魔力持ちになりました
真っ白い光が消えた後には、アシュイラの花の代わりに小さな石のようなものが落ちていた。キャスリンが手に取ると、それは小さな小石ほどの大きさで、アシュイラの花と同じ黄色をしており表面はつるっとしていた。よく見ると周りをアシュイラの葉に囲まれたアシュイラの花が描かれている。
キャスリンがその石のようなものを掌の上でじっくり眺めていると、先ほどの光よりは小さいながらもピカッと白く光って、まるでキャスリンの手に吸い込まれるかのように消えてしまった。
それと同時にキャスリンの体が大きく揺れた。
「あらっ、どうしたのかしら」
キャスリンは急に眠気を感じた。意識があったのはそこまでだった。
「ねえスティーブ。どうして公爵家ばかり悲しいことが起きるのかしら。とうとうお兄様も王都を出てしまわれたわ。暴動の鎮圧とおっしゃっていたけれど、どうしてお兄様が行かなくてはいけないの?ほかの家もあるでしょうに。今までこの国で大きな暴動なんて起きたこともなかったわ」
「そうですね。物騒になったものです」
そう言ったスティーブの顔は、何か深い悲しみを背負っているかのように憂いを帯びていた。
「人はしたくなくてもやむなく悪に手を染める者と、進んで悪に身を捧げる者とおります。お嬢様、どうぞそれをお忘れにならないように」
「どういうこと?何を言ってるの?スティーブ?」
キャスリンははっとして目が覚めた。思わず体を起こすと自分の部屋のベッドの上だった。
「お嬢様大丈夫ですか」
そばにはバーバラが控えてくれていた。とても心配そうな顔をしている。
「私どうしたのかしら?」
「父の前でお倒れになったのです。父が慌ててこちらに運んでまいりました。医師の診察では特に問題はないとのことでしたが、何かお変わりはございませんか」
「そうなの。なんともないわ。またスティーブの夢を見ていたの」
「そうでしたか。皆さん心配しておいでのようですので、連絡してまいりますね」
そう言ってバーバラは部屋を出ていった。
キャスリンが窓を見ると、まだ外は明るい。そう時間はたっていないようだ。それにしても夢の中でのスティーブの言葉が気になった。あまりに鮮明だったのだ。あれはいつ話したのだろう。
外の廊下を急いでこちらに向かってくるいくつかの足音がした。
「「「キャスリン!」」」
部屋に入ってきたのは、当主であり父親のスコットと母親のミシェルそして兄のクロードだった。
あとから執事のマークにバーバラが続いて入ってくる。
「ごめんなさい。心配かけちゃって」
あまりに心配そうな顔をしている家族に申し訳なくて、キャスリンは明るい声でそう告げた。
「マークもごめんなさい。びっくりさせたわね」
「いえっ」
家族の後ろに立っているマークにもわびた。目の前で倒れられてさぞびっくりしたことだろう。
マークは言葉少なに言いながらも少し困惑した顔をしていた。
「本当にもう大丈夫かね」
「はい。何ともありません」
父親のスコットに念押しされたキャスリンはしっかりと答えた。
「じゃあ、マークが少し話したいそうなんだ。いいかね」
「ええ」
キャスリンがいぶかしみながらもマークを見ると、ちょっと緊張した顔でマークが、キャスリンに話し始めた。
「お嬢様、お嬢様がお倒れになったのは魔力酔いかもしれません」
「魔力酔い?」
キャスリンが思わずそう聞き返してしまうと、マークはうなずいて見せた。
「今のお嬢様には魔力があります。しかも私よりずいぶん多いようです。まるで王と王妃が持っていたほどの量です。私にも多少なりとも魔力があるので、見えるのです。
お嬢様の魔力が。魔力には多少色がついているのですが、今お嬢様に見えるのは綺麗な黄色、まるでアシュイラの花のような色をしています。この色をまとっていたのは王族のみでした。スティーブ王子ならまとっていてもおかしくないのですが、今現在この世界に魔力を持った者はいないはずです。三百年前のアシュイラ皇国の民以外には。
バーバラも小さいころには、少しだけ持っておりましたが、時間とともに消えてしまいました。私も魔力がどんどん薄くなっていっているのを感じます。先ほど庭で起こった話を旦那様にお話し申し上げましたが、もしかしたら何かそれが影響したのかもしれません」
マークの話を聞いていた家族は、皆キャスリンを真剣に見つめている。自分にもその魔力の欠片が見えないかと目を凝らしているようだ。
今この時代にも昔使われたであろう魔道具がほんの少し残っている。それが幻の国と化したアシュイラ皇国があったといわれる証ともされている。しかし今この世界に魔道具を使える者は存在しない。その魔道具は今では神器と呼ばれ神殿の奥深くにしまわれたまま、世に出ることはない。
もしキャスリンに魔力があるのなら、それを使えるかもしれない。神殿では神器を使える者がこの世界を支配できるというなかば神話のようなことを信じている神官たちが多い。魔力を神気とまで言う者もいる。
平和でとても繁栄していたとされる幻の国アシュイラ皇国を神格化している者も多いのだ。
「私にもそれが使えるのかしら。もしかしたら今後何かの役に立つかもしれないわね」
キャスリンがそうつぶやいた時、マークの一言が皆を驚かせた。
「お嬢様、実はここにもあるのです。その魔道具が」