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超変則将棋型バトルゲーム クロスレイド  作者: 音村真
第七章 次元激闘篇
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第百二話「蘇る記憶」

 桐生きりゅうが、銀子ぎんこ飛鳥あすかの対局へと目を向ける。

 盤面はほぼ互角だが、飛鳥の顔色が悪い。

 調教の一環として、これまで毎日のように角田かくたに将棋漬けにされてきた飛鳥。

 それなのにクロスレイド一筋であるはずの銀子と互角という状況に焦りを感じているのだろう。


 また角田の再洗脳が、飛鳥の心に及ぼしている影響も計り知れない。

 完全洗脳による心の支配。

 強制的に植えつけられた角田への絶対的な服従心。


 この対局で負けることは、角田への信頼に背くことになる。

 角田からの愛を失いたくないという想いが、この対局での負けを拒んでいるのだ。



「ふむ……。ほぼ互角だな」

 桐生が、銀子と飛鳥の対局を見ながら言葉を続ける。

「まあ──。仮にそっちの女子おなごが勝っても、どうせ次にわしに勝てねばこちらの勝ちだ。さっさとリタイアしてくれた方が面倒ごとが減って助かるのだがな……」



 今回の将棋バトルのルールについて、もともとクロスレイドのダブルス戦を想定したまま、角田によって将棋対局勝負へと誘導されてしまったため、はっきりとした勝敗の行方が不明確だった。

 そのため、勝負が開始される前に桐生の指摘と提案によって、勝敗のルールが明確化されていたのだ。


 今回の勝負は二手に分かれてのチーム戦となった。

 将棋盤を三面使った三人対三人での勝負なら何の問題もなかったのだが、角田チームが角田と飛鳥のふたりしかいなかったため二面を使って二人対二人での勝負となっていた。 


 つまり桐生が指摘していたのは、どちらかのチームが二勝してしまえば必然的に勝敗は決まるのだが、一勝一敗ずつになってしまった場合どうするかという点においての提案だったのだ。

 結果『もし一勝一敗ずつになってしまった場合、それぞれの対局で勝った方同士が決勝戦をして勝敗を決める』というルールが設けられていた。

 この条件は角田にとって圧倒的に不利なわけだが、相手があの桐生宗介(そうすけ)である以上、反論できなかったところもある。

 一度は反論してみたものの、半ば無理やり決められてしまったような形だ。

 

「ちょ……ちょっと待てェエエエ! まだ響香きょうかは対局してねェんだから、やっぱり最後の対局は響香にやらせろォオオオオオオ!」

 角田が発狂するように大声をあげた。


 当然と言えば当然だろう。

 このままいけば、仮に飛鳥が銀子に勝てたとしても、飛鳥と桐生で勝敗を決することになるのだ。勝てるわけがない。



 すると桐生は響香の方を見て、しばらく何かを考え事をするかのような素振りを見せてから答えた。


「……駄目だ」

「な、なんでだよォオオオ……!? 天下の桐生宗介ともあろう者が、ビビってんのかァ……⁉」

「何と言われても構わん。だが、わしは弟子にこいつらのことを頼まれておるのだ。リスクのある博打は出来ぬ」


 何とかルールを変更しようとしている角田だが、桐生は角田の要望に応えようとはしない。


「たとえば──おまえたちのどちらかが、この場で最強だったとする。そうした場合、そっちは二度最強の人間を使えることになってしまうだろう」

「それを言ったら、アンタが二度もしゃしゃり出てくる方が汚ねェだろォオオオ!」

「それは結果論だ。勝負前にも話したが、ふたりずつで勝った者同士で決勝戦──という方がルール的にフェアだという話で決まったはずだ」

「だけど、実際にアンタがそっち側にいるだろうがァアアア!」


 意地でも引こうとしない角田を前に、ため息をつく桐生。


「こちら側にわしがいるとかいないとかの問題ではない。あくまでルールとして公平な方法を提案したまでだ」


 実際に理屈的には桐生が正しい。

 だが角田の立場からすれば、すでにこの場にいる五人のなかで桐生だけが圧倒的に強いということがわかっている以上、どうしても納得がいかないのも無理はない。


 しかし、もしこの場に桐生が存在しなくなった瞬間、今度は角田がいる方が圧倒的優位な状況になるのも事実だ。

 実際に角田自身もそれがわかっているから、自分側が有利になるようにクロスレイドでの勝負をわざわざ将棋に変更したのだ。


 極端な話──

 もし一人対一人の対局だとしても相手が桐生となれば、誰もが『勝てるわけがない』と感じることだろう。


 その場にいる人間の力量差が明確に判明している時点で、どうやっても結果が見えてしまう場合も多いということだ。



 仮に銀子が負けて、響香と飛鳥で三戦目が行われた場合──

 響香が勝てる見込みがまったくのゼロというわけではない。

 だが桐生は、確率的には飛鳥が勝つ可能性の方が高いと踏んでいた。


 桐生はこの勝負事の前に、銀子と響香に将棋の腕前における自己評価を確認していたのだ。

 その上で、銀子と響香の将棋における力量が飛鳥よりも下だという判断を下していた。


 もし被害が自分のみで済むのなら、桐生は茨の道を選ぶことも厭わないだろう。

 だが、今回ばかりは負けるわけにはいかないのだ。



「くっそォ……セコいこと言いやがってェ……!」

「卑怯と思うなら勝手に思え。悪いがあと一戦あるなら……戦うのはこのわしだ」

「ぐゥウウウ……!」


 そもそも状況的に桐生の提案がルール上もっともフェアであることは間違いないのだが、桐生自身は自分の言い分にさぞ不満を感じていることだろう。

 自分の存在がバランスを破壊していることを理解した上で、あえて自分たちに有利になる条件で提案しているのだ。

 本来なら、わざわざ自分に不利な条件での勝負を好む桐生にとって屈辱以外の何ものでもない。

 それでも、どちらの方が有利だの不利だの言い出したらキリがない状況で、そうすべき理由が桐生にはあるということだ。



「──ま、負けました……!」


 角田が駄々をこねていると、隣から声が聞こえてきた。

 飛鳥の声だった。


「……口論は無駄になったな」

 桐生が目を閉じて静かに言葉を口にした。



 これで銀子と響香は角田の再洗脳を受けずに済んだわけだが────




「おごォオオオオオオオオオオオオッ…………⁉」

 急に白目を剥いて発狂し出した角田。



「まさか…………⁉」

 角田の様子に反応したのは銀子だった。

 すぐに飛鳥へと視線を移す銀子。

 案の定、角田の反応に呼応するように、飛鳥が気絶してその場に倒れ込んだ。


「飛鳥さん……!?」

 響香が慌てて飛鳥を抱き上げながら呼びかけた。

 だが飛鳥の反応はない。


 その傍らで泡を吹いて倒れる角田。



「……四年前のときと同じ────」

 銀子は眉間にしわを寄せ、額に汗を浮かべながらそう口にした。

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