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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第百九話「未来負託」

 ◇ ◆ ◇


 先ほどまで戦いを繰り広げていた将棋盤の前で、四人が真剣な顔をして何やら話をしていた。

 飛鳥あすか銀子ぎんこ響香きょうか桐生きりゅうの四人だ。


 角田かくたは少し離れたところで、壁に寄っかかって気絶している。

 女神の説明の最中で暴れ出したため、女神によって気絶させられたのだ。



 四人は女神の言葉を受けて、今後の動向について話し合っていた。


 女神の最後の言葉──


「この場から私が消えれば、しばらくして再び竜崎りゅうざき王牙おうがの思念がこの場を侵蝕することでしょう。竜崎の思念が人々に伝染し、人類が滅びの道を歩み始めるまでの猶予はもうほとんど残されていません。どうか手遅れになる前に竜崎王牙の魂を救い、世界の滅亡を食い止めてください」


 そう言い残して、女神はその場から消えていった。



 女神とのやりとりによって金太郎きんたろうが竜崎という名の亡霊と戦っているということは理解したものの、さすがに詳しい現状は理解していなかった飛鳥。

 そのあたりの説明は、その後すぐに銀子の口から伝えられた。

 銀子もすべてを知っているわけではなかったが、ひとまずこの場にいる全員が現状を知るために、銀子の話を主軸として認識の共有化が行われたのだ。


「時間がないわ……急ぎましょう! 響香! 飛鳥ちゃん!」

「……ちょっと待ってもらっていいですか? 銀子さん」


 金太郎たちとの約束もあって一刻も早く飛鳥を連れて合流したい銀子だったが、飛鳥は何か考えがあるらしく立ち止まってしばらく角田かくたの方を眺めていた。


「……どうしたの? 角田くんなんかに構っている暇ないでしょ? さっさと行くわよ」


 飛鳥を急かす銀子。

 だが飛鳥が思いもよらない決断を下す。


「金ちゃんたちに合流する前に、角田くんを救います!」



「え……⁉」

「角田くんを救うですって!?」

 響香が驚きの声を上げた後、銀子が飛鳥に聞き返すように言葉を口にした。


 

「あたしの能力……。さっきは女神様があたしの能力を使ってあたしを救ってくれた。金ちゃんたちに合流する前に、一度実戦で自分で能力の使い方を確認しておきたいの」

 理由を述べた飛鳥は、もうひとつの理由も口にした。

「それに──角田くんも救ってあげたいっていうのは本心。今ここにいる角田くんは苦しんでいる。……少なくとも今のあたしなら、たぶん角田くんを一時的にでもその苦しみから解放してあげることができる……!」


 驚いた顔で聞き返す銀子。

「ど、どうやって……?」



「『将棋の道を覚えなかった角田くんの身体』を転写するの」



 だが、この飛鳥の答えに疑問を持った響香が質問した。

「……ですが、それでも角田くんの魂自体が変わらないのなら意味ないのでは……?」


 飛鳥が響香に答える。

「ええ。でも実際に目の前の角田くんを例に考えれば、竜崎さんの思念に反応しても『能力を発現してから、さらに精神を侵蝕されておかしくなるまで』に少し時間を要するはず……」



 飛鳥の能力『事象の改ざん』は、量子もつれを発生させられる物質に対してのみ発動できる能力だ。

 別次元に存在する同一人物であれば、基本的には魂の量子構造はほぼ一緒であるため、高確率で量子もつれを発生させることができる。


 だが魂の複写コピーだけは出来ず、あくまで量子構造が似た魂が所有する肉体の複写のみなのだ。



 仮に『将棋を覚えなかった角田の肉体』を複写したとしても、この世界軸で存在していた角田の記憶などが変わるわけではない為、結局は竜崎の思念に反応してしまうのは必然のことである。


 それでも飛鳥がそう考えたのは、『将棋を覚えなかった角田の肉体』であれば、少なくとも現時点で竜崎の思念を一切受けていないはずだからだ。

 その状態から角田がおかしくなるころまで竜崎を止められなければ、いずれにせよ人類は滅亡の道を辿ることになるということは、女神の説明からも明白だった。



「ふむ。そういうことか。良いのではないか?」

 しばらく無言で見守っていた桐生きりゅうが口を挟んだ。

「正之進のせがれが今の状態になるまで、正気と狂気の狭間を彷徨って徐々に狂っていったと聞いておる。恐らく肉体が正常化すれば、一時的に正気を取り戻す可能性は十分にある。」


 桐生は続けて飛鳥の方を見ながら言葉を付け足した。

「恐らく……もうここまで狂ってしまっては、たとえ竜崎を倒しても元には戻れぬかもしれん。だとしたら、いったんこやつを正常化させて、再び完全に狂ってしまう前に竜崎を止めるというのは、ある意味で妥当な決断かもしれん」


 桐生に答えるように飛鳥が口を開いた。

「ええ……。女神さまは〝猶予はもうほとんど残されていない〟と言っていたけど、制限時間がどのくらいあるのか正確にはわからないわ」


 ここで飛鳥の思惑に気づいた銀子が、飛鳥に代わって言葉を口にする。

「確かにそうね。そもそも竜崎のいるところに到達するまでどのくらいかかるのかすら分からないし、この状態の角田くんを残していった場合もし予想以上に時間がかかるようなら、それだけ角田くんによる被害者も増えてしまう」


「……だったら先に角田さんを救って、あとは全力で竜崎さんを阻止するために行動する──ってことですね」

 銀子に続いて、響香が答えた。



 銀子、響香、桐生からの賛成を得たことで、飛鳥が気絶する角田の前に立った。


「それじゃあ……やってみるわね」


 角田の前で目を閉じ、祈るように胸の前で手を合わせる飛鳥。

 すると、まもなく飛鳥の全身が激しい光を放った。


 銀子と響香、そして桐生の三人が見守る中、しばらくして飛鳥がそっと目を開ける。

 同時に飛鳥の全身から放たれていた光もおさまっていた。


 角田は先ほどから変わらず眠るように気絶したまま。

 見た目も変わらず、なにかが変化したという様子もない。

 


 しばらく間をおいて銀子が言葉を口にした。

「成功したの……?」


「ええ──。実際に自分でやってみて感覚は掴めたわ。この角田くんは()()()()()()()()()狂っていない……!」



 この飛鳥の言葉を聞いて、桐生が三人に話しかけた。

「この場はわしに任せておけ。正之進のせがれは、わしが責任を持って保護しておいてやる。おぬしらは──やることがあるのだろう?」


 飛鳥と銀子、そして響香の三人に向けられた桐生の視線。


「……お願いします!」

 答えたのは飛鳥だった。

 これまで見たことのないほど凛々しい表情でそう答えたのだ。


「ふん……。まさかこのわしが、こんな年端もいかぬ小娘どもに頭を下げる日が来ようとはな。頼んだぞ────」

 桐生は飛鳥たちに背中を向け、想いを伝えた。

「──人類の未来」



 桐生の背中を見てクスっと笑う銀子。

「相変わらず口が悪いですね……先生」



 飛鳥たち三人はお互いに顔を向け、頷き意志を確認し合い、その場を立ち去った。




 ◇ ◆ ◇


 亞比あびの研究室──



「ようやく来ましたか。あなたたちのことは金太郎くんから聞いています」

 薄暗い研究室。光る眼鏡越しに言葉を口にしたのは、この研究室の住人〝亞比真之助(しんのすけ)〟。



「……あなたが亞比さん?」

 飛鳥が質問した。


「そうです。あなたたちには金太郎くんを追って、ここからひとつ上の次元との狭間に行ってもらいます」

 眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら亞比が答えた。


 三人の顔に緊張が走る。


「次元の……狭間」

 ごくりと唾を飲み銀子が呟いた。



 亞比の案内で、金太郎たちの肉体が置いてある部屋に入る飛鳥たち。


「金ちゃん!?」

将角まさかどくんたちもいるわ……」


 魂が抜けて眠るようにベッドに横になっている金太郎たちの身体をみて驚く三人。


「彼らの魂は今この肉体の中には存在していません」

 眼鏡を光らせて亞比が状況の説明をした。


「……竜崎さんがいるっていう世界に行っているから…………」

 無意識で呟くように、言葉を口にした響香。


「その通りです。ただ──」

 響香に答えながら振り返り、驚いた表情で固まっている飛鳥たちの方に視線を向けて亞比が言う。

「──正確には〝竜崎のいる世界〟ではなく〝竜崎のいる次元〟です」



 亞比は、少し先にあったテーブルへと足を運び、そこに置いてあった分厚い本を手にしてから話を続ける。

「これから竜崎のいる次元へ向かうための説明を受けてもらいますが……その前に──」


 亞比は、眼鏡の隙間から覗く瞳を怪しく光らせながら言った。



「──まずは、あなたたちにもクロスレイドのすべてを知ってもらいます」

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