キャスリン癒しを求める
キャスリンは、屋敷に戻った。男爵達のなれの果てを見て達成感とむなしさが残った。キャスリンはなんだか無性にスティーブに会いたくなった。
気が付けばキャスリンは、スティーブのベッドの上にいた。というよりスティーブの体の上にいた。スティーブはいきなり体の上に重みがかかり、びっくりして飛び起きた。すると犬のキャスリンもころころと転がり落ちてしまった。ベッドの下に。
「痛いじゃない。スティーブ!」
ベッドの下から声がする。スティーブは声を聞いて、何が起こったのかわかり、ベッドを降りて転がっているキャスリンを(犬だけど)抱えてまたベッドに入った。キャスリンを自分の横にそっと置いた。
「どうしたんです?いきなりだからこっちの方が驚きましたよ」
スティーブが横になったので、キャスリンの顔と近かった。キャスリンが犬の姿なので、スティーブはそれほど気にしていないのだろう。
「スティーブに会いたかったの。魔法の勉強はしてる?」
「はい、してますよ。ただもうちょっと寝かせてください。きのう剣の試験があって疲れているんです」
スティーブはとても眠そうで半分瞼がまた落ちそうだった。キャスリンもそんなスティーブの姿を真近で見ていたら眠くなってきた。キャスリンはスティーブにぴたっと張り付くと一緒に寝ることにした。スティーブもふわふわの温かいものがそばに来て、無意識ながらも嬉しそうに抱きしめてくれた。そしてふたりは一緒に眠ったのだった。
翌朝キャスリンが起きると、ベッドは空だった。キャスリンがぼーっとしていると、スティーブが支度し終わったのかさわやかな様子でやってきた。
「よく眠ってましたね」
「そう?とっても疲れたのよ」
キャスリンはまだ横に寝そべっていたが、不意に起き上がるとスティーブに言った。
「ねえスティーブ、今から町に出てみない?ふたりで出かけましょうよ。一度行ってみたかったの」
「そうですね。キャスリン様に聞いてきます。ちょうど今日は学校はお休みの日ですので、他の者に護衛を任せられるかと」
「キャスリン2号ね。いいわね楽しみ!」
キャスリンがしっかり2号と言ったことにスティーブは笑いを抑えるのに大変だったが、すぐに聞きに行くことにした。
キャスリンはしばらくベッドの上でまたまどろんでいると、揺り起こされる気配がした。寝てしまっていたらしい。すくっと立つとスティーブが目の前にいた。どうやらスティーブがキャスリンを起こしたようだった。
「いいですよ。町に行きましょう」
「そう!よかった!もしダメと言われたらキャスリン2号にお仕置きしなくてはいけなかったわ」
キャスリンがまじめくさってそう言うので、スティーブはくすっと笑ってしまった。
「どちらもキャスリン様ですよ」
「いいの、それよりスティーブの魔法で私を人間に変身させて」
キャスリンはスティーブにそうお願いをした。キャスリンの魔法では人間の体で実体を持つことができないのだ。これも過去に戻るという魔法の影響なのかもしれない。
スティーブは空気を吸う様に簡単にキャスリンを人間に変身させた。といっても12歳のキャスリンだが。
「ねえスティーブ、転移して町まで行きましょう!そしてふたりで町を探検しましょうよ」
「そうですね。じゃあキャスリン様のドレスをちょっと庶民風にしますね。あと私の衣装も」
そう言うが早いがスティーブは、自分の衣装とキャスリンの衣装を魔法でさっと変えた。キャスリンがあまりの早業にびっくりしていると、スティーブが言った。
「これでもいろいろ練習してるんですよ」
「ほんと、すごく上達したわね。あとこれなら町に溶け込めそうね」
ふたりはお互いの衣装を見やって笑いあった。
「今から私はスティーブの妹ね。お兄様!私の事はキャスと呼んでね」
キャスリンは12歳なので、スティーブを兄ということにした。
「ではキャス行きましょうか」
「駄目よ、お兄様。敬語はなしよ」
「それを言うなら、お兄様ではなくてお兄ちゃんだよ」
「そうね。じゃあ行きましょう、お兄ちゃん!」
スティーブが、キャスリンのまだ小さい手を握り転移した。転移した先は、王都の端にある狭い路地だった。
「ここなら誰にも見られないと思って。この前の通りが大通りですよ」
「そうなんだ、楽しみ。お兄ちゃん敬語忘れないでね」
キャスリンは、つないだ手をひっぱって大通りへと急いだ。大通りというだけあって、人通りが多く活気があった。いい匂いも漂ってくる。キャスリンはスティーブの手をにぎって、その匂いのする方へとどんどん歩いていった。
そこは屋台がたくさん並んでいて、いろいろなものが売られていた。キャスリンは好奇心に駆られて、どんどん歩いていく。店は食べ物屋さん、雑貨屋さん、果物屋さん、洋服屋さんなどありとあらゆるものがあり、ここで生活品すべてそろえられそうなほど店の種類が豊富だった。
キャスリンは通りの先にある、よりにぎやかなほうへスティーブを連れて歩いていった。そこは食べ物屋さんが所狭しと並んでいた。人が大勢いて皆店の前に並んでいる。あたり一面甘いいい匂いが漂っていた。
「あれは何?お兄ちゃん」
キャスリンはあるお店に視線を向けたまま、横にいるスティーブに聞いてきた。
「あれは、今流行りの食べ物を売っているところだよ」
「ふ~ん」
キャスリンは、ちょうどそのお店で並んで買ったと思われるものを持った人とすれ違った。おいしそうに食べている。なんだかその人が通った時いい匂いもしていた。目を輝かせているキャスリンを見てスティーブが言った。
「私たちも買ってみようか」
「いいの?」
スティーブが笑い、二人は行列に並ぶことにした。しばらく待って買ったのは、木の実や果物をペーストにしたものを薄い膜のようなもので包んであるお菓子だった。とってもいい匂いがしてくる。
「そのまま食べるんだよ」
スティーブが包まれているものにそのままかぶりついた。キャスリンもまねして食べてみる。とろっとした木の実や果物が甘くて、それを包んでいるものとあいまってとってもおいしかった。キャスリンは夢中で食べた。とてもおいしい。食べてしまった後、自分の舌でペロッと唇をなめていると、すでに食べ終わったスティーブがその様子を見ていた。思い切り笑っている。
「だっておいしかったんだもん」
ちょっと恥ずかしくなったキャスリンがそう言い訳すると、笑いをこらえてスティーブが言った。
「この先にもおいしいものが売ってるんだよ。行く?」
「行きたい!」
キャスリンとスティーブは、次の食べ物をゲットするべく歩いていったのだった。




