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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第百三話「飛鳥狂乱」

 銀子ぎんこ飛鳥あすかのもとへと駆け寄り、必死で声をかける。

「飛鳥ちゃん……⁉ ちょっと飛鳥ちゃん!」


 響香きょうかは心配そうな表情で飛鳥にひざまくらをしており、桐生きりゅうは少し離れた位置からその様子を無言で見つめていた。



 およそ四年前。

 銀子は、クロスレイドのダブルス大会決勝戦の様子を観客席から観ていた。

 そのときも金太郎きんたろうに追いつめられ、負けが確定した角田かくたが発狂し、飛鳥を道連れにして気絶したのだ。


 今回も飛鳥が銀子に負けた瞬間──

 つまりチームとしても敗北が確定した途端に角田は発狂した。


 なにか精神的に追いつめられると()()()()のだろうか?

 竜崎りゅうざきの呪いかなにか──


 銀子がそんなことを考えていると、しばらくして飛鳥が目を覚ました。

「うっ……! ここ、は……?」


 額に手を当てて、ゆっくりと身を起こす飛鳥。


「飛鳥ちゃん……!? だ、大丈夫なの?」

 目を覚ました飛鳥に気づいた銀子が、いろいろな意味で心配の声をかけた。


「わたし……なにをして…………」

 ぼーっとした表情で、飛鳥は独り言を呟いている。



「なにも覚えておらんのか?」

 今度は桐生が横から飛鳥に声をかけた。


「……覚……え、てって……?」


 桐生の言葉を聞いた飛鳥が、自分の記憶を探り始めたそのとき──


「…………あ!?」

 飛鳥の顔がみるみる青くなっていく。

 自分の身体を探るように触りながら、なにかを確認している。


 あちこちについたピアス──

 そして震える右手を自分の左肩に添えて、恐るおそる左肩に視線を向けた飛鳥。



 飛鳥の左肩に刻み込まれた角田マークのタトゥー。



「……あ……あ…………」

 飛鳥の目から涙があふれ出した。


「あぁああああああああああああッ……⁉ な、なんでっ……! なんで、あたしの腕に……こんなモノがぁあああっ!」


 飛鳥は右手の爪を立てて、自分の左肩に刻まれた角田のマークを削り取ろうと、必死で掻きむしっていく。

 飛鳥が掻きむしった跡は赤くミミズばれのように腫れあがり、ところどころから血が滲み出していた。


 左肩のタトゥーを消そうと、泣きながら自分の肩を一心不乱に掻きむしる飛鳥。

 それでも角田に刻み付けられたタトゥーが消えることはない。


「ちょ、ちょっと……飛鳥ちゃん!? や、やめなさい!」

 すぐに銀子が飛鳥の右手首を掴んで、掻きむしるのを制止した。


 飛鳥の左肩には掻きむしった爪痕が痛々しく残る。


「……放してっ! は……はやくこんなの消さなきゃ……。こんなの……あたしじゃないからァアアアアアア!」

 必死の形相で涙をこぼしながら銀子を振りほどこうとする飛鳥。


「お、落ち着いて! じ……自分の身体を傷つけるなんて、駄目よ……飛鳥ちゃん!」

 飛鳥を制止している銀子の腕にも飛鳥の爪が刺さり、血が滲み出している。

 それでも銀子は、痛みに耐えながら飛鳥を放そうとはしない。


「な……なによ⁉ 銀子さんは綺麗な身体だから、そんな他人事みたいに言えるのよっ……! あ、あたシの……からっ……カラだ…………ハ、こんナふう、にっ……ナっちゃっ……たぁアアアアアアアアアアアアっ……⁉」

 大粒の涙をこぼしながら銀子を攻撃するように当たり散らす飛鳥。

 次第に瞳の周囲が赤く濁りはじめ、その視線が宙を彷徨う。


「ワ、わわワ……ワタ、し……ばカりッ…………こんなァアアアアアア! なんでッ……! なんデェエエエエエエエ……! 」

 そのまま飛鳥は銀子を押し倒して馬乗りになると、涙のほかに涎も垂れ流しながら銀子に襲いかかった。


「ぎ……ぎン、コっ……さん、バ…………かりっ! こんな綺麗なままデっ……! ズ……ずるイっ……! どうセ……よ、ヨゴれちゃッた……あた、シを……見下してルんでショおォオオオオオオっ⁉」


「……あ、飛鳥ちゃん…………」

 大きく目を見開いて、困惑した目で飛鳥を直視する銀子。


 すると、その直後──

 銀子は強く握っていた飛鳥の右手首をそっと放し、目を閉じて小さな声でひと言を口にした。

「ごめんね……飛鳥ちゃん」


「え……銀子っ⁉」

「い、いかん!」

 銀子の気持ちを悟った響香と桐生が、慌てて飛鳥を止めに入る。


 銀子にありったけの怒りをぶつける飛鳥。 

「そう、ヤっ……て……偽善、者ブッて────っ⁉」


 だがその時、偶然目の前にあった鏡に映った自分の姿が飛鳥の目に入った。


 銀子を押し倒して傷つけようとしている自分。その銀子を護るために自分を羽交い絞めにしている響香と桐生。

 怒りに歪んだ醜い自分の顔────

(ナニ、コレ……? コレが……あたシ? まるデ悪モ、ノ……。み……ミにく、い……。醜イィイイイイイイっ!)


 急に響香と桐生を払いのけて立ち上がると、飛鳥はフラフラと辺りを彷徨い、壁に立てかけてあった掃除用のモップを手に取った。


「────イツ、が……あた、シ……をッ!」

 何やらブツブツと呟きながら角田の方へと近づいていく飛鳥。


「あ、飛鳥……ちゃん?」

 銀子が半分その身を起こして飛鳥の名を口にした。


 飛鳥は、泡を吹いて気絶している角田の前で足を止めると、手に持っているモップを両手で強く握りしめて、高く振りかざした。


「飛鳥さん⁉」

「ダメよ! 飛鳥ちゃん!」

「……こ、コイツが……あたシをォオオオオオオっ……!」

 さらに憎悪で歪んだ顔に変貌した飛鳥が、角田めがけてモップを振りかざそうと力を込めた。



「コいツ、さえ……イなけれバっ……! コんなゴミィ……! コイツガっ……! こいつガぁあああッ!」


 飛鳥がモップを振り下ろそうとした瞬間──



「……ッあ⁉」

 急に白目を剥いて身体を大きく痙攣させた飛鳥。


 それから数秒間、ビクンビクンと小刻みに身体を痙攣させていた飛鳥だったが、次第に落ち着いてくると同時にモップをゆっくり降ろし、そのまま地面に落とした。


 そして無言のまま身体を屈めて、角田に抱きつく飛鳥。


「……えっ?」

 その様子を見た銀子と響香、そして桐生は、混乱を隠せずにいた。



「ヒヒヒ……! よしよし……イイ子だぞォ……飛鳥ァ!」

「……はい。ただいま戻りました……()()()()

 飛鳥を抱き寄せながら身を起こす角田。

 

「……角田くんっ⁉ いつの間に意識を……!」

「そ、それよりも……飛鳥さんが……」

 銀子と響香が、表情を強張らせながら言った。


 間違いなく飛鳥は、ふたたび角田の洗脳支配下に戻ってしまっている。



「もしかして、角田くんの意識が戻ったから飛鳥ちゃんが……?」


 銀子が呟いた独り言に角田が反応する。

「それは違うなァ……銀子ォ。仮に俺様の意識がないあいだに飛鳥の洗脳が解けたとしてェ……。その場合、俺様が意識を取り戻せば自動的に飛鳥を洗脳状態に戻せるなんていう都合がいいことは流石の俺様にも不可能だァ」

「だったら…………」


 混乱気味の銀子を見て、少し考えてから角田が口を開いた。



「……飛鳥には俺様の遺伝子を入れてやったァ」



「…………え?」

 角田の発言に言葉を失う銀子。



「最近じゃ、俺様も自分の能力について調べてェ研究していてねェ……いろいろとわかったんだよォ! 御堂も親切に必死で調べてくれたしねェ……! ひゃッはァアアア!」

 角田の説明が続く。

「飛鳥を将棋愛好家に変えてやったことで、飛鳥も俺様同様に負の感情が増幅すると竜崎りゅうざきの影響を受けて暴走する身体になってるだろォ?」

 角田の言葉に顔を歪める銀子たち。

 だがそんなことはお構いなしに、さらに言葉を続ける角田。

「いずれ飛鳥も俺様の『洗脳』のような能力を発現する可能性があるわけだがァ……。もし、それが俺様の能力に抗える能力だったら都合が悪いからなァ……!」


 ここまで聞いて、銀子がハッとしたような表情で口を挟んだ。

「まさか……」

「気づいたのかァ? 察しがいいなァ……銀子ォ!」


「あ、飛鳥ちゃんの能力の抑制……!」

「そォう! その通りィイイイ!」


 飛鳥の身体に起こっている現象について、角田がすべて説明をした。


 まず──

 いまの飛鳥が負の感情に支配された時に発動する能力は『角田の洗脳能力』だということ。

 そして、その洗脳の標的が飛鳥自身になっているということらしい。


 つまり角田の意志による洗脳思念が、飛鳥の身体と感情を介して発動しているということだ。


 なぜ飛鳥自身の能力が発現しないのかという点については、竜崎の思念により暴走した飛鳥の負の感情が、飛鳥自身の能力に干渉する前に、角田が植え付けた角田遺伝子がそのすべてを吸収し奪い取っているからだという。


 結果的に飛鳥は負の感情が暴走させると、自ら角田に洗脳されるように作り変えられていたのだ。



「そ……そんなこと……どうやって……?」

 銀子が独り言のように疑問を呟いた。



 もともと竜崎の思念に侵された将棋棋士の近くにいるだけで、その人物も少しずつ影響を受けてしまうと言われている。

 だが、さらに親密な状態にある者は、より強い影響を受けるとも言われているのだ。


 角田の話では、この〝影響〟というのが、すなわち遺伝子情報の植えつけ、もしくは書き換えだという。


「……ここまで聞けば、いい加減にわかるだろォ…………?」

 角田はそう言ってから、飛鳥のあごに手を当てて上を向かせた。


「えっ……⁉ ちょっと角田く──」

 驚いた銀子が慌てて声を上げたが、次の瞬間────



 その場にいた全員が言葉を失い、しばらく沈黙が辺りを包んだ。



 三人の目の前で飛鳥とキスを交わす角田。

「…………もう俺様のモノだァ」

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