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コルトの過去5とキャスリンの思い

 コルトたちは破片を集めて商会に戻った。コルトは村で起きたことを商会代表のアンガスに説明した。


 「なにへまやってるんだ!」


 アンガスはまず一番先にサラを殺した男を殴った。ずいぶん怒っている。アンガスは後ろに控えていた護衛に言った。


 「こいつはもういらない。始末しろ」


 アンガスにそう言われた男はがたがたふるえていたが、護衛は顔色を変えることもなくその男を引きずっていった。

 

 「あとコルトを残してこいつらを連れていけ」


 コルトが横に立っているダンを見ると、ダンも顔が真っ青だった。ダンと残りの一人も護衛に連れられて部屋を出ていった。


 「コルト、まだ魔道具はあると思うか?」


 先ほどとは全く違う柔和な顔でアンガスは言った。それでもさっきのアンガスを見た後ではコルトもとても普通にできずに顔をひきつらせたまま言った。


 「先に逃げたマークという男が何か知っていそうです。サイモクが先に逃がしました。しかも逃がすときに『お前には守るものがある』と言っていました」


 「そうか、そのまま引き続き調べてくれ。あとお前にやってもらいたいことがある。」


 そういってアンガスは、コルトに自分の娘が嫁いだ先である男爵邸で働くように言った。アンガスはコルトの外面の良さを買っている。何かやらせたいのだろう。コルトは男爵邸で働くことになった。


 コルトはアンガスの部屋を出て自分の部屋に戻って、村でせしめた魔道具の破片をポケットから出した。アンガスにばれたらと思うと少し手が震えてしまったが、どうやらばれずに済んだようだ。コルトはその破片を手近にあった紐でくるくると巻き付けて首飾りにして持っていることにしたのだった。


 そうしてコルトは男爵邸に向かった。


 



 スティーブはすべての映像を見終えて大きなため息を吐いた。スティーブの顔は暗い。

 キャスリンははじめ自分の口で説明していたが、次第に苦しくなりスティーブの前に黒い箱を出した。そして何やらつぶやくとまるで箱の中で実際に起こっているかのように映像が流れ始めたのだった。


 「スティーブ、つらかったでしょ。ごめんなさいね」


 「映像で見た丘に逃げて転移した人たちはいったいどうなったのでしょう?」


 「それはこの前シムという人に聞いたわ。マークといっしょに。みんな飢えや病気で亡くなってしまったそうよ」


 「そうでしょうね。さっきの映像を見る限り、村は平和そのものでした。魔法で守られていたからに違いありませんが。きっと飢えや病気に体が持たなかったんでしょうね。シムと子どもが生きていた方が不思議なぐらいです」

 

 「私が頭の中にいた女性の世界も平和でここより生活もずっと豊かだった。きっとあの女性が作った国なら豊かだったでしょうね。食事に困ることはなかったし病気になってもすぐ治してもらえたし」


 「そうですか...」


 スティーブは何か考え込んでいた。


 「どうしたの?大丈夫よ。みんなの敵はちゃんととるから」


 「いやっ。どうにかしてあんなことが起きないようにできればと思って。何か魔法で出来ないものだろうか...」


 「ねえスティーブ。私一つ考えていることがあるの。どうして私が魔法を使えるようになったのかとずっと考えていたのよ。知ってる?私ってチートなのよ」


 「チート?」


 「そう、いつも彼女が言っていたんだけど、魔法で何でもできるの。はじめこそ私、みんなをこんな目に合わせたやつらに魔法を使って復讐することばかり考えていたんだけど、いざ魔法を使い始めてちょっと考えが変わったの。聞いてくれる?」

 

 キャスリンは胸の中でずっと気になっていたことをスティーブに聞いてもらうことにした。

 

 ーまずどうして自分に魔力が宿ったのか。過去に戻っていろいろ見たり知ったりして、ただ復讐だけでいいのかと思い始めた。なぜなら例えば自分を陥れたと思っていたイソベラも、過去に戻って過去のイソベラを見ると自分の知っているイソベラとずいぶん違う。


 「確か昔スティーブが言っていたのよ。仕方なく悪に加担する者と進んで悪に身を捧げる者がいるって。覚えてる?」


 「そんなこと言ったんですか?私が?」


 どうやらスティーブは覚えていないらしい。もしかしたらのちに言うのかもしれないが。


 「たぶん悪に染まるときにはどこか分岐点があるはずなのよ。それと同じで不幸になるときにも最初の分岐点があると思うの」


 「分岐点?」


 「そう。まずアシュイラ皇国の人たちが不幸になっていたのは、最初にアシュイラ皇国に攻め込んだ者がいたから。そして私が不幸になっていったのはマーク達が死んでしまった時から。ダイモック公爵家ゆかりの貴族が不幸になっていったのは、あの謎の流行り病のせい。スティーブが不幸になったのは、私のせい。もう気づいているんでしょ。頭のいいスティーブの事だもの」


 「なんとなく。キャスリン1号様とお会いした時のキャスリン様を見て、キャスリン様の今いる世界では私はいないのかと思いました」


 「やっぱりね。知っていたのね、ごめんなさいね。あの時にはあまりに嬉しくて我を忘れてしまったの。それにこの前転移したときも今回もそうだけど知らないうちにここにきてしまったのよ」


 「そうなんですね。でも私はその選択に後悔はありませんよ」


 「ありがとう。それでもスティーブが今私がいる世界にいないのは、私を時を超えて戻してくれたから。今いる世界では、スティーブの存在自体がなくなってしまったの。本当にごめんなさい。

 でもね、はじめこそ復讐の事ばかり考えていたんだけど、本来なら私は時戻りをするだけだったのよね。でも私は魔力を持ってしまって、魔法も自由自在に操れる。

 これって何か大きな力が働いているんじゃないかと思うのよ。そもそも私は、初代王妃である彼女の頭の中で彼女の一生を見ることができたわ。だからこそいろいろな魔法が使える。でもそれだけではないと思うの。

 

 もしかしたらアシュイラ皇国の初代王妃だからこそ、アシュイラ皇国を救ってもらいたいと思ったんじゃないかしら。彼女の中にいた私だからわかるの。彼女がどんなにアシュイラ皇国を愛していたのかを。

 私が彼女の中に入って彼女の一生を見ることができたんだから、もしかしたら彼女も私の人生を見ることができたのかもしれない。もしかしたらそこでアシュイラ皇国が滅んだことを知ったのかも。そして誰が私を過去に戻したのかも。

 スティーブあなたはアシュイラ皇国の継承者だった。そのあなたが、力を使って私を助けたせいであなたの存在自体がいなくなってしまった。もしかしたら彼女は、あなたの事も助けてほしいのかもしれない。ひいては私たちでアシュイラ皇国を助けてほしいのかも。だって私に力があったらすぐにスティーブのところに行くことはきっと彼女ならすぐにわかると思うの。 

 すべては憶測でしかないけれど、私にこんな力が備わったのには、彼女の大きな遺志が働いたとしか思えないのよね」


 「でも今の私にそんな力はありません」


 「そうね、でも今から魔術を磨けばいいわ。そうしてふたりで初代アシュイラ皇国を救い出しましょうよ」


 「でもそれでは未来が変わってしまいますよ」


 「それは仕方ないわ。どうせ今のままでは、あんまりいい未来ではないもの。でもねアシュイラ皇国を救ったとしてもあの危機感のなさじゃあまたほかの国に攻められてしまうわ。その対策も考えないとね。忙しくなるわね~」


 「じゃあキャスリン様はもう復讐はやめるんですか?」


 「いやね~スティーブ。やるに決まってるでしょ。まずコルトやストラ男爵、ハビセル侯爵家のみなさんには、アシュイラ皇国を救いに行く前にお礼するのよ。じゃないと私の気が済まないわ。だからそれまでにスティーブは魔術を磨いておいてね」


 スティーブは急に悪寒がしたのかぶるっと震えたのだった。


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