四話「対能力者の心得」
オリエンテーションを終える。
とは言っても、この特区内の施設とか寮の説明をされただけである。
ふと黒板上の時計を確認すると、十一時半を指していた。
「今日はこれで終わりか」
「ご飯でも食べに行こうか?」
机で頬杖をつきながら、隣の穂乃香と会話する。
「……」
「何? どうしたの?」
「重大な問題が発生した」
「ッ!?」
「トイレに行く」
***
トイレから戻ると、教室には大きな人だかりが出来ていた。
窓際の一番後ろ……の右横。
俺の隣の席。つまり、穂乃香の席だ。
人だかりを構成する人々は半数以上が男。
だけどどこか違和感がある。
「なぁなぁ。穂乃香ちゃんは外部出身なんだろ? 外はどんな場所なんだよ」
「別に……ここと大して変わらないわ」
俺と接している時とは態度が明らかに違う。
背伸びして覗き込むと、今すぐにでも死にたい。とか、その辺の表情が見て取れる。
「あら。進太郎君」
「おぉ。風切か……なんだよ」
「あれいいの?」
「あのなぁ。いいわけないだろ」
「でしょうね。あなたの大切な幼馴染なんだもの」
…なるほど。違和感の正体はこれか。
「あの赤髪はどうした?」
「あいつならとっくに帰ったわよ。それよりどうするのよ幼馴染。変な男に誑かされてるけど」
「分かってるよ」
ガン!
俺はそこにある机に手を叩きつけた。
男達の視線が俺の方に集中する。
そのままズカズカと人混みを掻き分けて、
「飯行くぞ」
「うん!」
穂乃香に笑顔が戻る。
彼女が準備していると、男の一人が俺を強引に振り向かせ、胸倉を掴んでくる。
「調子乗ってんのか? オメェ」
「別に。一緒に飯食うぐらいいいだろ普通」
「…そこの女もそうだろ。何俺の誘い断ってんだよ!」
金髪ピアスの青年は席を思い切り蹴り飛ばす。
こいつ女にはモテないタイプの奴だ。
「おいおいまずいよ」
「アイツ終わった」
周りからひそひそ話が聞こえる。こいつ相当できる能力者なのか?
「校庭に来い」
***
「彼の名前は遠山馬克中学の頃から名の知れた不良よ」
「能力は?」
「それは知らない。あいつが喧嘩してるとこ見たことないし、興味もないから」
「だ、だよね…」
風切ちゃんみたいなクールビューティがそんなのに手を出したら危ないもんね。と心の中で呟く。
「いいか?」
「飯食うだけのためになんでここまでしないといけないんだよ。しゃーねぇな…」
「行くぞッ」
「焼き尽くせ! 『稲妻&発火』」
「うおっ。すげぇ熱だな」
プラズマだろうか、火山などを描写、演出する際に使われる火山雷のようなものが渦巻いている。能力による小規模噴火。
「彼の発火能力は通常のものとは違う。炎の能力であると同時に、雷の能力でもある。まぁ雷はおまけのようなものだけどね」
「…進太郎」
「ヒャッハーッ!」
「…使うぜ。俺の能力」
俺も同様に、能力を発動。
「…お前。俺と同じ発火能力なのか? いや…だとすればその周りの雷は?」
「焼け」
「クソがッ!」
無数の炎の弾丸を俺の方に放出。
直撃と同時に爆発が起きるが、俺には関係ない。
「相殺……したか…」
能力とは、同系統、同出力の状態で複数が激突すると、それぞれが相殺しあう。
「消えろ」
「〜〜〜〜〜ッ!」
馬克も、能力を展開していたが、俺の能力が容赦なく突き刺さる。
「二度と俺と穂乃香には関わらないでほしいものだ」