六話 非常事態
「…誘拐された」
「えっ?」
「多分、争いの当事者の一人は俺の幼馴染だ。そして、もう一人も心当たりがある」
そんなの一人しかいなかった。穂乃香を呼び出した血煙だ。
「血煙遼太。一年一組の奴だ。そいつが誘拐した」
怒気を帯びた震えた声で話している事は自分でも理解していた。
急がなければ穂乃香がどうなるか分からない。
「成程ね。早速対策を立てるわ。貴方はもう帰っていいわよ」
「ちょっ…なんで」
「だって、黒薔薇部隊に来る気はないのでしょう? だったらあなたに関係はないじゃない」
「…」
人は常に、何かに縛られる。
この場合は言葉。自分が放った言葉に俺はがんじがらめにされていた。
でも、この程度なら問題は無い。
俺が穂乃香以外の人間に接するのは価値があるかないかだ。
この場合もそう。アイツを助けるために、俺はお前らを利用する。
どんな力を手に入れてでもアイツは守りきる。
「だったら、俺を黒薔薇部隊に入れてくれ。出来ることはなんでもやる。お願いだ! 俺にアイツを助けさせてくれ!」
「フフ……いい目ね。佐倉進太郎、貴方を歓迎するわ」
***
黒薔薇部隊は先述した通り、あらゆる学校の風紀委員のような存在だ。
俺たちの紫炎学園所属の一角の支部は無論校内にある。
「ここか?」
「そう! ようこそ」
ドアを開けて真っ先に見えたのは学園長とかが座りそうな高級そうな椅子と机。後ろの窓から後光が差し、神々しくすら見えてくる。
会議用の長い机と山積みになった資料、床や壁は白に統一されていて、清潔感を保っている。
「いかにもって感じだな……」
「さてさてみんな! 一年の佐倉君入隊決まったわよ!」
そう声を上げると、部屋の螺旋階段からバタバタと人が慌ただしく降りてくる。
「マジっすか!?」
「すごい……さすが……副委員長……」
「おぉー」
「早速だけど紹介するわね佐倉君。この茶髪が二年五組、谷口全よ。能力はまぁ……おいおい見せるわよね?」
「うん。よろしく佐倉君。まぁ気楽にやろうよ」
「はい…よろしくお願いします」
物腰が柔らかくて、接しやすそうないかにも優男って感じだ。
「次ね。この……金髪のロングで顔すら見えない奴は…」
「奥寺草子……よろしく……ね」
「えぇ。よろしくお願いします」
「さて最後。このチャラチャラした女は…」
「若林摩耶っス!ヨロシクっす〜!」
「は、はい……」
とりあえず谷口さんから色々教わろう……なんか他のふたりは不安で仕方ない。
「対策を立てるわよ!全員座って」
全員が座った所で、言葉を続ける。
「通報場所は特定してる?」
「言われずとも……既に……」
奥寺は鞄からノートPCを取り出すと、カタカタとテンポよく地図のソフトをいじっていく。
「ここ……警察からの連絡……場所……」
やはりファミレスの近くの路地裏だ。
「成程ね〜。争った形跡とかは?」
「これ……見てください……」
見ると、至る所の壁や地面が血に塗れていた。
「DNA鑑定によると……これ……女の子のじゃない」
つまり血煙のものだと?
だとしたら穂乃香は無事な筈だ。
「そうなるとこれは佐倉君の言う血煙の血になるわね〜。しかし誘拐されたのは無傷の穂乃香ちゃん。間違いなく異能が絡んでるわね」
「でしょうね。となると問題は異能の種類になります」
「恐らく……操作型。ほかのものなら……何かしら形跡がある……変化型なら……皮膚がその場にあったはず。何も無いなら……操作型」
「難しい事は分かんないっすけど、操作型でいいんっすよね?」
それ最早何も分かってないでしょ……
「そうね〜さてさてこれからどうするかね」
「……PCがおかしい!」
奥寺さんがらしくもなく声を荒らげる。
「ちょっといきなり何よ!?」
「おかしいんです……!」
モニターを見ると、ジジジと画面が揺らいで切り替わる。
「繋がったかな……ジャック成功だ」
聞き覚えのあるこの声は紛れもなく血煙遼太のものだった