第百話「スピニング・セイバー」
「強制進化…………なるほど」
ガブリエルが呟くように言葉を口にした。
ガブリエルの様子を見ながら、警戒気味に挑発をする銀子。
「……どうしたのかしら? もうお手上げ?」
だがガブリエルは、銀子の質問を無視して高笑いを始める。
「フフ……ハハハ……! フウッ……ハハハハァアアアアアッ!」
「なにがそんなにおかしいんですか……?」
狂ったように笑うガブリエルを、響香が睨みつけながら言った。
「いや……なに。ただ、今のでわかったということだ。その女のドラゴンの能力が無制限ではないということがな。むしろ1回だけの回数限定の能力か、もしくは短期時間制限付きの限定能力だろう」
「……面白い推測ね。なぜそう思ったの?」
「貴様のドラゴンは間に合っていた。──にも拘らず、あのタイミングで強制進化。もし永続的に無敵だというのならば、縦となるのにわざわざ強制進化などさせる必要はないだろう」
律義に銀子と響香の問いに答えていくガブリエル。
「もうひとつ──。進化前の状態で貴様のドラゴンが俺の攻撃を受けたのは1回だけ。つまり……その効果は1回限定という可能性が高い!」
ガブリエルは、勝ち誇ったような表情で推理を口にした。
銀子と響香は、黙ってガブリエルを見つめている。。
「言葉なしか。くくく……それは逆に正解だと言っているようなものだぞ? まあいい。そうとわかれば、防ぎきれなくなるまで攻撃しまくるまでだ」
ガブリエルは首をボキボキと鳴らしてから言葉を続ける。
「進化前の状態で1回限定の能力……。進化してから、すでに1回効果を発動しているな?」
不気味な笑みを浮かべたガブリエルを前に、銀子と響香が身構えた。
「進化することで発動可能回数が増えるパターンもあるだろうが……場合によっては、もう発動できない可能性もあるな」
ガブリエルの視線は、桂、銀子、響香、そして〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉と〈スパーク・ドラゴン〉へと順番に向けられていく。
まるで、次に攻撃する対象を品定めしているかのようだ。
「そうはさせません!」
ガブリエルが動く前にそう言葉を発したのは響香。
右手を前にかざしながら召喚口上を唱え始めた。
ガブリエルが行動に移ってからでは間に合わない──
そう思ったのだろう。
「他者の追従をも許さぬ鋼鉄の女王! 落とした涙は水滴となり、疾風の如く駆け抜────」
「フハハ! 馬鹿めえっ! 進化口上など最後まで待ってやるわけなかろうがっ……!」
響香の詠唱の途中、今度はガブリエルが開いた右手を前にかざすと〈デビルズ・ロー・ピクシー〉の群れが一斉に響香に襲いかかった。
「いけっ……デビルズ・ロー・ピクシー! その女を殺してしまえ!」
「きょ……響香さん!」
しばらく様子を見ていた金太郎が声をあげた。
だが次の瞬間、一斉に響香に群がっていた〈デビルズ・ロー・ピクシー〉たちの動きに異変が現れた。
次々とその場へと倒れ込むように崩れ落ち、消滅していく〈デビルズ・ロー・ピクシー〉たち。
「──残念。確かにわたしの〈シルバー・ドラゴン〉の効果『無敵装甲』は、あなたの予想したとおり進化前は一回だけの限定効果だけど、進化した状態では二回まで発動できるのよ」
「なるほど……運が良かったな。最悪な展開だけは避けたか」
すでに想定していた可能性のひとつだった為、ガブリエルは特に驚くこともなく、むしろ不気味な笑みさえ浮かべている。
そして〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉によって護られた響香の進化口上の続きは、無事に最後まで読み上げられた。
「──けた夢の跡には、塵さえも残さぬ永遠の火花────! 見せてあげます! 超軼絶塵! 〈スパーク・ドラゴン・フンケ〉!」
「ちっ……そっちのドラゴンの進化も許してしまったか。だが──もうすでに無敵化可能な銀色のドラゴンは進化済みで効果も使い果たした! 今度こそ始末してやる!」
次にガブリエルが必死の形相で狙ったのは銀子の〈シルバー・ドラゴン〉だった。
〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉が使った『無敵装甲』の回数は、先ほど響香を守ったので二回目。
銀子の言葉に嘘がなければ、もう今の〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉は『無敵装甲』を使うことはできないはずなのだ。
「もはや我が精神力も限界だが、その銀色のドラゴンさえ始末してしまえば……!」
ガブリエルは、そう言ってから右手を前に突き出して『天国の裁き』を放つべく辺り一面に轟くような大声で吠えた。
「死ねぇえええええええええっ!」
ガブリエルの必殺技『天国の裁き』。
破壊力が強力な分、精神力の消費量も多く、そう何回も発動できる技ではないのだ。
ガブリエルはこう考えていたことだろう。
〈シルバー・ドラゴン〉さえ始末してしまえば、あとは自力でなんとかなる──と。
だが────
「私は〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉を強制退化させます!」
予想していなかった響香の言葉が、ガブリエルの背後から聞こえてきた。
「強制…………退化、だとぉおおお……⁉」
振り返り、まるで信じられないものを見るかのような目を、背後にいる響香に向けたガブリエル。
その表情には、間違いなく絶望に満ち溢れていた。
退化したことで、ふたたび『無敵装甲』を発動可能になった〈シルバー・ドラゴン〉。
「ば……馬鹿なぁああああああ……!」
発動をキャンセルすることが出来ずに、無駄に放たれてしまった『天国の裁き』は『無敵装甲』を発動した〈シルバー・ドラゴン〉に直撃──
〈シルバー・ドラゴン〉は、当然のように『天国の裁き』を無傷で防いだ。
虚ろになったガブリエルの視線が、宙を彷徨っている。
「……その顔は〝もう詰んだ〟って顔ね」
銀子の表情に、いつもの不敵な笑みが浮かんだ。
放心状態になっているガブリエルからの返事はない。
その様子を見て勝利を確信した銀子だったが、さらに勝利を確実なものにするための最後の一手にでる。
「まあ……もう必要ないかもしれないけど、もしかしたらまだ何かしてくるかもしれないから、念のため────」
右手を前に突きだし、言葉を続ける銀子。
「当然……自力で退化は出来ないけど──自分で進化くらいは出来るわ」
銀子は、そう言ってから進化口上を唱え始めた。
「互いが信頼すべきは一つの事象! 相反する二つの言霊は、反芻された銀色の信念の元に融合して一つの答えを構築する! これで終わりよ! 二律背反────! 《シルバー・ドラゴン・アルジェンテ》!」
響香の強制退化によって〈シルバー・ドラゴン〉へと退化した〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉が、再び〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉へと進化した。
再進化した〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉の持つパッシブスキル『無敵装甲』の発動回数が二回に回復する。
「まだ自慢の必殺技を打ちたかったらどうぞ──また防いであげるから。ま……どちらにしても、もうあなたは必殺技を発動しすぎて精神力は残りわずかでしょうけどね」
銀子は、そう言って冷たい視線をガブリエルに向けてから、最後にひと言付け足した。
「────終わりね」
ガブリエルは目を見開いたまま俯いて、何やらブツブツと言葉を口にしている。
「いくわよ──響香!」
「……はい!」
銀子の言葉に呼応して、響香が銀子のもとに駆けつけた。
そして隣同士に立った銀子の右手と響香の左手が同時に前に突き出され、ふたりが同時に技名を叫ぶ。
「ストーム・セイバー!」
「スピニング・ショット!」
銀子の〈シルバー・ドラゴン・アルジェンテ〉が放った『ストーム・セイバー』は、まるで嵐のような突風に刃のようなエフェクトが入り混じってガブリエルを襲う。
そして響香の〈スパーク・ドラゴン・フンケ〉の『スピニング・ショット』は、超高速回転するエネルギー弾を何発も相手に向けて放つ技だ。
その『スピニング・ショット』が、『ストーム・セイバー』の作りだした嵐の中に混ざり、『ストーム・セイバー』自体の刃と一体になってガブリエルに襲いかかる。
「ぐっ……あぁああああああああああああッ……⁉」
『ストーム・セイバー』と『スピニング・ショット』の合体技『スピニング・セイバー』を、もろに食らったガブリエル。
ガブリエルは抵抗する素振りすら見せず、そのまま遠くを見るような表情で消えていく。
そして完全に消滅する前──
「……後悔したくなけ、れ……ば、竜、崎王……牙、に……は、関わら……な、い……こと、だ──」
そう言葉を残して、ガブリエルの中にいた名も知れぬ将棋棋士の魂は消えていった。
そのガブリエルの最後の言葉が、金太郎たちに不安をもたらす。
「…………竜崎……王牙……」
金太郎が無意識に呟いた。
銀子と響香が加わって六人になった金太郎たち一行は、竜崎のいる方向へ視線を向けた。
金太郎たちの視線の先にあるのは、大きな太陽。
「目的地まで、もう少しだな……」
「ああ……! 待ってろよ、竜崎!」
将角と金太郎が闘志を燃やしながら、言葉を口にした。




