錬金術師の少女、剣士の少年
私、リッカ。花も恥じらう十五歳♪
このポッカ村のはずれの一軒家で、錬金術師を営んでいます。
そんな私は、今日も今日とて開店準備に大忙し。
朝起きて顔を洗って歯を磨いて、寝間着から錬金術師のローブに着替えつつ──
「──おい、リッカ! リッカいるか!?」
「ぎゃああああああっ!!」
突然、家の裏口の扉がバンと勢いよく開かれて、幼馴染の少年がずかずかと家の中に入り込んできた。
そしてきょろきょろと部屋の中を見渡し、私を見つけると、ずんずんと近付いてくる。
なお、私、着替え中。
下着姿。
「なっ、なっ、ウィル、あんたっ……!」
「お、すまん、着替え中だったか。──そんなことより大変なんだ! ファムが……」
「そんなことよりじゃなああああいっ! 出てけぇえええ!」
私は足元にあった手桶を、幼馴染の少年──ウィルの顔めがけて投げつける。
でもウィルは、それをひょいとよけた。
そしてなおも、私のほうへと向かって歩み寄ってくる。
そ、そうか、剣士として日頃から鍛えているウィルだ。
あんなのよけるぐらいは朝飯前──って、そうじゃない、問題はそこじゃない。
私が慌てていると、やがて私の目の前まで来たウィルは、その両手で、私の両肩をがっちりとつかんできた。
私より頭半個分ぐらい高い身長。
こうしてまじまじと顔を見させられると、我が幼馴染ながら、あらためてイケメンだと認めざるを得ない。
金髪碧眼で、やや童顔ながらも整った顔立ち。
体にはほどよく筋肉がついていて、男子らしいたくましさがある。
昔からの付き合いとは言え、こうまで攻め寄られると、私も気が動転してしまう。
「あっ、な、なに、ウィル……ちょっと待って……私、まだ心の準備が……」
「……? 何言ってんだお前。──それよりリッカ、ファムが大変なんだ!」
一度不思議そうな顔をしてから、またシリアスな表情で詰め寄ってくる我が幼馴染。
私はそれで、今の状況を概ね察したけど、だからと言ってすぐに落ち着けるわけでもない。
「お、おう。妹さんの何が大変なの。私の精神状態も今は大変だぞ」
「それが、今朝から高熱を出して、寝込んでるんだよ。それも、ちょっと普通じゃない。お前に診てほしいんだ」
「うん、事情は分かった。でもこっちの乙女の事情も察してほしい。準備ができたらあんたの家に行くから、ひとまず出てけ。いま私、気が気じゃないから」
「そうか、分かった。じゃあ家で待ってる。頼むぞ」
そう言ってウィルは、私を解放して、出ていった。
裏口の戸が閉められると、私はその場でへなへなと崩れ落ちて、ぺたんと座り込む。
「……もうっ! あのバカ! 朴念仁!」
どう見ても私だけ意識させられているのが悔しい。
あの唐変木め、今に見ていろよ……。