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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第二章 悪夢の失墜篇
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第十五話「不吉をもたらす者」改済

◇ ◆ ◇


 購入したクロスレイドのパックを、すべて開封し終えた金太郎きんたろう飛鳥あすかは、買っておいたドリンクを飲みながら雑談をしていた。


「ね、金ちゃん。最近、銀子ぎんこさんってダブルス大会にはぜんぜん出場する気ないみたいだけど、やっぱりパートナーは響香きょうかさんじゃないといやなのかな?」

「ん? ああ、それな。俺も銀姉に聞いてみたことがあるんだよ。そしたらなんて言ったと思う?」

「なんて言ったの?」

「珍しくシリアスな表情になって、こう……少しなにかを考えるような素振りをしたと思ったらさ。すぐにいつもの銀姉に戻って『ま、いいじゃない。シングルスだけで十分に稼げているし、別にダブルスに出場する必要もないしねぇ』……とか言ってたよ」


 金太郎は、やれやれといったようなジェスチャーをして呆れてみせた。


「ふふ。銀子さんらしいね」

「銀姉は、なに考えてるのかわからないところあるからな」

「でもあたし、ああいう感じの女性に憧れるよ」

「そうかぁ? まあ、それより昨日の部活でやった試合の復習でもしようぜ」

「うん。そうだね」


 そう言って、ふたりは木製のクロスレイド盤にユニットを並べて、熱心に感想戦を開始した。


◇ ◆ ◇


 感想戦を始めてから1時間ほどが経過したころ──。


「だからここで〈ホワイト・フォックス〉を動かさないで、先にこっちに俺から奪った〈メデューサ・スネーク〉を召喚すべきだったんだよ」

「ああ、そっか! そうすれば、ここの〈ホワイト・フォックス〉が利いてくるから、金ちゃんはうかつに攻めてこれないもんね」

「それに〈メデューサ・スネーク〉は香車だから、俺はこの角行〈黄金おうごん一角獣いっかくじゅう〉を守らないと奪われちゃうだろ? ここが一番の勝負の分かれ目だったかもな。ここで一手、俺に余裕を与えなければ────」


 突然、言葉を止めた金太郎。怪訝な顔をしながら、飛鳥の背後へと視線を送っている。


「ん? どうしたの、金ちゃん?」

「いや。なんか……向こうの席に座っているヤツが、ずっとこっちを見てるんだけど……」 


 無意識に金太郎の視線を目で追う飛鳥。

 その視線の先──

 少し離れた場所に少年がひとり、金太郎と飛鳥のほうをじーっと見つめたまま座っていた。


 少年と目が合ってしまった飛鳥が、慌てて顔を逸らす。

 無理やり流し目で背後を確認しようとするが、前を向いたまま後ろが見えるわけがないのだ。

 気まずいような表情をしたあと、顔を金太郎に近づけて小声で話しかける飛鳥。


「本当だ……。金ちゃんの知り合いじゃ……ないんでしょ?」

「ああ。……飛鳥は?」

「あたしも知らないわ」

「不気味なヤツだな」


 見た目的には、金太郎たちより少し年下くらい。

 丸刈りにした頭と太い眉が特徴的で、がっちりとした体格のわりに、どちらかというと地味で大人しい印象を受ける。


「きっとあれよ。クロスレイドを始めたばかりで相手がいないとか、これから始めてみたいと思ってるとか……」

「そうかぁ? 俺には、ただの怪しいヤツに見えるけどなぁ……」

「うーん……。でも、もしかしたらひとりぼっちで、さみしいんじゃないかしら?」

「……そうは言ってもなぁ。どんなヤツかもわからないし、こっちから声かける必要もないだろ。とりあえず、ほっとこうぜ」

「でも……。なんだか可哀想だし、あたしちょっと声かけてみる!」

「え? お、おい……ちょっと待て! 正気か⁉ やめとけって──」


 金太郎の呼びかけも聞かずに、飛鳥は少年のところに声をかけに行ってしまった。


「ねえ君。クロスレイドをやる相手がいないの?」

「え? あ、はいィ!」


 飛鳥が声をかけてきたことにびっくりしたのか、少しそわそわしている様子の少年。

 飛鳥は少年の緊張が解けるように優しく質問をする。


「ね、君。歳はいくつ?」

「じゅ、15歳っすゥ!」

「あら? それじゃふたつ違いね。あたしは17歳なの。もしかして同じ高校かしら? 学校はどこ? 15歳ってことは高校1年生でしょ? それとも中学3年生かしら?」


 少年が自分よりも年下だということが判明したことで、少し気が大きくなった飛鳥。

 飛鳥自身が世話好きの性格をしていることもあってか、つぎつぎと少年に質問を投げかけていく。

 急に積極的になった飛鳥に少し戸惑った少年だったが、途中からとても楽しそうに答えはじめていた。


「そのォ、狂南きょうなん高校の1年っすゥ!」

「狂南なんだ。あたしは龍神ヶ峰(りゅうじんがみね)高校の2年生よ。あっちにいる金髪の男の子は、あたしの同級生」


 離れたところから、ムスっとした表情の金太郎を指さして少年に紹介する飛鳥。

 金太郎は片手で頬杖をついて、クロスレイドのモンスターユニットをテーブル上でくるくる回しながら暇そうにしていた。

 だが飛鳥は、そんな金太郎の気持ちなど知らずに、少年に質問を続けている。


「そういえば、まだ名前を聞いてなかったわね。君、名前は?」

正男まさお! 角田かくた正男っすゥ!」

「角田くんか。あたしは飛鳥。すめらぎ飛鳥っていうの。あっちの金髪の男の子は御堂みどう金太郎っていうのよ。よろしくね」

「よろしくっすゥ! す、皇さァん!」

「ね。角田くん。クロスレイドやりたいんでしょ? 向こうであたしたちといっしょにやらない?」

「やりたいっすゥ!」


 最初こそやや緊張気味だった飛鳥だが、少しずつ打ちとけて後半は年上らしく上手に角田をリードしていた。


 一方、金太郎はというと──

 飛鳥が知らない男と楽しそうに話しているが面白くないらしく、これ以上ないくらい不機嫌な顔になっている。


 そんな金太郎のもとへ、角田を引きつれて戻ってきた飛鳥。


「ね。金ちゃん。向こうの対戦用スペースに行こ! 角田くんも入れて、みんなでクロスレイドやろうよ! 角田くん、あたしたちにクロスレイド教えて欲しいって──」

「……カクタクンって、そいつの名前?」


 普通に考えれば流れでわかることだが、なんとなく面白くない金太郎は意地悪く質問をした。

 飛鳥は、雰囲気で金太郎がご機嫌斜めなのだということは感じとったのだが、それは角田と金太郎が知り合う機会を自分がないがしろにしたせいなのだと、勝手に勘違いしている。


「あ……ごめん、金ちゃん。この子、角田正男くん。金ちゃんのことは、もう紹介してあるから……」

「いや……俺の紹介とか、どうでもいいんだけど。おまえ少しお人好しすぎるんじゃないか?」

「そんなことないわよ。金ちゃんが冷たいんじゃないの?」

「おまえがお人好しすぎるんだよ! 俺は、そのカクタクンとやらにクロスレイドを教えてやる気はないからな!」


 金太郎の言葉を聞いた瞬間──

 飛鳥の瞳が大きく見開かれた。


 本人を前にして傷つくような言葉を口にした金太郎に、ショックを受けてしまったのだ。


「……なんで、そんなこと言うの?」

「な……なんでって……」

「酷いよ……金ちゃん」

「え……? お、俺は……ただ──」


 飛鳥の態度が一変したことに戸惑う金太郎。


 なぜ、こんな状況になっているのか?

 金太郎は自分でも、なんとなく理解はしていた。

 自分の態度が、飛鳥の機嫌を損ねてしまったのだと──。


 金太郎がなにより怖かったのは、飛鳥に軽蔑されてしまったのではないかという不安だった。

 だが金太郎には金太郎の言い分があったのだ。

 それが伝えられないまま誤解されてしまったことに、金太郎の焦りは募っていくばかりだった。


「あ、飛鳥──」

「……もういいよ! あたしが教えてあげるから。行こ……角田くん」

「うっす! ふたりであっちのほう行ってやりましょ!」


◇ ◆ ◇


 飛鳥が角田に連れられて反対側のスペースへ移動してしまってから、すでに1時間ほどが経過しようとしていた。


 ふたりが楽しそうに会話しているのが、面白くない様子の金太郎。

 長テーブルの隅っこに座っている金太郎がいる位置から、ちょうど反対側──

 もっとも離れた位置にいるため、ふたりがなにを話しているのか、いっさいわからないのだ。


 ふたりの様子が気になって仕方がない金太郎は、そわそわして無意味な行動ばかりしている。30分ほど経過したあたりからは、頻繁に飛鳥に声をかけていた。

 とにかく金太郎としては、一刻も早く飛鳥を角田のもとから引き離したいのだ。


「おーい、飛鳥ぁ! まだかぁ……いつ終わるんだよー⁉ もう帰ろうぜぇ……!」


 最初は金太郎の呼びかけを無視していた飛鳥だったが、金太郎が何度も呼びかけ続けていると、次第に返事を返すようになっていた。


「ちょっと待って……。そんな急に終われないから──」


 金太郎を気にする飛鳥を見て、角田が不満そうな表情で舌打ちをした。

 だが目を逸らしていた飛鳥は、そのことに気づいていない。

 飛鳥は再び角田のほうを向くと、笑顔でクロスレイドを教えはじめた。


 それから数分が経過したくらい──

 なにやら飛鳥が角田に謝るような素振そぶりをしてから、慌てて金太郎のもとへと戻ってきた。

 笑顔ではないが、少し間が悪そうな表情をしている飛鳥。


「もういいのか?」

「もういいのかって……かしたのは金ちゃんでしょ! しょうがないから電話番号を交換してきたわよ」

「え……うそだろ⁉ 電話番号を交換したって……おまえバカなのか!」

「バ……バカとはなによ! 金ちゃんが早くしろって言うから……!」

「俺は、早くしろとは言ってないだろ!」


 まるで警戒心のない飛鳥の行動が、さらに金太郎をイラつかせる。

 角田にかかわってからの一連の流れが、さらに金太郎の不満へとつながり、飛鳥を責める材料となってしまったのだ。


「だいたい、どこの馬かもわからん男に電話番号を教えるとか正気かよ⁉」

「しょうがないでしょ! そろそろ終わろって言ったら、もっとあたしに教えて欲しいって言うんだもん!」

 飛鳥の顔にも、徐々に焦りの色が現れはじめる。

「そしたら……電話番号を教えてって言われて……。断れないじゃない……」

「いや、断れよ! そんなだからすぐに騙されるんだよ!」

「だって────!」


 これでもかというほど金太郎に責められた飛鳥は、しゅんとして今にも泣きだしそうになっている。

 そんな飛鳥の様子に気づいて、我に返る金太郎。


「と、とりあえず今日はもう帰ろうぜ? ……な?」

「──っ」

「ど、どうしたんだよ……?」


 差しだされた金太郎の手を払いのけ、返事もせずにその場から動こうともしない飛鳥。


 直後──

 飛鳥の口から予想だにしない言葉が飛びだした。


「……金ちゃん、先に帰れば?」

「え……?」

「角田くんに声かけたの、あたしだし──」


 動揺する金太郎に向かって、飛鳥が声を張りあげた。


「あたし……! 角田くんが、ちゃんと満足するまで責任もって教えてから帰るから……!」

「なんだよ……! そ、そんなにそのカクタクンと遊びたいのかよ⁉ ……だったら勝手にしろよ!」

「なによ……! 金ちゃんのバカ!」


 気持ちが完全にすれ違ってしまった瞬間である。



 この日──

 金太郎は飛鳥を店内に残して、ひとりで家に帰ってしまったのだ。

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