黒い街
「ここはどこですか?」
「街だよ、そこまで大きくはないが」
「街なんですか…暗いというよりは黒いですね」
「朝が来ないんだ…日が上らないんだ…」
「ずっと、夜なのですか?」
「そうだ、ずーっと夜だ」
「でも、月がないですね」
「月は滅多に出ない。でも出た時は何度かある…」
「そうなんですか」
「もう何年も前のことだが…あれは見事な満月だった」
「…あなたの名前はなんというのですか?」
「知らん。この街にいる人は名前なんてとうの昔に忘れた」
「…………」
「いや、ここにきた時点でもう覚えていなかったんだ…お前は覚えてるか?」
「僕の名前は……あれ、なんだったっけ…」
「あぁ、そうか。この街は……」
「あれ、僕ここに来る前、何を、してたんだっけ……」
「この街は、最初から……」
「何も思い出せない」
「見ろ、月だ。満月だ。」
「…………綺麗ですね」
「あぁ、そうか。やっぱり…」
「何がやっぱりなんですか?」
「俺らはもう何度も出会っては、話して、月を見て、忘れる…それをずっと繰り返していたんだ」
「まさか……」
「ほぉら、また記憶が消えて行く…」
「……」
「この街の本当の意味を知ることができたのなら、解放されるのだろうか……」