表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第二章 悪夢の失墜篇
14/188

第十三話「価値の在処」改済

◇ ◆ ◇


 クロスレイド狩り殺人事件から1週間──


 クロスレイド狩り自体は、いまだに各地で点々と発生しているようだが、横須賀市民を恐怖に陥れていた殺人犯が逮捕されたことで、ひとまず横須賀市には平穏が訪れていた。


 

 そんななか、休日を利用して行きつけのクロスレイド専門店『クロス・ガレージ』へとやってきた金太郎きんたろう飛鳥あすか

 クロスガレージは、金太郎たちが通う龍神ヶ峰(りゅうじんがみね)高校から徒歩5分ほどのところにある人気のお店だ。


 店内はそこそこの広さがある。

 入ってすぐ右のところにレジがあり、その近くの棚にはクロスレイドのパックが大量に陳列されている。

 反対側の棚は中古販売スペースとなっており、ユニットとカードのセットが剥き出しになって売られていた。中古品だけあって、値段は価値によってさまざまである。


 店の奥に用意されているのは、クロスレイド専用の対戦スペース。

 店内には一般のクロスレイド盤が置いてあり、自由に使用できるようになっているのだ。もちろん立体映像などは出ない代物である。


 対戦用スペースの脇には、休憩するための丸テーブルと椅子がいくつか用意されていた。

 一直線に空いているテーブルへと向かう金太郎。

 無事に席を確保すると、その場でテーブルに倒れ込むようにくつろぎ始めた。


「やっぱり、この店は落ち着くぜ~」


 しばらくテーブルに顔を伏せてウトウトしていた金太郎に向かって、クロスレイドのパックを見ていた飛鳥が声をかける。


「ね、金ちゃん! 先にパック買ってから、ゆっくりしようよ!」

「……それもそうだな。ついでにドリンクも買って、パックでも開けながらくつろぐか」


 飛鳥の提案で、いったん休憩テーブルを離れ、クロスレイドのパックが陳列している棚に足を運ぶ金太郎。


 金太郎は飛鳥の隣まで移動すると、目の前に陳列されたクロスレイドのパックを眺めながら、しみじみと言葉を口にした。


「それにしても、クロスレイドってすごいよな」

「なにが?」

「だって、いまだに知らないモンスターがパックから出るんだぜ? 開けるたびにワクワクするだろ」

「そうよね。普通そんなことないものね」


 金太郎たちの発言が意味するもの──

 それはクロスレイドが、これまでのトレーディング系ゲーム全般の在り方をくつがえす試みを成功させたことにあった。 



 正式名称は『超変則将棋型ちょうへんそくしょうぎがたバトルゲーム・クロスレイド』。

 発売元は株式会社ナハク。

 日本でブームを巻き起こしたのち『トレーディング将棋ゲーム』というジャンルを確立。またたく間に世界中に広がった大人気のゲームだ。


 人気の上昇に比例するように、中古ショップも年々増加している。 

 特にクロス・ガレージのようなクロスレイド商品に特化した専門店は、中古品だけでなく新品も扱っているうえに、対戦用のスペースが用意されているため、クロスレイダーにとっては非常にありがたいいこいの場なのである。


 当然こういったトレーディング要素がある品というのは、豊富なラインナップがひとつの魅力でもあり、そこにいろいろな価値観を見出せるのだ。


 強いモンスター。かっこいいモンスター。面白いモンスター。

 価値観は人それぞれだ。

 欲しいと感じる要素は千差万別ではあるが、クロスレイドはその多彩な人の感性と需要に対応できるほどの膨大なバリエーションが用意されており、それが結果的に需要と供給の絶妙なバランスを維持しているのだ。


 一般的に世に出回っているトレカなどのコレクター向け商品というものは、そこのところの理想論的観点を妥協し、多くの人が無難な魅力を感じることができる英雄的存在を作りあげている。そして大勢が希望するアイテムを可能なかぎり全員の手に渡るように調整することで、そこに発生するはずの欲求的な不満を揉み消しているのだ。

 それが結果的に平和的な物流につながるからだ。



 だが、本当に人が求めているものは何だろうか?

 すべての人と共通した量産品?

 それとも、唯一無二の一品モノ?


 この2択を提示されたとき、おそらくほとんどの人が選ぶのは後者である。

 それにもかかわらず、トレーディングアイテムをはじめ、ネットゲーム内のアイテムも然り、自分が手に入らないとなると文句を垂れながす存在が多数出現するのが世の常なのだ。


 なぜ、このようなパラドックス的事象が発生するのか?


 その中心にある価値観の正体こそが『希少性』なのである。

 誰もが魅力を感じる可能性が高い要素だ。


 希少だからこそ手に入れたい。

 だが同時に、希少だからこそ手に入らない。

 この相容れない葛藤が、そこに矛盾を生じさせているのだ。


 そして弱い人間ほど、この矛盾に心を蝕まれる。

 それが不平不満という名の牙に代わり、やがて創造主に襲いかかるのだ。

 結果、可能性の中に潜むはずだった真の価値は殺される──。


 これまでに多くの可能性を無にしてきた張本人は、ほかならぬ人間たち自身なのである。



 本来この希少性という価値は、ほぼすべての人類に共通して通用する魅力という概念の究極系ともいえる。

 だがその性質上、必ずと言っていいほど希少的要素を自ら潰そうと願う者が現れるのだ。なぜなら希少であればあるほど、多くの者が手に入れることができないからだ。

 こうして、これまでの人類史における創造物の中に存在するはずだった価値は意図して殺されてきたのである。



 もし──

 トレーディングアイテムの数あるラインナップの中に、世界に1つだけしかないアイテムを紛れ込ませることができたなら──

 せいぜい数十種類のラインナップというのが常識ともいえるなかで、何千……いや、何万ともいえるラインナップを実現できたなら──


 クロスレイドが挑んだのは、そんな人のさがにおける可能性の追求でもあったのだ。



 結果的にクロスレイドは成功した。


 そのカラクリのひとつが、金太郎たちが話していた『いまだにパックから知らないモンスターが出現する』という要素だ。

 金太郎たちも深く考えているわけではないが、本能的に感じているのだ。

 そこにある魅力を──。


 なぜ、このようなことが実現できたのか?

 それは、これまでのトレーディングゲームの常識にとらわれない考え方を実行したからにすぎない。


 ただ言うだけなら簡単だが、それは一種の勝負でもあったかのように思う。

 なぜならば、全人類の中でその感覚を把握できる人間が何割いるかという点において、その答えがあまりにも不明確だったからだ。



 クロスレイドが実行した非常識のひとつ──

 それは可能なかぎりラインナップを統合したことである。

 もちろんラインナップの絶対数を増やすことも重要だが、それを定期的に数十ずつの単位によるラインナップのパックで、小出しに販売していること自体が凡庸なのだ。


 凡庸は希少性を生まない──

 そういうことである。


 またラインナップの詳細をいっさい明かさないという観点において、常に新鮮な気持ちを維持させることを目的とし、延いては購入意欲と開封後の満足度につなげていたのだ。

 

 そして大量のラインナップ。

 クロスレイドのモンスターユニットの総数は公開されていないため不明だが、一説では数億以上あると言われている。それは8種類あるクロスレイドパックの裏面に書かれた封入内訳に『ラインナップ計測不能』と記載されていることからも予想はつく。

 またパックが8種類ある理由は、モンスターの属性ごとにパックが分けられているからである。

 この大量ラインナップの中に、レアリティという付加価値が設定されることによって、さらに希少性に価値が生まれるという仕組みだ。


 最初こそ不満の声もずいぶん多かったようだが、それは途中からあきらめに変わり、さらにその先には期待と希望に変わっていったと言われている。

 人類が環境に適応することを証明することができた、ひとつの答えでもあったように思う。


◇ ◆ ◇


 なかなか買うパックが決まらず眺めている飛鳥に、金太郎が声をかけた。


「飛鳥。おまえ今日はどのパックを買うんだ?」

「んー。あたし、もう飛車はお気に入りを持ってるから、それ以外にしようと思うんだけど……」


 しばらく悩んだのち、購入するパックを決定した飛鳥が金太郎に報告する。

「あたし、歩兵パックと桂馬パック、それから銀将パックの3種類にしようかな」

「だったら俺は、香車パックと飛車パック……。あと王将パックでもいってみるか」


 金太郎が先に飛鳥に選ばせたのは、飛鳥と違うパックを選ぶつもりだったからだ。


 クロスレイドのパックは1パック300円。3パック購入しても千円でお釣りが来る計算だ。そのため3パックずつ購入する人は多い。


 それぞれ希望のパックを購入してから自動販売機に向かうふたり。


「金ちゃん、何にするの?」

「俺、コーラ」

「それじゃ、あたしはオレンジにしよ」

「おまえ、いつもオレンジジュースだな」

「別にいいでしょ!」


 たわいない会話をしながらコーラのボタンを押す金太郎。

 ついでにオレンジジュースも購入して飛鳥に手渡す。


「ちょっと待って。お金──」

「ああ。いいよ。今日は俺がおごってやるから」

「ほんと? ありがと、金ちゃん!」


 金太郎におごってもらって上機嫌の飛鳥が、ルンルン気分で休憩用のテーブルへと向かう。そのあとを歩いていく金太郎。

 


 魅惑のパック開封儀式が、今始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ