スティーブの願い
「初代の王と王妃が、キャスリンを助けると言ってくれたんだ。それから僕に力を貸してくれて僕の最後のお願いを聞いてくれた。そのおかげで今の僕たちがいるというわけさ」
「どういうこと?スティーブは前の人生でちゃんと人生を送ったんでしょ?」
「ああ。僕もあの後、力を使い果たして一度消えたんだ。キャスリンがやったように僕もアシュイラ皇国の発展のために祈ってね。
そして僕はあの時妊娠していた母から生まれた。けれど初代王妃にお願いを聞いてもらっていたおかげで、僕は記憶を持ったまま生まれ変わった。キャスリン君の願いの通り未来が平和になるよう頑張ったつもりだ。未来の君に会えると思うと、頑張れたよ。
時々僕の住む世界に君がまだ生まれていないと思うと、悲しくなった時もあったけどね。初代の王妃が、僕のお願いを聞いてくれるって言ってたから、弟がうまく国を治められるように導くまであの世界で生きていた。ただあの世界でも力を使いまくったから、前の人生の時と同じ年で死んでしまったんだけど、君に会えると思うと死ぬのは少しも怖くなかった。必ず会えると信じていたからね。
ただし今世の僕は、記憶を失っていてしかも幼少期はすごく病弱だったんだ。まあそのおかげで今世は穏やかな子ども時代だったなあ。療養していたから田舎でのんびりとした生活を送ったんだ。だけどいつも何か物足りない気持ちがあった。何かを毎日探していた。ここにない何かを。
そして去年かなあ、いきなり思い出したんだよ。キャスリン、君の事もすぐ調べた。君がいると知ってどんなにうれしかったか。本当はすぐにでも君のところに行きたかったんだけど、初代王妃に止められていてね。そしてこの前やっと君の記憶が戻るようにお願いしたのさ」
「そうだったのね。でもどうして今だったのかしら。記憶が戻ったのはついこの前よ」
「それはね、初代王妃は、キャスリンがあんな大変な記憶を小さい時から持っていたら悲しすぎると思っていたからだよ。僕の事もそう思って記憶を消していたと言ってたな」
「スティーブは初代王妃とお話できるの?」
「ああ記憶が戻ってからたまに声が聞こえるんだ。どうしてもキャスリン、君の事を知りたいとか君の事を考えた時にアドバイス的なものをもらえる」
「そう~。不思議ね。私はなんにも聞こえないけど」
「きっといつか話すことができるよ。初代王妃、キャスリンの事すごく心配していたから」
スティーブとキャスリンは話し込んでいたせいで、いつの間にか時間がたっていた。とうとう後ろに控えていた近衛兵たちに促され広間に戻ることにした。
広間に戻るとアシュイラ皇国の使者がうずうずして待っていた。いつ頃出発するかなどと早く決めたかったらしい。キャスリンがアシュイラ皇国に行く日程の調整をするというスティーブと別れキャスリンは、一度自分の屋敷に戻ることにした。
父スコットと母のミシェルも王宮でキャスリンを待っており、帰りの馬車の中では父スコットの質問攻めにあってしまった。うまく答えられないキャスリンに助け舟を出してくれたのは、母ミシェルでずいぶんと助かった。
屋敷に戻ると、いつアシュイラ皇国へ行ってもいいようにすぐさま準備が始まった。イソベラの指揮の元、侍女たち皆が荷物をまとめていく。
「イソベラ、こんなにドレスいらないわよ」
「いつどのくらいお披露目があるかわからないではありませんか。式典にもお嬢様の魅力が最大限に生かされたものでなくてはいけませんし。そうそう聞きましたよ。とうとうお嬢さまにも運命の人が現れたんですね。よかったですね。もう嬉しくて仕方ありません」
イソベラは準備する手を休めることなく話している。
「早いわね~。あ、そう彼から聞いたのね」
彼とはイソベラの婚約者である。近衛兵だからちょうどその場にいた者に聞いたのだろう。
「はい!なんでも奇跡が起こったとか。実際見た者たちはすごく興奮して話しているようですよ。このままでは、王都中に広まるのも時間の問題ですね!」
「そうなの~。いやだわ、恥ずかしい!」
「なに言ってるんですか。第二王子様はすごく素敵な方だと聞いてますよ」
この時ばかりはイソベラも仕事の手を休めてキャスリンをじーっと見ている。キャスリンは平静を装おうとしたが、どうしても顔が真っ赤になってしまい嬉しさを隠し切れなかった。
そうしてダイモック公爵家中が華やかな雰囲気の中、アシュイラ皇国からまた使者が手紙を持って来た。
「キャスリン、アシュイラ皇国への訪問は二日後になったよ。準備はできているかい?もし嫌なら行かなくてもいいんだよ」
夕食を家族皆でとっている中、父のスコットが今日来たアシュイラ皇国の使者が持ってきた手紙の内容に不満たらたらな様子で言ってきた。
「あなたったら、何言ってるの?二日後にはお迎えが来てくださるのよ。それに準備はもうとっくにすんでいると聞いているわ。ねえキャスリン」
「はい、荷造りはすんでいます。ただちょっとドレスが多すぎではないかと」
「そうだな、じゃあまた荷ほどきをしてやり直そう。アシュイラ皇国にはあと一か月ほどかかると言っておけばいいさ」
「まああなたったら。しょうがない人ねえ~」
「お兄様もアシュイラ皇国に行くんでしょ?」
「ああ、本当は私が行きたかったんだけどな。仕事があってな、残念だよ」
「じゃあ、ケリーお姉さまのお屋敷に行けるかしら。楽しみだわ~」
「そうね、あとアシュイラ皇国にお帰りになる第二王子もいらっしゃるし楽しいものになりそうね」
母ミシェルの言葉に父スコットの顔が苦々しいものになる。その顔を見たキャスリンは、思わず吹いてしまい父に余計にらまれてしまった。どんなことをしても行かせないようにされそうで、キャスリンは慌てて真面目な顔を作ったのだった。
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