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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第二章 悪夢の失墜篇
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第十四話「開封儀式」改済

◇ ◆ ◇


 休憩用の丸テーブルひとつを陣取り、向かいあって座る金太郎きんたろう飛鳥あすか

 テーブルの上には、それぞれが購入したクロスレイドのパックとドリンクが置いてある。


 しばらく雑談をしたあと、飛鳥が自分の購入したパックの中からひとつを手に取った。


「ふふ。さて……あたしから開けるね」


 最初にパックを開封するのは飛鳥。

 交互に1パックずつ順番に開けていくというのが、金太郎と飛鳥のあいだで取り決めたルールなのだ。


 まず飛鳥が選んだのは歩兵パック。

 当たったのは〈ハッピー・ラビット〉。ランク2のモンスターだ。

 スキルは『〈ハッピー・ラビット〉を1マス前進させる』という効果である。



 クロスレイドのパックの中には、モンスターユニット1体と、それに対応するモンスターカードが封入されている。


 モンスターユニットの形状は将棋の駒と酷似したベース型をしているが、ひと回り大きめで上部に『歩兵』や『王将』といった属性が記載されている。さらに下部には視覚的にモンスターを区別できるように、イラストとモンスター名が記されているのだ。


 また封入されているカードの枚数は、モンスターによって1枚、または2枚と異なっている。その理由はモンスターの属性による進化の有無があるためだ。

 進化できない王将と金将のモンスターにかんしては、カードが1枚しか封入されていない。

 だが、王将と金将以外のモンスターは基本的に進化が可能なため、進化前と進化後それぞれの状態に対応する2枚のカードが封入されているのだ。



 飛鳥が引き当てた〈ハッピー・ラビット〉は、歩兵モンスターなので進化が可能だ。そのため2枚のカードが封入されている。

 1枚は進化前の〈ハッピー・ラビット〉のカード。もう1枚は進化後の〈スーパー・ハッピー・ラビット〉のカードだ。

 また〈ハッピー・ラビット〉がランク2だったことに対して、進化した〈スーパー・ハッピー・ラビット〉はランク3に昇格している。


 クロスレイドのモンスターユニットは、進化するとランクがひとつ上がることが多い。

 だが、なかには進化してもランクが変わらないモンスターもいれば、ランクがふたつ以上上がるモンスターも存在している。


 そして進化することによって大半のモンスターはスキルが変化するのだ。

 飛鳥が引き当てた〈スーパー・ハッピー・ラビット〉のスキルは『〈スーパー・ハッピー・ラビット〉を1マス前進させるか、1マス後退させる。』という効果に変わっている。


 歩兵〈ハッピー・ラビット〉を手に、しょぼくれる飛鳥。

「えぇ……これ持ってる……。あたし歩兵モンスターは百種類くらい持ってるけど、クロスレイドのパックってダブるイメージなかったから、ちょっとショック……」

「でも、そのモンスター気に入ってるんだろ? 歩兵は8体も必要なんだから、2体とも編成しちゃえばいいじゃんか」

「ん……。でも、この子って見た目が気に入っているだけで強いってほどでもないし、この子だけ2体編成するってバランス的にもどうなの……?」

「たしかに……。ま、まあ……気を取り直して次いこうぜ、次! 今度は俺が開けるからな!」


 飛鳥をフォローすることに失敗した金太郎が、慌てて次のパックを開けにいった。


「い、いくぜ! 俺のターン!」


 パックを開けるたびに『俺のターン!』とか言ってしまう金太郎が微笑ましくてクスクスと笑う飛鳥。


「俺がゲットしたモンスターは────」


 金太郎は思いっきり勿体もったいぶったのちに、香車パックの中からユニットとカードを勢いよく取り出してみせた。


「────コレだぁああああああっ!」



 当たったモンスターは〈戦慄せんりつする芋虫いもむし〉。ランクは1。スキルなしのモンスターだ。


「おい、なんだよ〈戦慄する芋虫〉って! ふざけてんのか⁉ レアリティ1でスキルすらないし……!」


 予想以上にダサいモンスターを引き当ててしまった金太郎は、目を疑って何度もユニットとカードを確認している。


「しかも進化後の名前が〈戦慄する芋虫・きわめ〉って……。結局ランク1でスキルもないままなのに何が『極』だよ! おちょくってんのか⁉」

「あははは!」


 見た目もアレだが、性能的にも残念すぎるモンスターを引き当ててしまった金太郎。

 不満全開で発狂している金太郎に、飛鳥が大爆笑している。

 楽しそうに笑う飛鳥を見て、金太郎は心の中で「飛鳥が元気になったのなら、まあいいか──」と少しだけ微笑んでみせた。


「ああ、おかしい! ふふ。それじゃ今度はあたしが開けるね」


 飛鳥が次に開けたのは、桂馬パック。

 当たったのは〈ホワイト・フォックス〉だ。ランクは2で、スキルは『通常の桂馬の行動範囲よりも1マス前方に移動することが可能』という効果である。

 進化後は〈跳躍ちょうやくのホワイト・フォックス〉となり、ランクが4まで上昇する。

 進化後のスキルは、相手から捕縛宣言を受けたときに効果を発揮するスキルで『捕縛を無効にして〈跳躍のホワイト・フォックス〉を通常の行動範囲内で移動することが可能』という効果となっている。

 桂馬としては、かなり使えそうなスキルである。


「おおっ……進化でランクがふたつ上がるモンスターじゃん! すげぇえええっ……やったあ!」


 金太郎は、飛鳥の引き当てたモンスターを見て子供のようにはしゃいでいる。

 飛鳥は自分が良いモンスターを当てたときに、いつも金太郎がまるで自分のことのように喜んでくれるのがうれしかったのだ。


「ありがと金ちゃん! あたし、ちょうど強い桂馬が欲しかったからうれしい!」

「よかったな、飛鳥!」

「うん!」


 飛鳥が良いモンスターを当てて機嫌がよくなったことで、金太郎も安心して自分のパックに集中できるようになった。

「よし! この調子で俺も良いの当てるぞ! 次は俺の飛車パックの中身を披露するぜ!」


 金太郎が開けた飛車パックから出てきたのは〈忘却ぼうきゃくのティアマト〉。ランク4のモンスターだ。

 スキルは『行動範囲が角行に変化する』という効果である。

 進化後は〈想起そうきするティアマト〉に変化し、ランクが5に昇格。

 進化後のスキルは『行動範囲が全方位3マスに変化する』という効果だ。


「なんか聞いたことあるな。ティアマトって名前」

「かなりランク高いみたいだけど、あまり欲しいのじゃなかったの?」


 高ランクのモンスターを当てたわりに、あまり喜んでいるとは思えない金太郎の様子に、飛鳥が不安そうな表情で問いかけた。

 自分は良いモンスターを当てたばかりなので、金太郎に申し訳ない気持ちがあるのだ。


 実際に金太郎にとっては、それほど魅力的なモンスターでもなかったのだが、飛鳥の気持ちが楽になるように、少し気持ちを偽って返事する金太郎。


「いや……。まあ、対戦で使うかどうかはともかく……。なんか名前もカッコいいし、コレクション的には当たりかな!?」

「そうなの? よかった。これで今日はお互いに良いモンスターを当てたね!」

「そうだな。これでお互い最後のパックは安心して開けられるぜ!」


 実際にクロスレイドは『トレーディング将棋ゲーム』と呼ばれているだけあって、コレクション的な要素も備えているのだ。


「何気にあたし、クロスレイドのモンスターユニットを集めるのって、楽しみのひとつなのよね」


 飛鳥の発言に、びっくりしたような表情をみせる金太郎。

 飛鳥がコレクションを楽しんでいるということも意外だったが、飛鳥と同じ趣味を共有できているということが、金太郎にとっては何にも代えがたいことだったのだ。


「それじゃ今度、飛鳥のコレクション見せてくれよ? 俺のコレクションも見せてやるから!」

「いいよ! 金ちゃんのコレクション見るの楽しみ!」


 そんな雑談をしながら最後のパックを開封する飛鳥。

「あ、これ金ちゃんが好きそう! あげようか?」

「え……?」


 飛鳥の引き当てたモンスターを見て唖然あぜんとする金太郎。

 飛鳥の銀将パックから出てきたのは〈ライトニング・てんとうむし〉というモンスターだ。

 ランクは4。スキルは『通常の行動範囲より1マス多く進むことができる』という効果だ。


 進化して〈ちょう・ライトニングてんとう虫〉となる。

 進化することでランクが5となり、スキルは『通常の行動範囲より2マス多く進むことができる』という効果に変化する。


 スキルの強さという意味では、いたって普通のレベルだが、ほかが問題である。

 名前もイラストもふざけているのに、無駄にランクが高い。

 そしてなぜ飛鳥は、このモンスターを『金太郎が好きそう』だと思ったのか──ということだ。


「もしかして……金ちゃん。このモンスターあまり欲しくない?」

「……えっ⁉ い、いや…………欲しい、けど……。た……タダで貰うわけにはいかないからなぁ!」

「あたし金ちゃんにだったら、タダであげてもいいけど?」


 もはや飛鳥は、金太郎が〈ライトニング・てんとう虫〉を欲しがっていると、完全に思い込んでしまっている。

 覚悟を決める金太郎。


「だったら今度、俺もおまえの好きそうなモンスターをやるから、その時に交換しようぜ! な?」

「うん! 楽しみにしてるね!」

 

(ふぅ。たまに飛鳥の感性がよくわからないぜ……)

 金太郎は心の中で安堵のひとりごとを呟いていた。


 これまでにも飛鳥は、たまに少しズレた感性を垣間みせることがあり、そのたびに金太郎は苦労させられてきたのだ。


「よ、よし……それじゃ最後のパックだ!」


 気を取り直して、金太郎が最後のパックを開封した。

 中から出てきたのは〈ゴブリン・キング〉という不気味なモンスター。


「〈ゴブリン・キング〉……? 王将とは思えないルックスだな。ランクも3だし……」

「ランク3って王将じゃ一番低いんだっけ? 残念だったね。金ちゃん」

「まあ……王将でもランク3は普通に出るし、それは別にいいんだけど……。それより王将とは思えない不気味な姿だよな……こいつ」

「そう言われれば……。実際に王将モンスターは人型をしていることが多いはずなのに、この子はモンスターみたい……」

「ランク3の王将は、そこそこ人型からかけ離れたのもあるって言われてはいるけど……これはいくらなんでも」

「あたしもランク3の王将はたくさん持ってるけど……こんなモンスターっぽいのはないかなぁ」


 最後の最後──

 金太郎が不気味な王将〈ゴブリン・キング〉を引いたことで、少し場の空気が重くなっていた。


 金太郎と飛鳥は、すぐに何事もなかったように別の楽しい話題にすり替えたが──

 これがのちに、ふたりを不幸に導く不吉の前触れだったのだ。

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