兄クロードの婚約者
キーラとメルビスは、そのまま夕食まで残っていた。今日兄のクロードが婚約者のケリーを連れてくるというので、皆で夕食をとろうということになったのだ。
「ケリーを連れてきたよ」
キャスリンはクロードが連れてきたケリーを見て涙があふれてきた。兄クロードとその横にいるケリーは、突然泣き出したキャスリンを見て焦った。
「どうしたんだい、キャスリン。どこか痛いのかい?」
「まあキャスリン、どうしたの? 大丈夫?」
ケリーがすぐに飛んできて、キャスリンの目の前に立って心配そうにこちらを見ている。キャスリンは自分の目から涙が次々にあふれ出てくるのを止められなかった。その様子を見た周りにいた者たちまで皆キャスリンを心配しだした。
「うっ、ごめんなさい。何でもないの。お久しぶり、ケリーお姉さま」
そう言ってキャスリンはケリーに抱き着いた。
「本当に大丈夫? 倒れたって聞いたけど」
そういうケリーの声がある人にとても似ていて、ますます涙が止まらなかった。キャスリンの目の前にいる人はどう見てもバーバラにそっくりだった。バーバラより髪の色が少し濃い色をしているが、顔立ちは本当によく似ている。
「バーバラにそっくりね」
ついキャスリンがそうつぶやくと、その声を聞き取ったケリーがびっくりしてキャスリンを見た。
「キャスリン、あなた私たちのご先祖様の肖像画を見たことあったかしら」
「いえ、ないわ。ってご先祖様にバーバラって人いるの?」
「ええ。私その方とそっくりってみんなに言われているのよ」
「そういえば、その人の肖像画がケリーの屋敷にあったね。確かその肖像画を初めて見た時、僕もケリーに言った気がする。キャスリンはどこで見たの?」
兄クロードがそう言ったので、キャスリンは返事に困ってしまった。
「もしかしてアシュイラ皇国の歴史の本かしら? 天使の像の作成にかかわった方が、家のご先祖様のバーバラという方だったから」
「「「そうなの?」」」
キャスリンが返事できない間に、ケリーが答えていた。その話にキャスリンとクロードを除く皆から声が上がった。
「まあ、ケリーさんのご先祖様が像の作成に尽力されたって聞いていたけど、そのバーバラという方だったのね。何かの縁なのかしらね」
ミシェルが感心したように言った。
「どんな方だったの?」
キーラが興味深々でケリーに聞いてきた。
「はい、アシュイラ皇国の発展に貢献した第一王子スティーブの側近であったサイモクという方が、家のご先祖様なんですけど、その妻だったのがバーバラという方です。第一王子に力を貸したとされる天使の像を作るときに、バーバラが描いた姿を参考にして像が作られたとされているんです」
「えっ、サイモクさんがバーバラの旦那様になったの?」
キャスリンは興奮を抑えきれずケリーに尋ねてしまった。ケリー以外は、キャスリンの興奮にちょっと不思議そうな顔をしていたが、ケリーだけは違った。
「そうなのよ、あのサイモクが私たちのご先祖様なの。でもサイモクをよく知ってたわね。アシュイラ皇国の歴史書では有名だけど」
ケリーは少し自慢げだ。キャスリンはちょっと返事に困ってしまった。
「さっきまでキャスリン、図書室でアシュイラ皇国の本を見ていたんだ。それで見たんだろう?」
図書室にキャスリンを呼びに来たメルビスが、キャスリンが本でアシュイラ皇国を調べていたのを見ていたのでキャスリンの代わりに返事をした。キャスリンは答えなくてよくなってほっとした。
「サイモクは、とても素敵な人だったらしいんですよ。バーバラが残していたものにもずいぶん書かれていたそうです。歳は少し離れていたらしいんですけど、バーバラの一目ぼれだって聞いています」
「確かに、肖像画もかっこよかったなあ。二人並んでいる肖像画もあったよね」
兄クロードが思い出したように言った。
「実は今日してきたこのブローチ、あのバーバラの肖像画に描かれていたものなんです」
そう言ってケリーは胸につけているブローチを皆に見せた。キャスリンはそのブローチを見て、また目から涙があふれてきた。そのブローチに見覚えがあった。キャスリンが前世でバーバラにあげたものだ。残っているなんてあまりに不思議なことだが、とっても嬉しい。それはそれは大事にされていたらしく、もう何百年もたつのにあげた時のままの姿を保っている。
「まあ綺麗ね」
皆が感心してそのブローチを見た。
「なにかしらの魔法がかかっているようなんです。サイモクという人は魔法を使うのにたけていたので、彼の魔法がかかっているのかもしれませんね。私の顔が似ているからっておばあ様が私にくれたんです」
「まあ魔法が! やっぱりアシュイラ皇国の人は魔法が操れたのね。伝説じゃなかったのね」
「そうですね。第一王子や像になっている天使も自由自在に魔法を操ったとされていますから」
ミシェルやほかの者たちが感心する中、ケリーが言った。
「今度の式典にキャスリンも呼ばれているのよね」
「ええ、この前招待状をいただきましたの」
「その時には我が家にも来てゆっくり肖像画を見てほしいわ」
「楽しみですわ、ケリーお姉さま」
キャスリンは今度の式典が楽しみになった。今までは式典の時には、アシュイラ皇国の王宮に呼ばれていたのだ。そのためケリーの屋敷にはまだ行ったことがない。
「あの像にキャスリンが似ているって言ったのは、確かアシュイラ皇国の使者だったよね」
メルビスが思い出したように言った。
「そうそう、ちょうどキャスリンが5歳の時だったかしら。スコットとクロードと一緒に王宮に行ったとき、ちょうどアシュイラ皇国の使者の方たちと会ったのよね。あの時のあちらの方々の驚きようったらなかったわ」
ミシェルがあの時の事を思い出して少し遠い目をした。
「僕もまだ小さかったけど、あの時のアシュイラ皇国の人達の驚きはいまだに覚えているよ」
兄クロードも笑いながら話した。
「確かに似ていますからね。本当にキャスリンそっくり!」
ケリーがキャスリンの顔をよ~く見て笑った。
アシュイラ皇国から正式にキャスリンは招かれることとなり、そのことはあっという間にキャスリンの母国ナクビル国中に広まった。アシュイラ皇国で信仰の対象ともされている天使に似ているということは、大国であるアシュイラ皇国の威光を受けるということとなる。大貴族ダイモック公爵家というだけでなく、アシュイラ皇国の後ろ盾もあるキャスリンは、あまりに高貴な人となってしまったのだった。
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