山の入り口と、媚びの売り方
キナノ山の入り口へは、お昼になる前にたどり着いた。
上り坂の獣道を眺める私の隣では、幼馴染の少年がぜぇぜぇと荒く息をしていた。
「何よウィル、鍛えているってわりに、情けないわね。そんなことで剣士としてやっていけるのか、あんたの将来が心配になるわ」
「はぁ、はぁ……り、リッカ……俺はお前の将来のほうが心配だ……嫁の貰い手が、絶望的に存在しえない気がする……」
荷物に押しつぶされるように地面に崩れ落ち、へたばる我が幼馴染。
ちなみにだけど、ウィルが背負っている大荷物は、基本的に全部私の持ち物だ。
錬金術師は道具がないと何もできないんだから、この大荷物はしょうがないし、どの道持っていかないといけない道具なら、体力のあるウィルが持つのは合理的な判断だと思う。
だというのに、この幼馴染はどうも、その辺が気に入らないらしい。
「何でよ、失礼ね。……まあ何なら? あんたが嫁にもらってくれてもいいのよ?」
わりとストレートに牽制を入れてみる。
こいつは著しい鈍感だから、このぐらいは攻めたうちにも入らない。
「ほ、本当にそう思うなら、将来の旦那には、もっと媚びを売るとかしてもいいと思うんだが……」
「何よあんた、そういうタイプが好きなの?」
「少なくとも、俺の幼馴染に関しては……多少そういったものが必要なのではないかと、常々考えている……」
「……ふぅん」
そういうことなら、少しやってみようか。
私は疲労でぜぇはぁ言っている幼馴染の前でくねくねとしなをつくり、色気を意識して言ってみる。
「ねぇウィルぅ~、私もう疲れちゃったぁ。おんぶしてほしいな♪」
そう言って、パチッと一つウインク。
さあどうだ。
「……違うんだよなぁ。根本的に間違ってるんだよなぁ」
我が幼馴染は、がっくりと肩を落としただけだった。
どうも彼の想像していたものとは違ったらしい。
「何よ、贅沢ばっかり言って。──ほら、そろそろ少し休めたでしょ。行くわよ」
「へいへい。お姫様のおっしゃるとおりに」
ウィルは、よっと気合を入れて、立ち上がる。
何だかんだと文句は言うけど、実際のところは結構体力あるし、気合もあるやつなのだ。