一話 或る部屋で
そこで私の幼い頃の記憶は完結している。
皮肉にも、今の私に残る幼少期の記憶は後にも先にもこれだけだ。
部屋の中心に佇む柱に繋げられた手錠の先には私の右手。
部屋の外からしか鍵が掛けられない、まるでメリットのない監禁することに特化したかのような部屋。無論、電気もつかないし、ここには水道すらない。
「……」
おもむろに、青いバケツに目をやる。
中からは嫌でも嗅ぎなれたアンモニア臭が漂っている。
「クソ……」
ボロボロのズボンを降ろし、用を足す。
ここに来て、何日…何年が過ぎたのだろう。
窓やカーテンを全て閉め切って、外部との接触を完全にシャットアウトしたことにより、それすらも分からない。
「水だ」
鉄扉からチューブ状のストローが入れられる。
「ッ!」
もう何日間(?)も水分を摂らなかったので、思わずそれに飛びつき、中身を飲み干す。
「ついでに飯だ」
差し出されたのはパン二つ。
「これだけ……なのかよ」
それを見て小声で呟く
「文句があるなら、今度ボスにでも言ってみろよ」
がちゃんという音と共に、鉄扉がまた閉まる。
また一日が終わる。
「殺す……」
もう一人……その部屋には少女がいた。
精神的にも肉体的にも疲弊した身体を癒すため、死んだように眠る少女。
俺の手を掴み、こう呟いた。
「一緒にここから………■■■ね? 進太」