最後の夜
彼のもとまで、急だけど、行って、抱かれたことを思い出すと、たまらない気持ちになる。
彼は私を手で気持ち良く撫でたり触ったりした。
キスをして、彼が、ふっと離れて、ベッドに座ったまま、沈思していた。最後の夜に。何かあるのか、と思って、彼の側に起きなおって、私は抱きしめた。彼はあたたかくて、やわらかい。黙っていたから、何か考えてる?なんでも言って、と声を掛けたら、「服を脱いで欲しい」と彼がこたえた。いいよ、と言って、私は服を脱いだ。下着を脱ぐとき、少し恥ずかしくて、全部?と、問い返したら、「うん」と彼が言った。はだかになって、私は彼の側に座った。それからは、はっきりと思いだせないけど、たしか、彼が私を横に倒して、キスをして、彼も服を全部脱いで、私の耳を口に含んで、長いこと含んで、音を立てて、やわらかく食べた。私は、めまいがして、とけてしまいそうだった。ああ、とか、はあ、とか変に声が漏れて、少し抵抗したけど、それだって、無駄な抵抗だった。抗し得ない快感におぼれて、助かりたくなくて、死んでしまいたい気もしつつ、生きて・生ききってしまいたい気もした。
彼の手が私に触れた。彼が、ずっと私の耳をやさしく食べながら、私を泣かせようとしている気がした。彼の唇に私の歯が強くぶつかって、私は自身が必死なんだというのがわかった。彼の指が、私の秘密を撫でたり、指先でさすったりした。私はゆるやかに・やわらかに彼からおいつめられているんだと思った。彼はときどき、暗ごしに見える、私の顔を見つめた。
私は、彼に包まれながら、自分を手放すよろこびに身体を波打たせた。けいれん発作のように、声が口から出て、出て、出て、奔流のいきおいだから、それは、とめどなく出て、彼は私を見ていたのだろうか?彼の指先は、まだ私の芯に触れていて、私の、肩や背中をふるわせた。彼が私をまさぐるように、ゆっくり、やさしく、ときどき、狂暴に触れて、指先を動かした。彼はしずかだった。部屋には暗闇があふれていたけど、足元用の小さな橙が灯っていた。それが私と彼をかろうじて分けていた。彼はたしかに私に触れていた。私を征服しようと、黙々と、対象を見つめながら。つまり、私を見つめながら。私はまた自分を手放した。彼は二回も、私にそうさせた。それからは、私が敏感になったから、私は彼の腕をとって、だめ、と言った。彼は少し反対した、黙しながら、手を、指を、動かしたから。あたたかかった。だめ、ともう一度言うと、彼がすっと離れて、準備をして、その間も、彼が我慢の限りをつくしているのが感ぜられて、私は嬉しくてもどかしかった。彼が私に分け入ってきた。少し、痛かった。彼が私にくずおれて、はぁっ、とため息した。彼も気持ち良くて、限界まで尽きそうだったんだ、と思った。私に全部、教えて欲しいと思った。彼の全部を、私に。彼は少し、動いた。おかしくなりそうだった。それでもいい、と思った。関係ない。彼が手に入るなら、関係、ない。きっと、全部もらっても、まだ欲しいのだ。おかしくなるというのは、そういうことなんだ。彼がいなきゃ、生きていけない。朝、目が覚めて、彼がすぐ隣にいること。目が合って、その瞬間、キスしてもらえること。もうずっと、それだけの毎日なら、いいのに。彼のすべてを、彼の手で、私に与えて下さい。けど、彼は私を離れた。それから、私の右隣にどさっと倒れて、私は彼のすべすべした背中に抱きついた。しだいに、互いの呼吸を得て、静に暗闇に包まれて、眠った。