第百六話「存在理由」
「あ、飛鳥! よかった……無事だったんだな」
思わず金太郎の笑顔がこぼれる。
先ほどモンスターの軍勢を一瞬にしてせん滅したのは、飛鳥のモンスター〈ルミナス・ドラゴン・リュミエール〉の必殺技『シャイニング・レイ』によるものだった。
飛鳥は複雑そうな顔で答えた。
「いろいろあったけどね」
「いろいろ?」
飛鳥の言葉に少し戸惑い気味の金太郎。
この金太郎と飛鳥の話に割り込んだのは銀子だった。
「さっきの話の続き……してもいいかしら? 飛鳥ちゃんに何があったのか知りたいんでしょ?」
「ああ……そういえば話の途中だったな……」
先ほど銀子の話の途中でモンスターが襲ってきたため、話が途中になっていたのだ。
金太郎が答えたあと、さらに銀子は飛鳥に確認を取るように言った。
「ちょうど女神様が現れたあたりまで話したんだけど。続き……話してもいいわよね?」
「ええ。お願いします。銀子さん」
飛鳥の了承を得てから、銀子が途中になっていた話を再開した。
「さて。それじゃ続きを話しましょうか」
◇ ◆ ◇
角田いきつけの将棋道場────
「な……なんだ…………あれは?」
とつぜん飛鳥の前に現れた女神を見て桐生が驚きの言葉を口にした。
当然、この場にいる他の者も皆同じ心境だ。
「皇飛鳥。あなたのなかに眠る力を解き放つのです」
女神は落ち着いた口調で飛鳥に話しかけた。
さらに言葉を付け加える女神。
「あなたは自分すらも救済できる力を持っている」
すると発狂していた飛鳥が徐々に落ち着きを取り戻していく。
「あ……あたし…………」
だが正気に戻って、また自分の現実を知り、涙を流す飛鳥。
「うっ……うっ……。なんで……こんな…………」
ふたたび角田への怒りが暴走しかけたとき、女神が飛鳥の気持ちを抑制するように優しく語りかけた。
「いま────この次元とひとつ上の次元の狭間で、あなたが大切に想っている者が戦っています」
「あたしの……大切な…………。き、金ちゃん……?」
飛鳥は怒りを忘れ、女神の声に耳を傾け始めた。
飛鳥の意識を怒りからそらすことに成功した女神は、本格的な本題を持ち出し飛鳥との対話に入る。
「そうです。御堂金太郎。彼こそが世界の救世主になりえる者」
「き、金ちゃんが……救世主?」
「そして、あなたも────」
「あたし……も?」
急に目の前で繰り広げられる思いもよらない展開の話に、気持ちがついていかない飛鳥。
「彼を救世主に導けるのは皇飛鳥──あなただけなのです。彼に……御堂金太郎に力を貸してあげてください」
「ど、どういう……ことですか?」
「少し説明が要りますね。まずは今の状況を解決しましょう」
女神が祈るようなポーズをとると、あたり一面がまばゆいほどの光に包まれた。
あまりのまぶしさに、この場にいるすべての者が目を閉じる。
しばらくして光が収まっていくなかで、女神が言葉を口にした。
「私は、あなた方この次元の住人たちが言うところの〝神〟という存在です」
「か……神、さま……⁉」
おどろく飛鳥。
「ええ。あなた方────」
さらに女神が話を続けようとしたとき、角田が女神と飛鳥の会話に割って入ってきた。
「てめェえええ! 邪魔すんじゃねェえええ!」
そう言いながら、飛鳥に自分の存在を認識させて、再び飛鳥を洗脳しようとした。
だが────
「…………」
びっくりした表情で角田を見ている飛鳥。だが暴走する気配はない。
「……あ、あれェ? く、くそォ……! だったら俺様が自ら洗脳してやるゥウウウ! こっち見ろォ、飛鳥ァアアアアアア!」
「…………」
角田の目を見つめる飛鳥。だが、やはり飛鳥が洗脳される様子はない。
「えェ……? ど、どうなってんだァ? お、俺様の洗脳の能力が……消えたァ……?」
動揺する角田に女神が説明をする。
「角田正男。あなたの能力自体が消えたわけじゃないです。それはあなた自身が所有するいわば固有スキル。同時に誰もがもつユニークスキルであって、あなたの個性でもあります」
「わけのわからないこと言うなァアアア! だったら、なんでこれまで出来てたように、飛鳥を思い通りに洗脳できねェんだァアアア!」
「それは、私が竜崎王牙の思念を遮断したからです。私がここにいる限り半径数百キロメートル内に彼の思念は届かないでしょう」
「え、えェ……?」
角田が怪訝な顔を見せた。
そして次の女神のひと言に角田は絶望する。
「それは同時に、竜崎王牙の思念によって能力を暴発していた者たちの能力発動の停止を意味します」
「な、なんだとォオオオ⁉」
その場にいる一同も驚きを隠せずにいる。
さらに話を続ける女神。
「──ですから、いまあなたが『洗脳』の能力を使えないのは、あなた自身がまだその能力を使えるほどの次元に達していないからです」
「お、俺様が無能とでも言うのかァアアア⁉」
怒る角田を女神が諭す。
「いえ。そもそもこの次元に生きる存在であり続ける限り、能力を使えないのが当たり前なのです。皆すべての魂が平等に、それぞれの個性にあった能力を所有してはいますが、同時にほとんどの存在はその能力を使うことができないのです」
そして女神は険しい表情になり続きを話した。
「それは不完全な魂が能力を使えるようになってしまえば、使い方を誤る者が現れてしまうからです──あなたのように」
この言葉を聞いて、角田は下を向き沈黙してしまった。
場が落ち着いてから、ふたたび先の話に戻る女神。
「──さて。話の続きですが……」
女神は、何事もなかったかのように飛鳥との話に戻り、続きを語り始めた。
「本来、我々はあなた方の次元に干渉してはいけない存在です。あなた方は我々の次元を認知することができない存在ですが、我々は意識的にあなたがたの存在や次元を認知できる存在で、あなた方には物理的に理解できない感覚も備えているのです。ここはあなたたち人間の住む世界──いえ……次元というべきですかね? 我々はあなたたちの知らないこと、認識が及ばないことを認知していることもあって、むやみやたらに干渉できないのです──」
女神の話す現実に、呆然とする一同。
女神は、さらに話を続ける。
「──が、今回は特別に力を貸しましょう。厳密にはあなた方が認識できない次元も、あなた方が認識できているこの次元も、同じひとつの世界なのです。場合によっては……この次元の崩壊は、あなたがたが認識していないさらに高次元の世界の崩壊さえも意味します」
「次元、世界の……崩壊」
「ええ。今回の事例は、あなた方の次元で発生した事件であって、本来は我々が手を出してはいけない事例ですが……あの竜崎王牙という魂は非常に危険な存在になりつつあります。あなた方の次元の住人がどうにか出来るレベルを遥かに超えてしまいました」
飛鳥と女神の会話の途中、何度も聞く竜崎の名に戸惑いと苛立ちを隠せず、思わず声に出す銀子。
「竜崎……王牙…………!」
一度銀子の方へ視線を向けてから、ふたたび女神はその視線を飛鳥へと戻し話を続ける。
「……ただ、ひとりだけ彼を止められる可能性のある存在がこの次元に生まれました。それが御堂金太郎です」
「金ちゃん……」
「そして、その御堂金太郎を導くのがあなたの役目なのですよ。皇飛鳥」
「あたしの……役目…………」
「ええ。あなたはこの次元────いえ……もはや世界の存亡に関わる存在なのです」
これには、この場の全員が特に驚きの表情を示した。
「あ、飛鳥ちゃんが……?」
「世界の……存亡に関わる存在……」
入れ替わるように言葉を発する銀子と響香。
女神が飛鳥に右手をかざしながら言った。
「先ほども申しましたが、この次元から発生した事象に関しては、我々は直接手を下せないのです。そして……あなたの魂はすでに覚醒の門の手前まで来ている。だから、皇飛鳥…………」
この場にいる全員の視線が一斉に飛鳥に集まる。
そして女神の口から飛び出した言葉────
「…………私があなたの力を引き出してあげましょう」




