王都にあるストラ男爵邸
翌日キャスリンは王都にあるストラ男爵邸に行ってみることにした。昨日見た男爵邸を思い出してイメージした。そしていつものようにトウメイニンゲンになって男爵邸に転移した。
男爵邸にはちょうど玄関前に着いた。そのまま屋敷の中に入っていく。やはりというべきかこちらの男爵邸も領地にある男爵邸の外見と同じで、室内もけばけばしくて下品な印象だった。
「あ~あずいぶん下品なお屋敷ね。それにしてもなんだか目がちかちかするわねえ」
キャスリンはひとり文句を言いながら歩いていった。遠くから何か叫んでいる声が聞こえてきた。キャスリンが声のする方へと足を延ばすと、声の主は男爵夫人らしかった。
「旦那様は、あのドブネズミを学校へ行かせる気なの?」
「はい、その様です。今から間に合うように家庭教師を増やして勉強させる気です」
「まあ~、なんてこと!本当に...」
どうやら男爵夫人が言ったドブネズミとは、領地にいるイソベラの事らしい。男爵夫人はまるで許せないといった風で一人興奮して、そばにいるメイドにグチグチと叫びまくっていた。
キャスリンは、大した話でないと分かるとさっさと別の方へ向かった。趣味の悪い廊下を進んでいくと特に派手なドアがあった。そこをそのまますっと入っていくと、部屋の中には男が二人いて何やら話をしていた。
「どうだ、イソベラは?」
「男爵夫人がいろいろメイドにやらせていましたが、今は奥様が王都にいるとあって、お嬢様も前より過ごしやすいようです」
「そうか、しょうがないな。自分には子供ができなかったくせに、ほかにできた子を次々に殺していった。実家が裕福じゃなかったらとっくに追い出していたわい。唯一残ったイソベラにも手を出しやがって。いいかカミラをよく見張っていろよ。イソベラを学校に行かせて、少しでもいいところへ縁づかせなくてはいけないからな」
「はい。かしこまりました」
「で、例の件はどうなっている?」
「はい、今研究中です。この前コルトが、いい案があるようなことを言っておりましたが。あいつは大げさにいうところがありますので」
「そうか、まあコルトの話も聞くだけ聞いてやってくれ。それでどうだ。領地の作物の出来は?」
「まあまあだそうです。もし不作でも税を増やせばいいでしょう」
「そうだな」
この部屋にいるのはストラ男爵と執事だった。
キャスリンはストラ男爵からコルトという言葉を聞いて、びくっとなった。前の人生の時にマークが死んでから、公爵家に執事として入ってきたあのコルトである。
キャスリンは、すぐ部屋を出てコルトを探した。
「コルト!」
部屋の中を歩き回り、キャスリンが疲れてきたころコルトを呼ぶ声がした。
いつの間にかどうやら屋敷の端の使用人のいる場所に来ていたらしく、その食堂から聞こえてきた。
キャスリンが急いでそちらへ向かうと、コルトを呼んでいたのは一人のメイドだった。キャスリンはそのメイドに見覚えがあった。確か公爵邸で侍女頭をしていた女だった。
キャスリンがびっくりしてその女を見ると、その女はコルトがいる方へ走っていくところだった。
女が走っていった先にあのコルトがいた。どうやらどこかへ行って帰ってきたらしい。
「どうだった?」
「見つからなかった」
「そうなの?本当にあるの?」
「ああ、あるさ。だってこれがあるんだぜ。きっとほかにもあるはずさ」
そうして洋服から何やら首飾りを出した。
キャスリンがもっとよく見ようと近づいていくと、その首飾りの紐の先についていた石のようなものが急に光った。
コルトは光った石をびっくりして見つめていたが、急にあたりをきょろきょろしだした。
「誰だ!」
キャスリンはコルトと目があったような気がして、焦って転移した。
気が付けば自分の魔法部屋に戻っていた。
いつもの見慣れた場所に戻って安心したキャスリンだったが、まだ心臓の音が聞こえてきそうなほどドキドキしていた。
キャスリンは落ち着こうと部屋を出て、自分の部屋に戻った。バーバラがすぐに来てくれたので、お茶を持ってきてもらうことにした。
バーバラが用意してくれたお茶を飲みながら、キャスリンは先ほどの事を考えてみた。
「コルトには私が見えたのかしら?」
キャスリンがお茶を飲みながらそうつぶやくと、横で一緒にお茶を飲んでいたバーバラが言った。
「また見える者がいたんですか?」
キャスリンはバーバラに先ほど男爵邸であったことを話した。バーバラはもちろんコルトの事は知らない。コルトが公爵家に来たのは執事のマークが死んだからだ。
「首飾りが光ったなんて不思議ですね」
バーバラの言葉にキャスリンははっとした。確かコルトは首飾りについている石が光って、初めてあたりをきょろきょろしだした。もしかしたら首飾りが光る原因を知っているのかもしれない。
キャスリンはお茶を飲んで落ち着いたので、また魔法部屋に戻った。魔法でまた箱を出し中から魔法の鏡を取り出した。
魔法の鏡に聞いてみれば何かわかるかもしれないと思ったキャスリンは魔法の鏡に聞いてみることにしたのだった。




