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アシュイラ皇国の噂

 キャスリンとメルビスが皆がいるという部屋に向かうと、廊下まで話し声が聞こえてきていた。


 「キャスリンを連れてきたよ」


 「まあ、キャスリン大丈夫なの?」


 メルビスとふたり部屋に入るとすぐ、キーラがキャスリンを見るなり飛んできた。思い切り抱きしめられる。


 「おばさま、心配してくださってありがとう」


 キャスリンは前世を思い出していたので、前の人生の時のキーラとつい見比べてしまった。あの時に比べてずいぶん顔つきが柔らかい。しかもすごく若く見える。やはり前世のキーラはキーラで人知れず苦労していたのだろう。


 「早く持ってきたケーキ食べようよ!」


 メルビスが気を利かせて言ってくれた。そうじゃないといつまでもキャスリンは抱きしめられたままだ。キーラにとってキャスリンは娘のようなものらしい。メルビス一人しか子供がいなかったので、キャスリンはキーラに小さい頃からかわいがってもらっていた。かわいいドレスや靴、小物までよく買ってもらったものだ。


 キャスリンの父スコットとメルビスの父ジェームスは王宮に行っていていなかったので、キャスリンの母ミシェルとキーラとメルビスそしてキャスリンとの四人でお茶の時間を楽しむことにした。


 「そういえばメルビス、あなたニーナのところにはいかなくていいの? 今こちらに来ているんでしょ」


 「おばさん、ニーナは今回は仕事でこっちに来ているから会えないって言われてるんだ」


 「まあ、残念ね」


 キャスリンの母ミシェルが少し笑いを隠してメルビスにいった。メルビスがあまりに残念そうに言うので、ミシェルだけでなくほかの皆も笑いをこらえるのに必死だった。


 「クロード兄さんなんかさ、ケリーさんと毎日のように会ってるのにさ」


 「仕方ないわよ。ケリーお姉さまは貴族令嬢だけど、ニーナさんは近衛兵だもの」


 キャスリンがそう言うと、キーラも参戦してきた。


 「ニーナさんは、あなたのために近衛兵を引退してくださるのよ。あ~あもったいないわね。あの近衛兵姿素敵だったのにもう見られないのかしら。引退しても時々は家で着てもらいたいわ~」


 「そうねえ~。ニーナさんの近衛兵姿、見惚れるほどかっこいいものね~」


 ミシェルまで言ってきて、いかにニーナの近衛兵姿がかっこいいかふたりで盛り上がってしまっている。


 「ニーナの近衛兵姿なんて、僕だけが見られれば充分なんだよ」


 ニーナを絶賛している様子に、メルビスがすねたように言った。


 「あんなにかっこいいんだから、しょうがないわよ。それにしてもよく仕事辞めてくれる気になったわよね」


 「あ~あ、愛の力さ。まあ領地経営にも興味があるみたいでさ。それにさっそく騎士団の稽古もしたいと言ってたよ。ゆくゆくは女性にも入ってもらいたいんだってさ」


 メルビスが継ぐはずの領地は、伯爵家といってもけっこう広い。やりがいはあるだろう。キャスリンが、伯爵領でかっこよく馬に乗っているニーナを想像していた時だった。


 「そういえば、アシュイラ皇国からの使者が持ってきた手紙には何が書いてあったの?」


 「あああれね、また作った像の完成式典の招待状だったのよ」


 キャスリンが倒れるきっかけとなった、アシュイラ皇国からの使者が持ってきた手紙は招待状だった。


 「へえ、今度はどんな像なんだろうね。それにしてもあの像、どんどんキャスリンに似てきてないかい?」


 そうなのだ。アシュイラ皇国にいくつかある像は、キャスリンに似ている。しかもキャスリンが歳を重ねるごとに像のキャスリンにどんどん似てくる気がする。ただ作られる像なのだが顔はキャスリンにそっくりだが、体は少しだけ筋肉がついてきているように感じるのは自分だけだろうか。


 「あの像のせいで、キャスリンにいつまでも婚約者ができないのは問題だよな」


 「いいわよ、私結婚しないから」


 「まあキャスリンがいいならいいけどさ。婚約者がいるっていうのもいいものだぜ」


 メルビスがどや顔をしているので、キャスリンは目の前にある紅茶の入ったコップをその顔に投げつけてやろうかと思った。キャスリンの殺気だった顔にメルビスは慌てていった。


 「キャスリンにもきっと運命の人が現れるさ。そういえばこの前ニーナがぽろっと言ったんだけど、ここだけの話病弱だった第二王子が今度の像の完成式典に出るんだって。きっとキャスリンが招待されたやつだよね」


 「そうなの? そういえば第二王子っていたわねえ。すごく病弱で王宮内から出たことがないっていう噂の」


 「そうそう。ニーナから聞いた時興味本位で聞いたら怒られちゃったんだけどさ。誰にも言うなって。まあキャスリンは式典当事者だからいいよな。また実物見たら教えてくれよ。ニーナが何にも言わないから気になってさ」


 「それって嫉妬? いやねえ~、メルビスって。心が狭いのね~」


 さっきのお返しとばかりキャスリンはメルビスに言ってやった。メルビスは、顔を真っ赤にさせてキャスリンに怒ろうとしたが、ちょうどその時先ほどまでニーナの近衛兵姿で盛り上がっていたミシェルとキーラが、会話を終えてこちらの話に聞き耳を立てていた。


 「まあ噂の第二王子、式典に出るの? 見たかったわ~」


 「そうね、アシュイラ皇国の王族の方々はみな見目麗しいって評判だものね。キャスリン、またどんな様子だったか教えてね」

 

 今度はふたり、ニーナの話からアシュイラ皇国の話に花を咲かせていたのだった。








 

いつも誤字脱字報告ありがとうございます。

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