未知との遭遇
大型トラックは生活保護者への配給品を載せて、彼らの住宅地へと向かっていた。
大型トラックの運転手は女性の演歌歌手の曲をかけ、一緒に歌いながら運転していた。企業のロゴが入ったトラックでは無く、自前のトラックで内装も外装も自分の趣味に合わせて装飾されている。男の乗ったトラックは刑務所エリアを過ぎ、まだ舗装されていない木だけを切り倒し、行き交う車の重量だけで踏み固められた道を走る。
ここは地上との出入り口から遠く離れた場所なので、まだ整備が行き届いていない。
初めは普通に街の近くに作ろうとしたのだが、地上と地下に住んでいる双方から反対の声が上がり、刑務所と生活保護者の住宅地は地上から遠く離された。
目的地に着き運転手は荷物を倉庫に搬入する。搬入が終わり倉庫の横にある自販機でコーヒーを買い、一服。トラックに戻り、仮眠を取った後にエンジンをかけ今来た道を戻る。
刑務所エリアと住宅地のちょうど真ん中位の距離で、男は小便がしたくなった。
車を脇に寄せ、少し森に入った場所で立ち小便をする。トラックで流していた曲を鼻歌で歌いながら小便をしていると、前方から異様な気配がした。
男は自分の息子を仕舞って、前に歩き出す。
すると、石造りでできた門があった。地上に続いてる物より一回り小さいが形はほぼ同じで奥に続く階段があり、門はぼんやりと怪しい光を放っていた。
「なんやこれ…」男は困惑しながら呟く。
男は一瞬降りるか迷い、意を決して中に入り階段を降りる。階段の壁は石のような材質で出来ており、若干湿っている。コツコツと階段を降りていくと、開けている空間に出た。
そこは洞窟だった。
薄暗い中辺りを見渡すと、広間からは先に続く道が三本伸びているのが見えた。
すると唐突に男の首筋に冷たいものが触れる。
「ヒッ…!!」と男は小さく悲鳴を上げ、首筋を触る。ただの水滴だった。天井から滴ってきた物だろう。男はさっさと上に戻ろうと決意した。
回れ右して階段に戻ろうとした時、通路の先から声が聞こえる。男は振り返り声の主を探すが、誰も見当たらない。声は段々と近づいてくるが洞窟内で音が反響している為、どの通路から声がするのか特定できない。男は慌ててライターを取り出し、つけようとするが中々つかない。ヤスリの擦れる音が虚しく響く。ようやく火がついた。通路に向けて、右へ左へライターをかざしながら階段に後退りする。
男はよほど動揺していたのだろう。後ろの階段で尻餅をつく。その瞬間、正面の通路から人影が出てきた。男は落としたライターを拾い人影を照らす。
照らされたモノは目を細めてこちらを睨みつけている。
男の目には身長1m程の人影が映っていた。だがその顔、身体はその年齢の子供にある可愛さはカケラもなく醜悪そのもの。
身体は全身緑。耳は尖り、鼻は魔女のような鷲鼻、歯所々抜け、腹はビールっ腹、下半身には汚らしい布を巻きつけている。
そのモノは叫んだ
「イギャァァーーアアッ!!!」
手を後ろにやり、ボロボロのナイフを手にこちらに走ってくる。
「うわぁぁっっ!!小鬼じゃあ!!」
そう叫び、なりふり構わず階段を駆け上がった。
男は必死で階段を駆け上がり、出口の目前まで来た。小鬼は直ぐそこまで来ている。男は出口を出て、さらに遠くまで逃げようとしたが足がもつれ転んでしまう。
男の脳裏に死がよぎった。
だが、男の死は訪れなかった。
飛び出した小鬼は黒い煙となり、門に吸い込まれた。男は白昼夢でも見ていたのかと思った。
そう信じたかった。
だが、その場に残った汚らしい布とボロボロののナイフがそれを強く否定してくるのだった。