五話 誘拐
馬克との小競り合いのあと、俺は教師達から事情を聞かれ、校長室に強制連行された。
しかし、そこにいた風切と穂乃香の証言により、正当防衛ということでお咎めは無しになった。
「飯にいくぞ〜」
つい先程の馬克戦からの疲れからか、全身に力があまり入らない。まず飯を食べて栄養補給だ。
「ご飯!? いこいこ!」
***
「ほんっとよく食うよな……お前」
「何ッ?何か文句あるの!?」
「いや……別にないけどさ………」
レストランのテーブルの上には、皿が五枚。
うち一つは俺が食べた品物。
ここに座るのは俺と穂乃香の二人だけ。
つまり残りの四枚はこいつのである。
「……なんで太んねぇの?」
「さぁ? 全部胸に栄養行ってんじゃないの?」
……こいつ自分で言ってて恥ずかしくないのか?悲しくならないのか?
こんな事を言ってるが穂乃香は大して胸が大きいわけではない。実際、軽く見た感じクラスの女子よりかは遥かに小さかったのだ。
「女と飯か?」
「お前か……赤髪」
そこに現れたのは、教室で俺を蹴り抜いたあの赤髪だ。
名前は……
「血煙遼太だ…」
「そうそれ。お前は? 風切と飯食わないの? 彼女なのに」
「喧嘩を売ってんのかてめぇ……あの『稲妻&発火』を吹っ飛ばしたからって調子乗ってんじゃねぇぞ?」
もう知れ渡ってんのかよ……
「風切は彼女じゃないのね了解。んで、何の用?」
「用があるのはお前じゃない。そこの女だ」
「えっ……私?」
***
「なんだったんだろうな…」
「うーん…とりあえず、シンタは寮に戻ってて?」
「あぁ。そうするよ」
ふと五分前の会話が頭をよぎる。
アイツを一人にしてよかったのか?
あんな奴と二人にしてよかったのか?
信用してよかったのか?
同時に迷いが脳を埋め尽くす。
「私は強いから大丈夫!」
……嫌な予感しかしない。
戻るか? でもあんなこと言われちゃあな……それはそれで駄目な気もする。なんか…そう
「私の事信頼してないの!?」とか言われそうな気がしてならない。
「甘い物でも買うか」
気を紛らわす為に、コンビニに寄り板チョコを何枚か買って寮に向かう。
ん?
人だかり。前には……なんだ? 黄色のテープ……立ち入り禁止?
なんだ野次馬か。それはいいが、寮への最短ルートはここだ。
回り込んで帰るとなると相当な時間がかかる。
「はぁ〜」
「佐倉進太郎君ね?」
突然後ろから声を掛けられ、バッっと勢いよく振り向く。
「女?」
そこに立っていたのは、学生服を着た茶髪ショートの女。背の高さからして、一年ではないことは容易に推測できた。
「あんた誰だよ」
「私は『黒薔薇部隊』の一員 藤堂奈留。あなたを『黒薔薇部隊』に招待しに来たの」
『黒薔薇部隊』……いわば外の世界で言う風紀委員的存在だ。あらゆる特区内の学生有志によって構成される一大組織だ。
「……断るよ。そういう面倒な仕事は嫌いなんだ」
「あなたの能力、実に興味深いわ。というか、これはあなた自身の為でもあるのよ?」
「どういうことだ?」
すると、奈留(先輩?)のスマホに着信が入る。
「はい。えぇ。えぇ。黒髪ロング?一年一組……了解すぐに向かうわ」
黒髪ロング、一組。
その二つに当てはまるのは…あいつしかいない。
「どうしたんすか?」
「誘拐よ。それも紫炎学園生徒間のね」
その発言から、ようやく完全に理解した。
穂乃香が誘拐された事を