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ここは天国ではないようです

 キャスリンは再び目覚めた。朝になっていた。


 「お嬢様、お腹空きませんか」


 バーバラが目が覚めたキャスリンに優しく聞いた。


 「そうね。お腹が空いたわ。ねえバーバラ、本当にスティーブを知らない?あなたのお兄さんよ」


 「はい、私はひとりっ子ですので」


 そういうバーバラをじっと見ていたキャスリンだったが、バーバラの言ったことがとてもうそに見えなかった。

 キャスリンは、深いため息をついた。


 「バーバラ、もう起きることにするわ。もしかしたらここに戻ってきたのも何かスティーブと関係があるのかもしれない。いいえ、きっと何か関係があるのだわ」


 「はい、お仕度させていただきますね」


 キャスリンは起きるべくパジャマを脱いだが、自分の腕にいくつもの斑点があるのを見てびっくりした。慌てて鏡を見に行くと、そこら中に斑点が広がっている。斑点がないのは顔ぐらいのものだ。

 

 「お嬢様、大丈夫です。その斑点はずいぶん薄くなりました。きっとすべて消えますよ」


 「そうなの?こんなにいっぱいあるのに?」


 バーバラはずいぶん斑点の色が薄くなったのだと説明した。キャスリンは初めて見たのだが、これでも薄くなった方なのだろう。まあ自分についた斑点なんかより気になることがほかにいっぱいある。

 キャスリンは着替えて支度をして、ダイニングへ向かった。


 「起きたのかい。体はどうだい?」


 先に席についていた当主である父親がキャスリンに聞いた。


 「はい、もう大丈夫です」


 「そうかよかった。後で話がある。私の部屋に来てくれるかね」


 「はい、お父様」


 キャスリンは黙って食事をしたが、家族はキャスリンの食欲が気になっていたのだろう。皿から顔を上げるたびに家族の誰かと目が合った。

 そのたびにキャスリンは、笑顔でおいしいといって相手を安心させたのだった。


 キャスリンは食事のあと一度部屋に戻り、一人になった。

 机の中からいつも書いていた日記を取り出した。ドキドキしながら日記を開くと、やはりというべきか12歳までの事しか書かれていなかった。自分には、王宮に呼ばれるまで日記をつけていた記憶がある。なのに日記には5年分がない。6年前からは、いろいろあって悲しかったり苦しかったことしか書いていなかったのだが。

 

 やはり自分は時間をさかのぼってきたと確信した。ここは天国ではない。なぜなのだろう。きっとその答えは、お父様に会えば見つかるはずだとキャスリンはそう確信した。


 キャスリンは、当主である父親の部屋に向かった。執務をすることも多いその部屋には、昔はキャスリンでさえ数えるほどしか入ったことがなかった。まあ三年前からは、兄を支えるためにその部屋によく行くようになったのだが。


 父親がいるであろう部屋のドアをノックする。

 すぐ中から声がした。執事であるマークがドアを開けてくれた。

 中に入ると、そこには父親と執事のマークだけでなく、母親のミシェルそして兄のクロードまでいた。


 「キャスリンお嬢様、どうぞこの椅子にお座りください」


 「ありがとう」


 キャスリンはマークにすすめられて、兄と母親が座っている椅子の間にある椅子に座った。

 

 「キャスリン、今からマークがいろいろ説明してくれる。もしキャスリンについた斑点や貴族用牢屋の事がなかったらとても信じられなかったかもしれないが。たぶんキャスリンが疑問に思っていたことの答えにもなるだろう」


 父親のスコットはそういうと、マークに話を促した。

 執事のマークは一度目をつぶり、覚悟したような表情をして話し出した。


 「私は、今は亡きアシュイラ皇国の出身です」


 「アシュイラ皇国だって?」


 マークの第一声にびっくりしたような声を出したのは兄のクロードだった。それもそのはず、アシュイラ皇国は半ば伝説化した国の名前であり、もうかれこれ三百年ほど前に突如として、文字通り地上から消えた国の名前だったからである。


 「マークは三百歳以上年を取っているの?まだ40代に見えるけど」

 

 キャスリンは思わずマークに問いかけた。とてもそんなに長生きしているようには思えない。

 キャスリンもアシュイラ皇国の事は家庭教師から歴史で少しだけ学んだ。ただ今では伝説上の国として名前が残っているだけだったが。

 

 「お嬢様、私たち皇国の人間は時を渡って今の世界に来たのです」


 今度は聞いていた三人が息をのんだ。


 マークが住んでいたアシュイラ皇国は、魔法が盛んで繁栄していた。アシュイラ皇国を作った初代皇王が、民のためにと生活に特化した魔法で人々は何不自由なく生活していた。

 

 そのアシュイラ皇国は繁栄していたにもかかわらず、ほかの国に絶対に干渉しなかった。貿易もしない、交流もしない謎の国とされていた。しかしやはりその繁栄ぶりは、次第にほかの国々に様々な形で伝わることになってしまった。何代目かの皇王の時だろうか、ほかの国々から刺客がおくられてくるようになり、皇国の民になりすました敵が、皇国の中枢にいるものから情報を盗んだ。しかもその家族を人質に。それに気づいた時にはすでに手遅れで、大勢の軍勢が皇国に攻め入ってきた。皇国の王族特に皇国の王と王妃は、残った民をすべて逃がすため、その身を犠牲にして、民を救うべく生き残った民をすべて時を越えさせた。

 マークは当時侍従として皇国王に仕えていたが、皇国の一人息子の王子を助けるべく、王子とそのほかの民とともに時を超えた。

 マークには当時結婚したばかりの妻と一人娘のバーバラがいたので、その兄として育てることにした。

 その亡国の王子こそスティーブだったのである。

 


 



 

ながいので、いったん切ります。

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