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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第百四話「洗脳ループの罠」

 しばらくして飛鳥を解放すると、角田かくたは満足気な表情で口元を拭いながら言った。

「ひゃはははァ! 信じられないって顔だなァ。でもォ! おまえらがいくら否定しようが、もう飛鳥あすかは俺様のモノなんだってことは現実ゥ! 現実は事実ゥ! 起こった事実は、もう変えられないんだよォオオオ! わかるゥ!?」


 銀子ぎんこ響香きょうか、そして桐生きりゅうの三人は、無言で角田を睨みつけている。


「そんな目で見たって何も変わらないんだってェ……! 俺様と飛鳥が二度と元に戻らないようにィ……! 飛鳥の心と身体に刻み付けられた俺様との関係も、二度と消えることはないんだよォオオオ!」

 そう言ってふたたび飛鳥にキスをする角田。

 飛鳥は嫌がることもなく、ただ虚ろな目で角田のキスを受け入れている。


「飛鳥ちゃん……」

 銀子が無意識に名前を口にした。


 角田を睨みつけている三人の顔をじっと見つめてから角田が口を開いた。

「……おまえらがいま考えていることを当ててやろうかァ? 飛鳥の洗脳を解いたあと、暴走しないように注意すれば、ひとまず俺様の洗脳から逃れられるって──そう考えてるんじゃアないかァ?」

「──ッ!」

 思いっきり顔に現れたのは響香。似たようなことを考えていたことが角田に伝わってしまった。

 銀子と桐生はポーカーフェイスを貫いてはいたが、頬に流れる汗までは隠しきれていない。


 三人の様子を見て、さらに勝ち誇った顔に変わった角田が言った。

「変な希望を持たないように教えておいてやるがァ……。仮に飛鳥の洗脳が解けたとしても、俺様の再洗脳は()()()発動するようになってるからァ!」


 この角田の発言に、響香が反応する。

「ど、どういうことですか……?」


 響香の問いに答える角田。

「飛鳥の洗脳が解けた時ィ、いったい飛鳥にはどういう感情が芽生えるかァ……わかるゥ?」


 この角田の発言のあと、銀子の顔に絶望の色が浮かんだ。

「ま……まさか⁉」


 銀子の反応を見て、角田が楽しそうに答えを口にする。

「気づいたかァ? そうだァ! 洗脳が解けた時、飛鳥は自分の身体に刻み付けられた俺様のマーキングを見て怒りに狂うだろォ?」

 三人の顔を順番に見ながら、さらに言葉を続ける角田。

「その時どうなるかァ? 汚れた自分に絶望するゥ! 飛鳥は俺様を殺したいって憎むゥ! そしてェ──その負の感情の暴走が、竜崎りゅうざきの思念を呼び込むゥウウウ!」


 ドヤ顔で気持ちよさそうに解説する角田に殺意を覚える響香。

「あなたって人はっ……!」


 響香の軽蔑する視線を受けながら角田が続きを口にする。

「いくら吠えても負け犬の遠吠えェエエエ! おまえもいずれ再洗脳してやるから楽しみにしてろよォ、響香ァアアア!」


 響香を威嚇してから、ふたたび角田は解説に戻って言葉を続ける。

「……竜崎の思念によって飛鳥の体内で最初に反応するのは誰の能力かなァ? ……そうだァ! 俺様が植えつけてやった再洗脳の能力ゥ。つまりィ……飛鳥は俺様へ憎悪を向けることで自ら俺様の再洗脳を発動し、自動的に俺様を愛する飛鳥へと舞い戻るようになってるのだァアアア! ひゃっはァアアアアアア!」


「そ、それって……」

「ふひひィ……。これが俺様が飛鳥に仕込んでやった完全な洗脳ループの正体だァ!」

 動揺する銀子たちに向かって勝ち誇る角田。



 つまり──

 もし飛鳥の洗脳が解けたとしても、その変わり果ててしまった自分の身体と角田を愛するように仕込まれた心の記憶によって、飛鳥の絶望と憎悪の心が暴走。

 その結果、本来であれば角田同様に竜崎の思念によって飛鳥自身の能力が目覚めるはずなのだが、角田に仕込まれた飛鳥の身体は角田に植えつけられた角田の再洗脳の能力が先に発動してしまい、飛鳥自身の能力は竜崎の思念の干渉を受けることがないまま、角田に洗脳された状態に戻ると言うのだ。

 それも角田の意志とは関係なく──。


 角田は飛鳥の肩を撫でながら、さらに言葉を続ける。

「俺様は負けると発狂して意識を失っちまうようだが、その原因はわかってないィ。だがァ、どうやらそのタイミングで洗脳が解けちまうらしいってことは、もう俺様もわかってるんだよォ。その対策として飛鳥の身体のなかに俺様の遺伝子を注入してやったァ。結果、飛鳥は絶対に俺様から逃れられない身体になっちゃったってわけだァ! 結果オーラァイィイイイッ!」


 すでに飛鳥は手遅れなのだということを三人にわからせた上で、満足気な表情を浮かべながらまたしても飛鳥にキスをする角田。

 見せつけるように、何度もしつこくキスをしていく。


「もう十分です……! わかったから、もう……」

 響香は顔を赤らめながら、目を逸らして言った。



 そのとき────



 突然、あたりがまばゆいほどの光に包まれ、その場にいた全員が目を閉じた。

 しばらくしてから、それぞれがゆっくりと目を開いてあたりを確認しはじめている。


 最初に気づいたのは銀子だった。

「なに……あれ?」


 飛鳥の目の前に浮遊していたのは光を放つクロスレイドの駒とカードらしき物体。


「なんだァ……これはァ⁉」

 角田がその駒とカードを強引に取ろうと手を伸ばす。

 だが、触れようとした角田の手を弾き返すように駒とカードが激しく発光し、バチンという大きな音とともに角田は後方へと吹き飛ばされた。

「痛てェエエエ⁉」

 思わず悲鳴をあげる角田。



 同時に、飛鳥の瞳に光が戻った。

「……あれ? あた、し……。何やって──」


 角田の洗脳が解けたのだ。


「な、なんだとォ……⁉ どうして俺様の洗脳がァ……?」

 角田も驚いている。

 なぜなら唯一その洗脳が解ける可能性があったのは、角田自身が勝負に負けるなどのタイミングで発狂を伴う気絶を発症した場合のみだと思っていたからだ。


「飛鳥さん!」

 思わず飛鳥に手を伸ばす響香。


 飛鳥は度重なる洗脳によって記憶が混乱しているようだ。

 はっきりと状況が飲み込めない飛鳥に、声をかけたのは角田だった。


「おいィ……飛鳥ァ! こっち見ろォオオオ!」

 なにかを企んでいるのか、その顔には鬼気迫る笑顔が浮かんでいた。


「あ……あ……⁉ か、かく…………たッ……! ま、まさッ……お……?」

 ひとりの人間に対して両極端なまでの愛情と憎悪を同時に抱くように仕込まれてしまったことで、もはや角田に対しての自分の感情さえもわからなくなってしまっている飛鳥。

 混乱して、その瞳孔は大きく開き、身体は震えている。


「飛鳥ちゃん! 角田くんを見ちゃダメ! 余計なこと考えないでっ……こっちに戻ってきて!」

 銀子も必死で飛鳥に呼びかけている。


「ぎん、こ……さん?」

 銀子の方へと視線を向けた飛鳥の顔は、すでに普通ではなくなっていた。

 涎を垂れ流し、目の焦点も合っていない。


 何度も洗脳され、元に戻ってはまた洗脳されて──

 その度に膨大な情報量が無理やり書き換えれる────

 もう飛鳥の脳は限界を超えていた。


 そして──

 処理能力が遅れていた脳が、時間差で忌まわしい記憶を飛鳥に呼び起こす。


「あ……あッ……⁉ うァああああああッ……! あ、あた、あたッ……! あたしィイイイイイイ!?」

 青ざめた顔で発狂する飛鳥。

 先ほど自分で掻きむしった自分の腕を見て、また涙を流す。

 掻きむしった腕は傷だらけ。そこには消えていない角田のタトゥー。


 ふたたび飛鳥の憎悪が増幅される。


「こ、こいつのせいでェエエエ! あたしがッ……! なんでこんなやつが生きてるのォオオオ……!」

 飛鳥は角田に向かって怒りを顕わにする。


 先ほどと同じ展開──


 角田の顔に卑しい笑みが浮かぶ。

「ひゃははァ! そうだァ! こっちを見ろォ……飛鳥ァ! 俺様を憎んでェ……また勝手に洗脳状態に戻れェエエエ!」

「うァアアアアアア⁉ こんなやつゥ……生きている価値なんてないィイイイイイイ────────ッあ……⁉」

 怒りをぶちまけていた飛鳥の身体が急に大きく一回跳ねたあと、小刻みに痙攣し始めた。


「うひゃひゃ! どうだァ……銀子ォ! こういうことだァ! 結局、飛鳥は洗脳が解けてもこうなっちゃうんだよォオオオ!」

「角田くん……あなた! これ以上やったら飛鳥ちゃん……本当に脳がどうにかなっちゃうわよ⁉」

「知るかァ! 飛鳥が俺様から離れようとするのが悪いんだろォ⁉ 他人のモノになるくらいなら、いっそのこと頭なんてイカれちまえばいいんだァアアア!」

 飛鳥が痙攣している横で、角田と銀子の口論が続いている。


 だが先ほどと同様に、飛鳥が自ら角田に再洗脳されたように思えた、その時──




『魂を解き放ちなさい。すめらぎ────飛鳥』




 聞き覚えのない透き通った女性の声が響き渡った。

 その場にいた全員の視線が、一斉に飛鳥の上空に向けられる。


「なんだ……あれは? あの駒から出てきたのか……?」

 桐生が驚いた表情で呟いた。



 そこには女神のような神々しい女性の姿があった。

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