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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第百八話「新生飛鳥」

事象じしょうの改ざん……。な、なんとなく……響き的にあまりいい印象じゃないんですけど……」

 心配そうな顔の飛鳥あすかが、女神を見上げながらそう言った。


 飛鳥の疑問に対して女神が答える。

「確かにそうかもしれませんね。先ほども言いましたが、あなたの能力は神の領域に踏み込んでいます」

 さらに言葉を続ける女神。

「強い力というのは、それだけ責任が伴います。当然その分、間違えた使い方をすれば悲劇をもたらすでしょう。ですが──」


 女神は真剣な表情になり、飛鳥の目を見つめながら続きを口にした。

「──あなたは必ず正しい使い方をしてくれると信じています」

「女神様……」



 飛鳥との対話を済ませると、飛鳥の潜在能力『事象の改ざん』についての解説に入る女神。


「まず……あなたの能力は簡単に言えば『現在進行形の事象に、多次元世界に存在する無限の可能性の事象の中から、任意の事象を強制的に上書きする』という能力です」

「よ、よくわからないんですけど…………?」


 思ったほど簡単ではなかった説明に、混乱する飛鳥。

 だが女神は、飛鳥の様子は気にせずに言葉を続ける。


「今のあなたがここにいるのは、生まれてから現在に至るまでに様々な人生の選択をしてきたからです。それは過去の出来事となって、あなたの記憶に残っているはずです」

 飛鳥以外の者も見守るなか、女神の説明が続く。

「例えば──『もしも、あのとき……』と思ったことは誰にもあるでしょう」


 飛鳥の顔に後悔の色が浮かんだ。

 きっと『あのとき、角田に話しかけさえしなければ……』と思ったに違いない。

 

 女神はそんな飛鳥の表情を見つめながら、ひと呼吸おいて言葉を口にした。

「あなたの持つ能力をもっと簡潔に──ひとことで言いあらわすのならば、そうですね……『過去の失敗をなかったことにする能力』とでも言いましょうか」

「か、過去の失敗を……なかったことにする能力……⁉」


 驚いたのは飛鳥だけではない。

 その場にいる他の者たちも皆、驚きの表情で飛鳥と女神のやりとりを見守っている。


「正確には『なかったこと』にできるのは、失敗だけではありません。過去の成功もなかったことにできるのです」

 唖然とする一同に視線を送りながら言葉を続ける女神。

「間違えた使い方をすれば悲劇をもたらす──と言ったのは、そういう意味です」


 これに返事をしたのは銀子ぎんこだった。

「なるほどね……」



 それからしばらく飛鳥の潜在能力について女神の説明が続いた。



 飛鳥の潜在能力──『事象の改ざん』。

 現在進行形の事象に対して、多次元世界における同時間軸の異なる事象を上書きする能力。


 それは極めて特殊な改ざんであり『過去を変えることによって未来を変える』という単純な話ではない。


 そもそも無数に存在する多次元世界のうちのひとつに自分が生きているとして、仮にタイムスリップして過去の出来事を変えたとしても恐らく過去を変えにいった自分自身が体験してきた過去が変わることはないという事実──。

 ただ過去を変えようとするアクションを行うことで、自分には認識できない多次元世界がそこから枝分かれして発生するということ。

 つまり、仮に過去を変えることができたとしても、変えようとした本人の人生が変わるわけではないのだ。


 そして飛鳥の能力における作用機序は、『過去を改ざんして現在を変える』のではなく、『過去はそのままに現在を改ざんする』というもの。



 女神が、ふたたび飛鳥の目を見据えながら言った。

すめらぎ飛鳥。あなたの能力の正体は『量子もつれ』です。そして本来、人間は基本的に異なる選択をした量子を観測することは不可能なのですが、唯一それが可能になるものがあるとするならば────それが量子もつれ。これが私があなたの力を『神の領域』と言った理由です」

「量子もつれ……。神の……領域……!」

 飛鳥は、なにか重たい使命のようなものを背負わされたような、そんな気分で女神の話を聞いていた。


 さらに真剣なまなざしで飛鳥に問いかける女神。

「……あなたの人生を台無しにした角田かくた正男まさおが憎いですか?」


 少し躊躇してから飛鳥が口を開いた。

「……憎くない──って言ったら嘘になるわ。だけど……。角田くんの過去も知っているし、角田くん自身が竜崎りゅうざきさんの力で強制的にあんな風になっちゃったって知ってるから────」


 寂しそうな瞳でそう語る飛鳥に、さらに女神が問いかける。

「ですが、角田正男の潜在能力が『洗脳』という歪んだ能力であることは、竜崎王牙(おうが)のせいではありませんよ?」

「そう……ですね。でも、それを言ったらあたしの能力だって使い方を間違えれば人を破滅に追いやってしまいます。それに……角田くんだって、選んでその能力を手に入れたわけじゃないと思うんです」

 そう答える飛鳥の瞳には、どこか強い覚悟が宿ったようにも見えた。


 女神は黙って飛鳥の言葉に耳を傾けている。


「あたしは弱かったから……角田くんを包み込んであげられるだけの力も自身もなかったし、自分のことで余裕なんてなかった……。だけど────」

 唇をかみしめ、過去の自分を評価するように話す飛鳥。


「──あたしに力があるのなら…………あたしは!」

 そして飛鳥は、はっきり女神の瞳を直視しながら強く言葉を口にした。



「角田くんを救ってあげたい!」



 飛鳥の言葉を聞いた女神が、少し笑みを浮かべながら言った。

「ふふ……いいでしょう。では、まずは私があなたの力であなた自身を変えてあげましょう!」


 そう言って女神が飛鳥の胸に手をかざすと、飛鳥の全身が大きな光に包まれた。



 その場の全員が驚いた表情で状況を眺めているなか、桐生きりゅうが口を開いた。

「こ……これは…………⁉」


 桐生の疑問に女神が答える。

「これこそが量子の光です。もともと量子もつれとは、似た性質の量子同士が惹かれあう力のことです。仮に量子もつれの性質を自由に操ることが可能であれば、人が別の自分に干渉することは可能でしょうね。いわゆる量子テレポートです」

 続ける女神。

「いま皇飛鳥の身体に起きたのは、この量子テレポートを応用した技術」


 そして次の女神の言葉が、その場の全員に衝撃を与えた。


「いま皇飛鳥の魂と、別次元に存在する『角田正男と出会うことがなかった皇飛鳥の魂』の間で量子もつれが発生しています。そして、ここからが彼女の能力の真価──」

 光り輝く飛鳥を見ながら女神が言葉を続ける。

「彼女は量子もつれを発生させた魂が入っている多次元の自分の器──つまり生身の身体を、自分の存在する世界の自分にコピーすることができるのです」


 これまでの説明で何となく理解はしたものの、反射的に聞き返す響香きょうか

「そ、それって……つまり?」

「その瞬間から今ここにいる皇飛鳥の身体は、別次元に存在している皇飛鳥の身体と同等のモノに変わるということです。そして、その身体の持ち主である別の皇飛鳥は角田正男と接触していない皇飛鳥……。つまり彼女が持っていた負の感情の発生源が、少なからず解消されるということです」



「まさか……そんなことが可能なのか……⁉」

 桐生が信じられないといった表情で言葉を口にした。


 流し目で桐生の方を見ながら、女神が言葉を付け足す。

「ただし──。彼女の能力では過去の事象が変わることはありませんし、記憶も消えません。状況によっては非常に便利な能力ですが、場合によっては不便だと感じる場合もあるでしょうね」

 そう言って、完全に入れ替わった飛鳥を見つめる女神。


 角田に刻まれたタトゥーや、身体中に付けられてしまったピアス。短くカットされていた髪型も、元通りの茶色いロングヘアーへと戻っていた。さらに、先ほど暴走した際に自分で掻きむしった腕の傷も消えている。


 改めて自分の身体を見回して、涙を浮かべる飛鳥。

「あ……あたしの身体……。もとに戻った……!」


 だが女神が真剣な顔つきで飛鳥に忠告する。

「正確には()()に戻ったわけではありません。自分の身体とはいえ、それはもう()()()()──。限りなく今のあなたに近いあなたと干渉させましたが、別のあなたの中には思いもよらないほど別人のようなあなたも存在していることをお忘れなく────」


 女神の言葉を受けて、飛鳥も真剣な表情で答える。

「はい。もちろんです。それでも、あたしは救われました」


 その答えを聞いた女神が、笑顔に変わって言った。

「あなたを救ったのは、あなた自身の力ですよ? 皇飛鳥」


「……はい! あなたのおかげですべてを悟りました。自分の能力も、そして今のあたしに出来ることも──!」

 飛鳥は自信に満ちた笑みを浮かべながら言葉を続けた。



「あたしが金ちゃんを助けるんだ!」

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