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終末の聖書~バイブル~  作者: 森戸玲有
第6章 潔く壁をぶち壊すべし
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4

「…………どうして?」


 戸惑うユリアーナと、唖然としている一同の隙を見計らって、ふらふらと、ユリアーナを庇うように前に立ったのは、レイティアだった。


「凄いね。練習の成果が出て良かった。さすがユリアーナさん。狙い通りだ」

「レイティア大司教……。何で貴方がここにいるんです?」

「神様が僕を遣わせたらしい……とか言ったら、また引かれそうだなあ」

「…………貴方はっ」


 気色ばむギュンターに向き合ったレイティアは爽やかな笑みで手を横に振った。

 手を振っているわけではないようだった。


「その見るからに危なかっしい拳銃を下ろせと言っているじゃないの。早くしてよ。それとも、無抵抗の聖職者を撃つわけ?」


 それでも、尚、躊躇うギュンターにレイティアは真顔で言い放った。


「僕は知っての通り、ローレアンの枢機卿。家出中ではあるけど、教皇はとても僕を可愛がってくれていてね。もしも僕がここで死ねば、ローレアンが全国に触れを出すだろうね。――アッシュバルムを攻めろと……。貴方一人の独断で対処できる問題ではなくなるよ」

「くそっ」


 渋々、銃を下ろすようにギュンターは兵士達に命じた。


「しかし、レイティア……枢機卿。その小娘は、アッシュバルムの軍人です。貴方の管轄外ですぞ。どういうお気持ちでここに来たのかお察しできませんが、その娘は私達の軍規で処分を言い渡しますので、置いて行ってください」

「処分?」


 レイティアは、ユリアーナが心配になるほど、腹を抱えて泣きながら笑った。


「安易に殺そうとしてた気の短いおっさんに、殺す以外どんな方法が思いつくっていうのさ?」

「…………何をおっしゃって」

「用済みで役立たずというのなら、ユリアーナさんを、僕にちょうだい」

「……枢機卿。ウェラー教に対して、軍事が介入しない代わりに、軍事にウェラー教は口を挟まない。これは暗黙の規則だったはずです」

「だけど、残念ながら、僕には挟む理由がある」

「参考までに、何でしょうか?」

「彼女は、正真正銘、修道女(シスター)だ」

「はあっ?」


 叩けば鳴るとばかりに、さらりと反駁するレイティアにユリアーナは目を回していた。

 ユリアーナの事情に巻き込ませないために、ひっそり大聖堂を出てきたのに……。


(これじゃあ、意味がないのに……。私)


「ね? ユリアーナさん」


 同意を求められ、ユリアーナは小さくうなずいた。本気で修道女になるには、覚悟が今一つ足りない気がしたが、もう、レイティアにまかせるしかなかった。


「頭は平気ですか。レイティア枢機卿。貴方もこれが全部作戦だったとご存知でしょう?」


 ギュンターが執念深く噛みついてくる。

 しかし、レイティアは怯むことない。

 悠然と一歩踏み出した。


「でも、彼女は修道女だよ。――だって、僕が今、叙階したんだから」

「…………何、ですと?」

「僕、枢機卿だよ。叙階くらいなら独断即決ですることくらい簡単だ。信じてくれないなら、この場で見せようか。えーっとユリアーナさん。両手を出して」

「えっ。ええ?」


 言われるがままに前に出したユリアーナの両手を、恭しく両手で受け取ったレイティアは、目を閉じた。


「ユリアーナ=ベル」

「はっ、はいっ」

「汝は……。病める時も、健やかなる時も」


(……へっ?)


 何というか……。何もかもがおかしくないか?


「……レイティア=キャライに、愛を誓いますか?」

「あの。何で、結婚の宣誓になっちゃってるんですか?」

「ダメかな?」

「撃てえっっ!」


 ギュンターの堪忍袋の緒が切れたようだ。

 後先を見えなくなって無茶なことを部下に命じている。

 しかし、相手は枢機卿、神父だ。レイティアを撃つことに迷いがあるのだろう。

 ギュンターの部下たちの動きは、おそろしく緩慢だった。

 レイティアは、ユリアーナをそのまま自分に引き寄せると、懐から丸い球体を取り出した。みんなが見守る中、レイティアは何処からともなくマッチを取り出し、手際よく導火線に火をつける。 


「レイティア大司教。それは……」


 すぐに、その正体に気づいたユリアーナだったが、茶目っ気たっぷりに片目を瞑られた。

 黙っていろということらしい。


「何だっ。それは。答えろっ!?」


 ギュンターは重い体を機敏に動かして、上手く退いていく。

 丸い球体からは、桃色の煙がもうもうと上がり始めていた。


「……見たら分かるでしょ。爆弾だよ。ハゲのおっさん」

「ばっ……!」

「どっっかーん!!!」

「ひいいっ!」


 その場の軍人たちが一斉に後ろに飛びのいたのを見届けたレイティアは、ユリアーナの手をひいて、すぐ後ろの扉を足蹴りして廊下に飛び出したのだった。


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