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王になり損ねた男の末路 ※ご注意ください。少し残酷な表現が出てきます。

 その男は、このアシュイラ皇国を自分のものにするまであと一歩のところまで来た。あの薬を売った金で稼いでいった。自分の意のままに操ることができる者もたくさん作った。今ではこのアシュイラ皇国の者たちまで自分の意のままに動く。そのことが男の気を大きくした。あの薬をどんどん売りさばいていった。

 もう少しでこの国を手に入れることができる。傭兵たちも雇い入れて皇国の外から、そして皇国の中からも兵を挙げるつもりだった。

 しかし異変が起こった。


 「おい、やばいんじゃないか。昨日あいつ捕まっちまったぜ」


 「なに言ってんだ。大丈夫だよ。何かへまやらかしただけさ」


 そう言っているうちに1人また1人と捕まっていった。気が付けば自分の周りには誰もいなくなっていった。自分の手下にしたはずの者が、この国の住人たちに捕まり袋叩きにあっているところまで見た。男は命からがらその場から逃げ出したが、その捕まった者が恨めしそうにこちらに助けを求める目を見てしまった。男はおびえながら隠れていたが、それもすぐに終わった。誰にも見つからないような場所に逃げ込んだはずが、すぐに捕まってしまったのだ。

 


 そして今、男はこの牢屋にいる。


 「おまえ、どうしてこんな薬を作ったんだ」


 目の前のこの国の王にそっくりな男が、自分が作った薬を持っている。男はもうすべてをあきらめた。


 「この豊かな国がほしかったんだよ」


 「この薬で廃人同様になった者もいるのにか」


 「ああ、それは自分が悪いさ。別に飲めと強要したわけじゃない」


 「そうか」


 王そっくりの男はそう言ったきり黙り込んだ。自分はいったいどうなるのだろう。そう考えた時だ。



 


 男は真っ暗な中にいた。男の目の前に、自分そっくりの顔をした男が走って光の方へ向かっている。男は、目の前を走っていく自分そっくりの顔をした男の後を追って走っていった。しかし自分そっくりな顔の男が走った先には化け物がいた。


 「お前ナードか」


 自分そっくりの男はその化け物に叫んでいた。その化け物は明らかにその男が発した声に怒り狂い、自分そっくりの顔をした男を引きずって穴の中に落とした。そしてその化け物が今度は男を見た。男は震える足で必死に走って逃げた。また真っ暗なほうへ駆けていく。すると、真っ暗な中から今度は声がした。なんだか聞き覚えのある声だ。男はその声に語り掛けた。


 「おい、誰かいるのか」


 「お~い、こっちだよ」


 男は声のする方へやみくもに走っていった。すると何かに当たった。


 「痛ぁ~」


 先ほどの光景を見た男には、のんきな声が救いに聞こえた。


 「おい、お前ここがどこか知ってるか?」


 男が聞いた時だ。今まで真っ暗だったそこがぼんやり明るくなった。そして先ほど聞こえた声の主が目の前にいた。その者に男は見覚えがあった。


 「おっ、おまえ! まさか」


 「そうだよ~。俺だよ~」


 声の主は、昔男が初めてあの薬を作った時に飲ませた集落にいた者だった。その者は、体半分が骸骨になっておりあとの半分は腐りかけている。


 「俺、お前の薬で死ねないんだよぉ。助けてくれよ~」


 そう言ってその者は、半分腐った手で男をつかんできた。


 「わぁぁぁ___」


 男は思わず払いのけた。その者は、半分腐った手が取れてしまったが、その取れた手が男の腕にはりついたままだった。男は体に腐った手を付けたまま、逃げるように走り出した。すると、また目の前に人影が現れた。


 「おい、助けてくれ!」


 その人影は後ろを向いていたが、男の声で振り向いた。振り向いた人影は、先ほどの者と同じで体半分腐っている。腐りかけの顔をこちらに向けた。

 その顔にかすかに見覚えがあった。男が初めてアシュイラ皇国であの薬を売った者だった。確かその者は後に自殺したと聞いた気がする。


 「助けてほしいのはこっちだよ。俺を助けてくれよ~」


 そのものは骸骨になった手を男に伸ばしてきた。骸骨の手が男の腕をつかむ。男はまた腕を振り払って逃げた。しかし骸骨の手は男の体にはりついたままだった。

 

 男が逃げるたび、以前男が薬を売った者たちが現れては、男にしがみついてきた。追いかけてくる者は皆、体が半分腐っている。あるものは腐りかけた腕をその男の足に、ある者は骸骨の腕を男の腹にしがみつかせてきた。

 とうとう男の体は、腐りかけた腕や骸骨の腕でいっぱいになってしまい、ついには重くて歩けなくなってしまった。仕方なく這うようにして逃げるが、次々に自分が薬を売りつけた者が現れ、男の体にしがみついてくる。

 ついには男の顔にまでしがみついてきて、男は腐った腕に顔を覆われてしまい、あまりの酷い匂いに気絶しそうになった。しかし何もできない。しまいには芋虫のようにごろごろ転がることしかできなくなった。


 「苦しいぃ___」


 気が付けば呼吸も満足にできなくなり、気が遠くなってきた。やっと死ねると思った。男は目をつぶって安らかな死を望んだ。


 しかし男は、また自分が暗闇に立っているのに気が付いた。後ろから声がした。


 「お~い、こっちだよ」


 男はその声におびえて、その声とは反対の方へ走っていった。するとすこし先に今度は知らない男がいた。しかしその知らない男の前に化け物がいた。


 「あなたは王ですか?」


 知らない男がそう化け物に言った時だ。その化け物は怒り狂ってその知らない男を引きずっていった。男はそれを見て、そこから転がるように逃げた。また暗闇に戻っていく以外行くところがない。走っていくとまた何かにぶつかった。


 「痛ぁ~」


 男は、またもや半分腐りかけていたり半分骸骨になった者たちに囲まれることとなった。逃げても逃げても、半分腐りかけ半分骸骨のものたちがまとわりついてくる。そしてまた男の体は、その者たちの腕に巻きつかれて息ができなくなった。苦しくて仕方ない。今度こそ死ねると思った。今度こそ死にたいと思った。


 しかし気が付けば男は、また暗闇に立っていた。後ろから声がした。


 「お~い、こっちだよ」


 男はその声を聞いてまた逃げられないことを悟った。自分はいつまでここにいればいいんだろう。いつになったら出られるのだろう。いつになったら死ねるのだろう。男はそう思いながら逃げることしかできなかった。その体には腐った腕がぶら下がっていた。


 「わぁあああ___」

 

 知らず知らず男の口からは絶望の叫びが出ていた。そしてそれは永遠に終わることがなかった。


 






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