ないで、いったいどこに行ってたんだよ……⁉」


 長細い大きなテーブルが4つ。いちばん奥の隅に飛鳥は座っていた。

 飛鳥の存在を確認して、ひとまずホッと胸を撫でおろす金太郎。

 だが飛鳥は、相変わらず冷ややかな視線を向けながら、辛辣な言葉を金太郎にぶつけてきた。


「あたしがどこに行っていたって、御堂みどうくんには関係ないでしょ!」

「ま、まだ怒ってるのかよ……? 俺がモンスターを返してもらえって言ったのは、飛鳥のためを想って……」

「……どうでもいい! あたし、もう御堂くんなんかと仲良くする気ないから!」


 近づいてきた金太郎から離れるように、席を移動する飛鳥。

 慌てて金太郎も飛鳥のあとを追う。

 だが飛鳥は、そんな金太郎に軽蔑のまなざしを向けながら言った。


「ついてこないで!」

「な……なあ、飛鳥……! せめて誤解だけは解いておきたいんだよ……」

「うるさいわね! 話しかけないでよ!」


 もはや聞く耳を持たない飛鳥。

 話もまともに聞いてくれない状況に、金太郎の焦りは軽減するどころか、徐々に増大していく。


 もう形振なりふりかまっていられなくなった金太郎は、飛鳥の逆鱗に触れることも覚悟のうえで、核心に迫る言葉を口にした。


「おまえ……マサオクンってやつに、いったいなにを吹き込まれ──」


 だが、その瞬間──

 勢いよく開けられたドアの音が、金太郎の言葉をかき消した。


 部員たちの注目を一斉に浴びながら、理科準備室へと入ってきたのは部長だ。

 部長は教壇の前に立つと、いつもどおりのあいさつを口にした。


「はい、静かに! これから部活を始めるぞ!」


 一刻も早く飛鳥と和解したかった金太郎は、途中で予定外のチャチャが入ったことに動揺している。

 一方で飛鳥は、金太郎を睨みながら距離をとり、離れた位置へと着席した。


 部長が話を続ける。

「……だが、そのまえに今日は新入部員を紹介する!」


 部長の言葉のあと、入り口から理科準備室へと入ってきた新入部員と思われる人物──


 そして、その新入部員を見た金太郎の表情が、みるみる青ざめていく。

 金太郎の顔は強張り、額には大粒の汗、そして身体は小刻みに震えていた。


「……あ、あいつは…………⁉」


 金太郎の存在に気づき、不気味な笑みを浮かべる新入部員。



 金太郎は、この時ようやく理解したのだ。

 何度も飛鳥が口にしていた『マサオクン』という名前の人物が誰かのかということを──。


 あの日、クロスガレージにいた少年。

 金太郎と飛鳥の仲を引き裂いた元凶──。



 あの時、金太郎も飛鳥からその名前を聞かされていた。

 だが当時の金太郎は、この少年に興味などなくて、それっきりの出会いだと思い込んでいたのだ。そのため金太郎は、少年の名前を覚える気などなかった。


 だから金太郎は忘れていた。

 そして同時に、思いだしたのだ。


 こいつの名前は────


「────角田かくた……正男まさお!」



 教壇の前、部長の隣に立つ角田。

 戦慄を覚える金太郎をよそに、部長が部員たちに角田を紹介する。


「新入部員の角田正男くんだ! 今日、学校に転校してきたばかりで、さっそくクロスレイド部に入部してくれた! みんな仲良くしてやってくれ!」


「はーい!」

「はいはーい」

「はいよー」


 部員たちは呑気に返事をしているが、金太郎だけは気が気ではない。

 だが部長は、そんな金太郎の気持ちなど知らずに、角田が部に馴染めるように努めている。


「ほら。角田くんからも、みんなに挨拶して!」

「うっす! 角田正男っす! みなさん、よろしくっすゥ!」


「おう! よろしくな!」

「私、同じクラス!」

「がんばれよー!」


 部長の配慮もあって、すでに多くの部員たちとの関係も良好になりつつある角田。

 部員たちのほとんどが、新たな仲間に歓迎ムード全開である。


 ただひとり──

 不安でいっぱいの金太郎が、思い出したかのように飛鳥のほうへと視線を向けた。


「あす……か?」


 久しぶりに見たうれしそうに笑う飛鳥の表情。

 だが──

 飛鳥の視線を追った先にいた人物を見て、金太郎は愕然とした。


「え……?」


 飛鳥が笑顔を向けていたは、あの角田だったのだ。

 いろいろな感情が、金太郎の中で渦巻いている。


 だが金太郎の事情など知らない部長は、さらに金太郎を追いつめる一手を口にした。


「角田くん。とりあえず空いている席に座ってもらっていいかな? そうだな……。金太郎の隣にでも──」


 だが部長の言葉を無視して、見当違いの方向へと歩いていく角田。

 角田の勝手な行動に、部長も困惑気味である。


「お……おい、角田くん……。どこに行くんだ?」



 そして角田が立ち止まった目の前にいたのは──


「隣いいっすかァ? ……()()()先輩♪」

「もちろん!」


 隣の席へ角田を誘導しながら、笑顔を振りまく飛鳥。


「早く会いたかった……正男くん」

「へへ……。さっきまでいっしょだったっしょ?」

「だってぇ……」


 いきなりイチャつく飛鳥と角田を見て、勘違いする部長。


「なんだ。飛鳥くんの知り合いだったのか。さて、それじゃ今日の部活だが──」


 角田が着席したことを確認すると、部長は本日の活動内容について話し始めた。

 だが、もう金太郎には部活の活動内容など頭に入ってこない。

 飛鳥と角田の関係が気になって仕方ないのだ。


「あ、飛鳥……」

 金太郎は無意識に、その名前を口にした。


 いくら金太郎が話しかけても、冷たい態度で聞いてもくれなくなった飛鳥。

 それが角田には、うれしそうに笑顔を向けている。

 金太郎の中にあった焦りが、爆発的に増幅し、苛立ちや不安と混ざり合って、強大な焦燥感へとその姿を変えてしまった。


(あれ……? そういえば……いつから下の名前で呼び合うようになったんだ……? たしかクロスガレージじゃ『すめらぎさん』『角田くん』って呼び合っていたはずじゃないか……。そもそも、あの日に知り合ったばかりのはずだろ……?)


 頭が真っ白になる金太郎。


(どうしてこうなった……? クロスガレージであいつに出会って……あいつのせいで飛鳥と喧嘩する羽目になって……)


 さらに金太郎は、記憶の断片をつなげていく。


(次に飛鳥と会った時には、仲直りしようと思っていたのに軽蔑されて……部活に来たら角田がいて……知らない間に角田と飛鳥が──)


 ふと我に返る金太郎。

 情緒不安定になり、全身から変な汗が噴き出している。

 そして定まらない視点で飛鳥のほうを確認した。

 するとその視線に気づいた角田が、卑しい笑みを金太郎へと向けてきたのだ。


「あ、あのやろう……!」


 金太郎の胸中を見透かしているかのように、わざと飛鳥の肩に手をまわして、見せつけるように身体を接近させる角田。

 飛鳥もまったく抵抗する様子はない。それどころか、うれしそうにしているようにさえ見える。


(くそ……! 離れろっ……! 離れろよ!)


 金太郎の反応を楽しんでいるように見える角田の行動。

 今度は飛鳥の耳元に顔を近づけて、何かを喋り始めた。


 金太郎を得体の知れない不安が襲う。


 横目で金太郎の様子を確認しながら、舌なめずりをして不気味に笑う角田。

 その下品な角田の笑みが、余計に金太郎の不安を助長する。


(なんだよ……コソコソしやがって……!)


 しかも、あろうことか飛鳥もうれしそうに、角田の耳打ちに同調しているのだ。

 さらに金太郎を焦らせたのは、角田に耳打ちをされた飛鳥が、同じように横目で金太郎を見てきたことだった。


(あ、あいつ……! 飛鳥になにを吹き込んでんだよ……⁉)


 距離があるため、なにを話しているのかまったくわからないことが、さらに金太郎の不安を増幅させていた。


 ただ──

 もう自分には向けてくれなくなってしまった飛鳥の笑顔が、このまえ知り合ったばかりの角田には向けられている。

 そう考えただけで、金太郎の胸は張り裂けそうになっていた。


(な、なんだよ……! 何なんだよっ……あいつは……⁉)

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