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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第一章 英雄の器篇
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第十一話「間一髪の攻防戦」改済

 最終的に、金太郎きんたろうの桂馬〈ホースヘッド・ナイト〉がいた位置に、あつしの銀将〈ヘル・リザード(かい)〉が移動。金太郎の〈ホースヘッド・ナイト〉は1マスだけ前進した形になった。


 その経緯は次のとおりだ。

 最初の〈ホースヘッド・ナイト〉の捕縛は〈ヘル・リザード改〉のカウンタースキルで無効化されたため、この段階での位置関係に変化はなし。

 だがその〈ヘル・リザード改〉のスキル効果によって、逆に〈ヘル・リザード改〉が〈ホースヘッド・ナイト〉を捕縛しに行くというアクションが発生。

 本来であれば、ここで〈ホースヘッド・ナイト〉は〈ヘル・リザード改〉に捕縛されるはずだったのだが、金太郎が歩兵〈ドレッド・ジャガー〉のスキルをカウンターで発動したことによって〈ホースヘッド・ナイト〉が1マスだけ前に移動したのだ。

 そして本来いるはずだった〈ホースヘッド・ナイト〉が、移動したあとの無人のマスに〈ヘル・リザード改〉が移動した──という流れ。


 ややこしい攻防の果ての結果だ。


 今回のポイントは、敦のカウンタースキルによる捕縛行動にある。

 これがスキル効果による『強制捕縛』だった場合は、今回の金太郎が使った方法は通用しなかったはずなのだ。


 『強制捕縛』というのは、スキルの効果によって『モンスターを移動させずに相手のモンスターを捕縛する動き』であるため、金太郎がやったように『1マスだけモンスターを移動させて捕縛を回避する』という方法は基本的に通用しないのである。


 しかし今回の敦のスキルにから派生した捕縛は『移動して捕縛する』という通常の行動概念に基づいた捕縛であったため、金太郎の〈ドレッド・ジャガー〉のカウンターが有効となったのだ。


「くそォ……! 〈ヘル・リザード改〉のスキルが強制捕縛だったら、回避されなかったのにィ……!」

「そしたら違うスキルで回避するまでだ。言い訳はダサいぜ、おっさん!」

「ぐッ……⁉ きさまァアアアアアア……!」


 さらに金太郎は歩兵〈シールド・イエティ〉のスキルを発動して、桂馬〈ホースヘッド・ナイト〉を1マス後退させることで、敦の〈ヘル・リザード改〉を捕縛した。

 金太郎の歩兵モンスター〈シールド・イエティ〉は『自軍モンスターから1体を選択して、そのモンスターを1マス後退させる』という効果のスキルを持っている。

 先ほどのスキルの応酬によって、1マス前進していた〈ホースヘッド・ナイト〉の背後に敦の〈ヘル・リザード改〉が潜り込んだ形になっていたため、この〈シールド・イエティ〉のスキルを使用して捕縛したのだ。


「ぐぅうッ……⁉ くっそォおおお……!」


 発狂している敦の姿に、どん引きしながらターンエンドを宣言する金太郎。

 そこからは敦の警戒心が強まったせいか、お互いになかなか隙が生まれず、持久戦が続いていた。

 だが、それでも時間は経過し、そのたびにターンも積み重なっていく。

 将棋さながらの頭脳戦が展開され始めてからは、敦の粘り強さが際立っていた。


(くっ……! このおっさん……急に強くなりやがった……?)


 金太郎は『急に敦が強くなった』と勘違いしているようだが、実際にはそうではない。単純にスキルを抑えたかけ引きの性質というのが、実は敦の得意な分野だったのだ。


 対戦はすでに終盤に差しかかっているが、まだ警察は到着していない。

 頻繁に出入口を気にしている金太郎。


(くそ……。まだなのか……?)


◇ ◆ ◇


 レイドハウス前の現場周辺──


 あたりは、まだ騒然としていた。

 野次馬で集まっていた者たちは、離れていった者もいれば残っている者もいる。

 残っている者の中には、レイドハウス内の状況が気になっているのか、心配そうな顔で何かを祈るように見守っている者もいた。


 飛鳥あすかは不安な表情で誰かを探している。

 しばらくあたりをキョロキョロしてから、小走りで何者かに近寄り問いかけた。


「あの……⁉ さっき警察に連絡してくれていた人ですよね……?」

「……え? 違いますけど……?」

「あ……。ご、ごめんなさい……」


 人違いだとわかると謝罪をし、ふたたび人を探しはじめる飛鳥。

 すると背後から男がひとり、飛鳥に近寄り声をかけてきた。

「あ……あの。警察に連絡したの……僕ですけど…………」


 慌てて振りかえる飛鳥。

 切羽詰まったような表情で、この男を問いつめていく。


「……あの! け、警察に……連絡してくれたんですよね……⁉」

「え、あ……。は、はい」

「その……まだ、到着しないんでしょうか……?」

「僕に聞かれてもわからないですけど……。警察の方も忙しいらしくて……」


この男が言うには、どうやら近隣における警察への通報が多発しており、今この周辺にいる警察官が不足しているらしいのだ。

 ここ最近クロスレイド狩りが多発していたせいで、その件の通報も多いのだという。

 この横須賀市近辺の警察の手が不足しているのも例外ではないようだったが、近いところにいる警察官の手が空き次第駆けつけられるように手配しておくと言っていたらしい。

 また通報した男性が殺人未遂に近いニュアンスで伝えたことによって、警察のほうも出来るかぎり急いでくれるという話だったそうだ。



 すでに金太郎がレイドハウスに入ってから二十分以上が経過していた。

 飛鳥の不安は膨らんでいく一方だ。


「金ちゃん────。どうか無事でいて……」



◇ ◆ ◇


 金太郎は上手に時間稼ぎをしていたつもりではいたが、もう敦との対戦はいつ終わっても不思議ではない局面になっていた。


 金太郎には、すでに何度か敦の王将モンスターを追いつめるタイミングはあったのだが、勝ってしまったら敦がどんな行動に出るかわからない。だが敦は本気で金太郎の王将モンスターの首を狙いにきている。

 つまり対戦が終了しないように逃げて時間稼ぎしつつ、敦の攻撃もしのがなければならないのだ。


「おい、小僧! さっさとしろォ! そんなに考える場面じゃないだろォ……!」

「ぐ……! わかってるよ……」


 現在レイドハウス店内には金太郎と敦、そして数名の店員しか残っていない。

 金太郎たちが対戦しているあいだ、状況を共有した店員たちが店内をまわりながらお客さんたちに事情を説明して、こっそり避難させていたのだ。

 店内に残った店員たちも、いつでも避難できるギリギリの位置でふたりの対戦を見守りながら待機していた。


(どうする……? 負けたら大事な〈ゴールド・ドラゴン〉を奪われちまう……。かといって、もうこれ以上長引かせるのは────)


 金太郎は額に大粒の汗を滲ませながら、状況の判断を迫られている。


(限界まで時間を稼ぎながら勝ってしまうか……? そのあいだに警察が到着してくれれば……)


 敦のほうをチラ見しながら、ユニットを手に取っては置いてを繰り返している金太郎。


(いや……判断を誤るな、オレ! ひとつのミスが命取りだ……。これまで何分戦っていると思っている? もし……このまま勝ってしまったとして、そのわずかな時間に警察が到着する保障なんてあるわけがない……!)


 時間稼ぎをしている金太郎の様子に、しびれを切らした敦が大声でまくしたてた。

「おいィ! なにチンタラやってんだよォおおお!」

「い……今、指すところだよ……!」


 もはや時間稼ぎが不可能な状況まできている。

 勝つか、負けるか、数ターン後までには確定するだろう。


 覚悟を決めた金太郎は、勝利に向けてユニットを展開し始めた。敦の攻撃を捌きつつ、着実に詰みへの布陣を整えていく金太郎。


 そして最後のピース。

 この一手で勝負が決まるという局面。


 金太郎は出入口があるガラスの壁越しに外を確認するが、相変わらず期待するような変化は見られない。


 もうタイムリミットも近い。

 やれることは限られてきた。

 金太郎が苦しそうな表情に変わっていく。


 そして敦の王将に王手をするためのモンスターユニットを手にとる金太郎。

 絶妙な時間を使いながらユニットを持つ手を振りあげ、盤面に打ちつけるように指した。



 バチン──という甲高い駒音が鳴り響く。



 しばらく沈黙があたり一帯を支配する。

 王将モンスターの逃げ道がなくなったことに敦が気づくまで、それほど時間はかからなかった。


「こ、こんな試合……無効だァアアア……!」

 そう敦が声を張りあげた、その時だった。


 全面ガラス張りの壁の向こう側。

 金太郎の視界に映り込んできたもの──


 それはパトカーと警察官の姿だった。


「ま────間に、合った……」


 敦の瞳が金太郎の視線を追った時には、すでに警察官がレイドハウスへと踏み込んだあとだった。

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