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そういうことでしたか

 すべて話し終えたキャスリンは、父親にゆっくりしなさいと言われ部屋に戻った。

 執務室には、父であるスコット、兄のクロード、そして執事のマークがまだ話し合いを続けている。

 

 「お茶をお持ちしました」


 バーバラがお茶を入れるためにカートを運んできた。

 キャスリンの前でお茶を淹れてくれる。部屋中にいい香りが満ちていた。

  

 「バーバラ、あなたも一緒に飲みましょう」


 部屋には二人しかいない。バーバラを座らせ二人でお茶を飲むことにした。

 自分でも気づかなかったが、先ほどまで話し続けていたせいかのどが渇いていたようだ。カップを飲もうと近づけると、よい香りがして少しだけ緊張が解けた気がした。どうやら自分は知らず知らず緊張していたらしい。


 「おいしい」


 「お嬢様、クッキーもありますよ」


 バーバラは作り立てのクッキーも持ってきてくれていた。厨房に行って作ってもらったのだろう。キャスリンの好きなサクサクとした上品な味のクッキーだった。

 そしてふと思い出した。先ほど父親たちに説明したせいか、まだ少しでも記憶をたどろうとする自分がいた。

 そういえば、いつからだろう。このクッキーを食べなくなったのは。

 お茶をゆっくりと飲みながら、ゆっくりと記憶をたどっていった。


 

 「それにしてもこんなことが本当に起こったのだな」


 執事であるマークは、先ほどまでいたキャスリンから聞いた話をすべて書き留めていた。

 当主であるスコットが、また書いた紙を眺める。紙はずいぶんな量になった。

 思わず深いため息が漏れた。スコットの吐いたため息が伝染したかのように、息子でありキャスリンの兄であるクロード、そして執事のマークまでもがため息をついた。もちろん執事であるマークは、聞こえるか聞こえないかぐらいに小さなものだったが。


 「いったいどうして、こんなことが起こってしまったのだろう」


 スコットは、まだ紙を見続けている。そしてスコットにしては珍しく弱音を吐いた。

 隣で紙を見ていた息子のクロードが急に叫んだ。

 

 「父さん、マーク!よく見るとすべて今から2年後に起こっている。そうだよ。マークとバーバラが死んでからだ」


 キャスリンから自分が死んだと先ほど聞かされたマークは、またクロードに念押しされたように名前を出されて少し顔をしかめたが、スコットの顔に少しだけ笑みが浮かんだ。


 「確かにそうだ。それが起点となってるんだ。なあマーク、どうしてキャスリンは今戻ってきたのだろう」


 執事のマークは、キャスリンから先ほど自分と娘のバーバラが死んだと聞かされた。自分はともかく娘の死を聞かされてずいぶん動揺してしまったが、当主であるスコットの問いにやっと心を落ち着けて考えることができるようになった。


 「旦那様。きっとこの5年前というものに意味があるのでしょう。王子がそれを意図してお嬢様を今戻らせたに違いありません」


 「そうだよ。ちょっとこれ見て。マークが死んだあと、父上も体調を崩しているし、母上も亡くなっている。それに流行り病が流行して、私たち公爵家に親しい貴族が次々に亡くなっているか、体調を崩している。キャスリンも言っていたよね。自分が婚約破棄をされたとき、味方する者は誰一人としていなかったと。それにしてもこんな都合よく流行り病が流行するものなのかな?ねえマークどう思う?」


 「そうですね。何のためにかわかりませんが、今この公爵家には結界が張られております。もしかしたら私が王子を守るために張ったものなのか、王子自ら張ったものなのかわかりませんが」


 「そうなのか?」


 マークの話にびっくりしたのは当主であるスコットだった。


 「はい。私は多少魔力がありますので、魔法が使えます。今はこの家に来る害のあるものをはじくという魔法が使われています。それにこの家の者を害そうとすると私に伝わる魔法もつけられています。ただし私が死ぬと、効力は無くなりますが」


 「そうなんだ。だからマークが死んでから父上や母上の体調が悪くなったんだね」


 「そのようだな。それにしても流行り病というものは、意図的に作ることはできるんだろうか」

 

 「公爵家寄りの者がかかるなど、病にかかった者にあまりに偏りがあります。もしかしたら流行り病に似せた毒によってかもしれませんね。お嬢様が飲んだという毒杯にしても、めったに手に入るものではないはずですが、どうやって手に入れたのでしょう」


 「隣国と通じている者がいるんだ。キャスリンと婚約破棄したという第二王子メルビスとメルビス王子と婚約したというストラ男爵家がかかわっているに違いない。何年後かにストラ伯爵家になると言ってたな。確か」


 「でも父上、たかが男爵家ができるとは思えませんよ。もっと大物が後ろにいるに違いありません」


 「わが公爵家と敵対しているハビセル侯爵家だな。第二王子メルビスの母親であるキーラ側妃の実家でもある。わが公爵家が目の上のたん瘤だったに違いない。わが公爵家は王妃に近い。しかも我が公爵家は第一王子であるジョージ王子の後ろ盾にもなっている」


 「父上、その王や王妃も病に臥せっていたと言ってましたよ。あとジョージ王子も落馬で命を落とされたとキャスリンが言っていましたね」


 「ハビセル侯爵家の手の者が、きっと王宮にもはびこっていたのだろう。もちろんこの家にも。なんとしても捕まえなくては」


 その時ドアをたたく音がした。執事のマークがすぐにドアに向かった。


 ドアの外にいたのはキャスリンだった。

 走ってきたのだろう。肩で息をしている。

 キャスリンは部屋に入るとすぐ父親に向かって叫ぶように言った。


 「お父様、私思い出しましたの。マークが亡くなって、新しい執事が来てから、しばらくたって確か厨房の人たちも代わりました。あの時にはマークやバーバラの事がショックで気にも留めていなかったのですけど」


 「新しい執事か?それはどこから雇ったのだろう」


 当主であるスコットは少し考える様子だった。

 公爵家の執事はそうそう務まるものではない。今まで勤めていた者がやめたら、その子供やその下についていた者がなるのが普通だ。キャスリンの話では、記憶にないマークの子供を装ったスティーブは、護衛をしていたというのだから、屋敷にいた者がなるのが普通なのだが。キャスリンは新しい執事が来たと言った。


 「お父様、叔父様の紹介で来たのですわ。でも今思うと変なのです。その新しい執事が来てから少しずつ屋敷で働く人たちが代わっていった気がするのです」

 

 「怪しいな。その者の名前は憶えているかい?」


 「はい」


 キャスリンはその者の名前を告げた。


 当主であるスコットはニヤッと笑った。


 「じゃあまずこの者を絶対に見つけ出してやろう。公爵家の力で。そうだ王家の力も借りよう。わが公爵家に弓引いたこと死ぬほど後悔させてやろうではないか!」


 


 

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