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原因は毒のようです

 真っ先に言葉を発したのは、母のミシェルだった。


 「お医者さま、これはどういうことでしょう」


 じっと腕の斑点を見つめていた医師が言った。


 「この斑点には見覚えがあります。しかしどうしてキャスリン様のお体にこんなものが...」


 医師はそこまで言ってあとの言葉がなかなか出てこないようだ。


 「この斑点はいったい何なんだ!」


 言葉を発しない医師にじれてスコットが半ば叫ぶように言った。

 スコットの言葉で我を取り戻した医師は語り始めた。


 「この斑点は、猛毒のガオミールを摂取したときにおこるものです。ただその猛毒ガオミールは、飲んですぐにのどがただれ体全身けいれんを起こして、のたうち回るようにして死ぬのです。

 この毒薬は、わが国では出回っておりません。あるのはその猛毒を作るための植物が生えている国、我が国の隣にあるペジタ国のみです。それもこの猛毒は、飲んだら絶対に死ぬので、極悪人の処刑に使われております。解毒薬はないのです。私も医学書でしか見たことはないのですが、この特徴のある斑点はどう見ても、猛毒の作用にしか見えないのです。

 そんなものがなぜお嬢様の体にあるのか...」


 「あのう...」


 家族が医師の説明を唖然として聞いていると後ろからか細い声がした。

 さきほど家族、医師を呼びにいったキャスリン付き侍女であるバーバラのものだった。


 「どうしたんだ、バーバラ」


 侍女でありながら執事の娘であるバーバラは、キャスリンの兄クロードとも小さいころから家族同様に遊んできた。クロードは、おとなしいバーバラが言葉を発したことにびっくりしつつもバーバラに尋ねた。


 「実は、先ほどキャスリンお嬢様がお目覚めになった時、焼けるようにのどが痛かったとおっしゃいました」


 「焼けるように?のどが痛いのにさっきまで普通にお話しされていましたよね...」


 医師は周りに聞きながらも、自分に自問自答するようにつぶやいた。

 

 「脈は正常です。今はただ眠っておられるようです。呼吸も正常ですし。ただこの斑点はとても気になるのですが、もし毒に侵されていましたら、とてもこのように穏やかに眠っていることはできないでしょうし。いったい何なんでしょう」


 医師はそう家族に告げた。まだ首をかしげてよく斑点を見ている。


 「じゃあ、キャスリンは大丈夫なのだな」


 父親であるスコットは念押しするように医師に確認した。


 「はい、今の状態を見る限り、大丈夫だと思われます。ただ念のためしばらく安静にしていただいた方がよいでしょう」


 部屋中に安堵のため息が漏れた。

 念のためバーバラが部屋に残り、様子を見ていることになった。


 キャスリンはそれからずっと眠り続けていた。

 

 「バーバラ、あなたも少しは休んで。私が見ているわ」


 「奥様大丈夫です」


 「なに言ってるの?食事もとってないそうじゃない。ダメよ体を壊すわよ。キャスリンが起きた時怒るわよ」

 

 キャスリンの母であるミシェルにそう諭されたバーバラは、しぶしぶ部屋を出ていった。

 

 「キャスリン早く起きて、元気な声を聞かせてちょうだい」


 ミシェルはそう言ってキャスリンの手をずっと握り続けていた。

 

 キャスリンの目が覚めるまで、バーバラとミシェルが交代で休息をとりながら様子を見ることとなった。


 

 キャスリンが眠って三日目、ようやくキャスリンに意識が戻った。その時はちょうど母親のミシェルと交代したばかりのバーバラがベッドのそばに座っていた。

 きれいなエメラルドグリーンの目がバーバラを見た。


 「お嬢様!」


 「ああ~バーバラね。よく寝たわ」


 「お体は何ともないですか」


 「ええっ、なんともないわ」


 キャスリンは起き上がりベッドの背にもたれた。


 「バーバラ水が飲みたいわ」


 バーバラは急いでベッドサイドにある水差しからコップに水を入れて渡した。


 「おいしい!」


 バーバラはキャスリンが水を味わうように飲む様子を黙って見ていたが、なんともないと分かると急いで家族を呼びに部屋を出た。

 家族が皆慌ててキャスリンの部屋に集まった。


 「キャスリン大丈夫か?」


 父親であるスコットが皆の思いを代表して聞いた。


 「お父様、大丈夫ですわ」


 確かにキャスリンの顔色はいい。抜けるような白い頬が少しバラ色に染まっている。

 

 「よかったわ」


 ミシェルが思い切りキャスリンに抱き着いた。

 兄のクロードが後ろに控えている医師に目で確認する。

 医師が大きくうなずくのを見て、クロードもキャスリンのそばにいきキャスリンの手を握りしめた。

 医師の隣に立っていたバーバラの顔は、涙でくしゃくしゃになっている。


 「そういえばスティーブの姿が見えないわ。スティーブはまだ天国には来ていないのね」

 

 スティーブとは誰なのだろう?みんなの顔が?マークになっているのにも気づかずキャスリンがまた言った。


 「私だけじゃなくてみんな若くなっているのね。天国って不思議なところなのね?」


 「キャスリン、ここは天国ではないよ。どうしてそう思うのかね」


 父親であるスコットは、先ほどからキャスリンがあまりに天国という言葉を何度も言うことに疑問を感じていたのだ。熱のせいで悪い夢でも見たのかと思ったが、熱は出ていないし体は何ともないようだ。しいて言えば三日の間に多少薄くなったとはいえ、気になるのは体にある斑点ぐらいのものだ。

 医師からも別段体に支障があるとは思えないと聞いた。

 だからこそキャスリンがあまりにまじめに、ここが天国だと思っていることが不思議だった。

 

 そしてキャスリンが言った言葉に皆絶句するほかなかった。


 「お父様、私毒杯を飲んだのよ。だから死んだに違いないわ。のどだってすごく痛かったしつらかったわ」


 

 


  

 

 


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