表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

サイモンの拘束

新作「マグナム・ブラッドバス ―― Girls & Revolvers ――」内でのサイモン回を転記。

こちらもよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n5356fp/

「サー・サイモン・メドベージェフ。あなたには、違法な武器取引及び通貨取引に関わる七つの容疑が掛かっています」


 屋敷にいきなり現れた黒いビジネススーツの男が、令状を掲げていった。


「お手数ですが、ご足労願えますか」


 こういう状況を予想していなかったわけではないが、なぜいまなのかは疑問に思った。この時期に踏み切った相手の素性と目的がいまひとつ読めない。


「テオ、()()()()()()()()執事(ミハエル)に伝えてくれ」

「アニキ。弁護士に、ではないんで?」


 いまさら弁護士に用はないだろうな。これは法律(メンツ)ではなく、政治(カネ)の話だ。あるいは、生命(タマ)の。

 前者ふたつはどちらも疎いが、長く関わってきてひとつだけわかったことがある。

 いまなら引きずり落とせると、考えた奴がいる。俺から()()()()()と。


 引退した老害に、そんな大層なカネも資産も地位もねえんだがな。傍から見たら、わからんものか。

 そんな馬鹿にはキッチリ報いを受けさせないと、続けて出てくる可能性が高い。俺個人の足を引っ張る分には自業自得と受け入れてもいいが、いずれ周りにまで被害が及ぶ。

 屋敷の前には、覆面パトカー(アンマークド)の古いクラウンヴィクトリア(フォード)。身振りと身分証(カード)を見た限り、官憲であることには間違いない。この期に及んで偽者を出して来るほどの雑な相手ではなさそうだ。

 玄関まで見送りに来た執事から、上着と帽子を受け取る。


情報漏洩(リーク)した奴には、()()()を届けろ。首謀者とはいずれ、()()の機会を」

「は」


 血生臭い日々は、忘却の彼方に去っていたんだがな。なかなか、逃げられんものだ。

 下男のテオが、おどけた敬礼を見せる。ぶん殴るぞ阿呆が。この能無し中年、面白そうな顔を隠しもしない。


「差し入れに行きますよ、サー」

「要らん」


 この阿呆が張り切ると、碌なことにならない。なにせ若い頃こいつは収監された仲間にデリンジャーを差し入れしようとしたのだ。当然のように見付かって、テオ自身がしばらく刑務所暮らしをすることになったが。

 ミハエルに目配せすると、ちゃんと監視しますとばかりに慇懃な目礼が返ってきた。


「まずは、事情をお訊きするだけです。()()()すぐに戻れますよ」


 俺がフォードのリアシートに座ると、助手席からブラックスーツの男が声を掛ける。

 まずは前哨戦で様子見。そこから長い消耗戦(どろじあい)に入り、手打ち(シメ)までに何をどれだけ剥ぎ取れるかが相手の目論見になるのだろう。

 そう簡単に済ませる気はない。()()()()()()()()()()()()、わからせてやらねばならない。


 こんなときに、シェーナが訪れたら申し訳ないな。

 おかしなことに、俺はそんなことを気にしていた。猛り狂った獣のような目をしながらも、おかしなほど愚直に生きてる少女を思い出して、俺は奇妙な感慨を覚える。

 有り体にいえば、もう彼女は必ずしも俺との取り引きを必要としてはいない。

 信じあえる仲間がいて、とりあえずの武器(じゅう)乗り物(あし)もあって。いまだ旅を続けてはいるようだが、生きてゆく上での居場所は手に入れている。

 いずれまた、俺との繋がりは切れる。違う時間が、違う人生が、俺の知らない場所で流れ始める。

 それで良いのだろう。そうあるべきなのだろうと、頭では思う。いつまでも俺なしで生きられないような人間なら。それは生きる力も意欲も才覚もないということだ。おかしな力で繋がったのは以前もいまも、歪みながらなお真っ直ぐに前を向いて走り続ける魅力的な相手だった。

 幸か不幸か、俺の周りにはそんな奴らばかりが集まる。それを人望と呼べるほど、自惚れてはいないが。彼らは誰もが、神の祝福と精霊の加護を受け、光に満ちた人生を送る。


「……ああ」


 そしてみんな、いなくなってしまうのだ。

 清潔で退屈で静まり返った暗い場所に、老いた俺だけを置き去りにして。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ