1話
ウィスラント王国。
伝統を重んじながら、新たな文化を取り入れ発展してきた国である。
今の国王の名はウィリアムという。
そんなウィスラント王国の王都、ラプフィルスの東にハワード侯爵領、ハルバスという街がある。
そのハルバスに住む、居酒屋の娘。
名をニコラという。
歳は17、女学生である。
ニコラは女学校に通いながら、居酒屋の手伝いをしていた。
その娘が、今、国王ウィリアムの前に座っている。
女学生ニコラでも、居酒屋の娘ニコラでもなく、ハワード侯爵令嬢ニコルとして。
「それでは陛下、ニコル様。署名をしていただく書類等はこれで終わりとなります」
「残りの時間はお二人でお使いください」
そう言うと、ウィリアムの執事は部屋を出ていく。
それに続くように、ニコルの従者たちも部屋を出ていった。
部屋にはウィリアムとニコラの2人になる。
「…あの、陛下。今日から、妃見習いという形でよろしくお願い致しますね」
「…あぁ」
ニコラは噂どうりの冷徹陛下だと思った。
何かに執着することはなく、ただ淡々と仕事をこなす。
そして、飽きた玩具や裏切る駒は潔く捨てていく。
その通り。
何にも執着していない、感情のない、冷たい目。
自分が絶対というオーラ。
私も入れ替わりがばれたら殺されるのだろうか。とニコラは考える。
「…お前は」
「はいっ」
「…お前は、誰だ?」
冷たい目に好奇心の色が宿る。
「私はニコル・ハワードでございますよ。陛下」
「ニコル・ハワードの前髪は右分けだ」
「っ…」
ウィリアムにはもう…見抜かれていたのである。
「そんな…前髪の分け目など簡単に変えられますわ」
「そうだな…ニコルは指輪のついたネックレスを片時も離さずしているようだが?」
「っ…」
そんなネックレスなどニコラはしていない。
「ふっ、それで?偽物の妃、どうしてこんなところに?」
ウィリアムは不敵に笑う。
「それは…」