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第4話 金の瞳に映るのは

ソフィアが戻って来た後、名無しさんは勝手にすればいいとばかりに読書に入ってしまったが、彼女はわざわざ建物内を簡単に案内してくれた。


変な場所から出入りすると警報が鳴ると注意を受けたが、広い建物のほととんどの部屋は空き部屋で、案内は直ぐに終わってしまった。

最後にソフィアに用意された部屋に案内されると、あとは好きにしていいとそこに置いて行かれた。


それでようやく落ち着くことができた。

アルギュロスははじめに通された部屋でもそれなりにリラックスしていたようだが、テュラーはそうもいかなかったのだ。


とはいえ、まだ問題は残っていた。

当分の間、生活面の面倒はソフィア達が見てくれることになったが、まだ彼女達を完全に信用しているわけではない。利用できる間は利用するが、不都合があればすぐにでもここを出ていくつもりだ。


ソフィアが持っている情報も気になることは気になるが、重要性が低いため最悪得られなくても良いだろう。

仮に彼女達が信用できる相手であった場合も、彼女達と手を組むかどうかも考えておかなくてはならない。


彼女の言う手伝いをしていれば、少しは彼女の組織について分かるかもしれないが、深入りすれば逃げるのが困難になる。それどころか、知ってしまったら仲間になるか死ぬかの2択を突き付けられかねない。


これらのことを含め、唯一信用しているアルギュロスと話し合う必要がある。

彼女はソフィアが出て行ってからずっと、部屋の中を調べてくれている。いまさら罠などを仕掛けるとは思わないが念のためらしい。


「これからどうしようか」


記憶が戻るまでは大人しくしていたいのが本音だ。そうゆう意味ではこの状況は非常に好ましい。保護者がソフィアなのを除けばの話だが。


それに協力しようとは言ったが、アルギュロスと違ってテュラーには戦う力がない。異能力を持っている可能性はあるが、記憶喪失のため使い方が分からない。いざという時には彼女に見捨てられてもおかしくないのだ。彼女の協力者でい続けるために、必要な存在に成らなくては。


「わたしは戦闘が得意。そうゆう風に育てられたから、それしかできない。だから、それ以外のことはあなたに任せる。例え戦う力がなくても、わたしはあなたが必要。わたしに出来る事は何でもする。だから、わたしの側に、居て。わたしがあなたを護るから」


彼女の異能力があればテュラーがいてもいなくてもどうにでもなりそうだが、不安なのは一緒だったらしい。彼女もまた、自分が捨てられるかもしれないと思っているのだ。


テュラーとしては自分より強く、自分を信用してくれる彼女は有用で、何よりその美しさに魅かれつつあるため、見捨てることなどあり得ない。


弱き者は生きるために強き者に従い、強き者は必要だと判断した弱き者を庇護する。

基本的に弱肉強食の世界でも、単純な力の優劣では生き抜くことができない。自分に足りないものを知り、それを補うために協力し合わなくては直ぐに足元をすくわれてしまう。


優れた力を持つアルギュロスであっても戦闘以外は専門外で苦手なのだろう。もしかしたら1人では生活もままならないかもしれない。協力者に求めるものは力ではなく、足りないものを補うことか。


今の彼女が求めているのは信頼できる協力者。戦闘以外に対処できる人材といったところだろう。

テュラーが交渉術に優れていると言うわけではないが、彼女よりはましであった。


「見捨てない。俺も君が必要なんだ。最低でも記憶が戻るまでは協力者だ」


記憶が戻った時、彼女との関係がもともとどんなものであったのか分からないため、記憶が戻っても協力者であるとは言えない。それでも、彼女が敵にならないかぎり、彼女の協力者であり続けようと思う。


「よかったら君の故郷のことを聞かせてくれないか?」


自分のことはほとんど話せないけど、彼女のことを知りたいと思った。

それに、幼い頃の記憶を保っているはずの彼女にとってもここは見慣れない場所のようだ。言語もテュラー達の使っているものとは違っていたし、少なくともここら辺は2人の生まれ育った場所ではないのだろう。


彼女の故郷の話を聞けば、何か思い出せるかもしれない。と、初めから言葉が通じた彼女が同郷であると判断したのもあった。


しかし、彼女の話は想像していたものとは全然違っていた。

いや、全く想像できない話でもなかった。彼女と出会ってからの数時間で、その片鱗はあった。ただ考えないようにしていただけだ。だからこそ遠慮がちに話を振ったのだから。


「わたしは、施設からほとんど出たことがない。あったとしても、その記憶はないから話せない」


「施設って、君は孤児だったのか?」


「わからない。物心ついたときには既にそこにいた」


目を伏せ首を振る。その動きに合わせてさらさらと動く髪が、天井の光源にてらされきらきらと輝く。話の途中だが、思わず見とれてしまった。


「もしかしたらわたし、逃げてきたのかもしれない。テュラーも気付いてると思うけど、わたしは感情が乏しい。そうゆう風に教育されたから。わたしは、人ではなく道具として育てられた。必要のないものは全て壊された。持っているのは戦闘スキルだけ。それでも、いいの?」


アルギュロスの言う施設は子供を保護するところではなかったのだろう。人殺しのための道具。意思のない操り人形。人目を欺く暗殺者。およそ人道的ではない扱いを受けてきたのだろう。


アルギュロスは自分の過去を話すことで、捨てられるのではないかと心配している。今まで人として扱われたことがなく、誰かの意思で動かされていたのだろう。

だから、強い力を持っていても怯えている。協力者と言えども、戦える分アルギュロスの方が優位に立っているだろうに。最悪、その力で従わせてしまうことも可能だろうに。


そして、過去を話さないという選択もあったはずだ。それでも語り出したということは、聞いてほしいということ。この話を聞いてもそばにいたいという気持ちは変わらないだろうけど、本当は思い出したくないことなら無理させたくはないけれど、きっと彼女はありのままの自分を受け入れてくれることを望んでいる。きちんと話を聞いて、そのうえで肯定してあげよう。


「いいよ。俺は過去の自分がどうだったのかもわからないんだ。それこそ、君と同じ施設の人間かもしれない。それに今は足手まといでしかない。俺の方こそ協力者なんて名乗ってていいのか?」


「テュラーは、施設の人間ではない。あそこは、とても暗くて冷たい。テュラーとは、全然違う。能力が覚醒してからは、失敗作と言われ、指導も雑に、なっていった。記憶が飛ぶことも、多くなって。気付いたら、あそこに」


アルギュロスの異能力『銀の支配者』は銀を自在に操れるという、非常に強力な力だ。それなのにその能力が発現してから失敗作扱い? 何か他に狙っていた能力でもあったのだろうか。


「わたしが意識を失っている間、何をしていたか分からない。もしかしたら、失った記憶なんて、ないのかもしれない。わたしは、無意識に力を奮っていたのかも。近くにいたら、あなたにも危害をくわえるかもしれない」


だんだんと顔を伏せ、不安の色を強くする。


「それでもそばにいて欲しいんだろう? だったら、いいよ」


「やっぱり、テュラーは温かい。気が付いて、初めに出会ったのが、あなたでよかった。協力しようと、言ってくれたのが、あなたで、よかった」


そのまま真正面から抱き付いてくるアルギュロス。

ちょっとだけ、ほんの少しだけだけど、その目から涙が零れた。感情が乏しいなんて言っていたけれど、ない訳じゃない。よく見れば表情の違いが分かる。


ここにいるのは、道具でも人形でもない。1人のきれいな女の子だ。


「ちょっと、アルギュロス。君の服冷たいよ」


アルギュロスは銀の塊を変形させてその身にまとっているのだ。能力のせいか硬くはないけど、ひんやりとしている。照れ隠しも含めて離れるように言う。


「分かった。じゃあ、脱ぐ」


「へ? いや、そうゆう意味じゃ」


止める間も無く、彼女を包んでいた銀はするりとすり抜けるように宙を流れ、生まれたままの姿になってしまった。


それでもアルギュロスの身体はひんやりとしていた。常に銀をまとっているため、冷えているのかもしれない。


抱きつかれているので際どいところが見えないのはいいのだが、このままどうしたらいいのかわからない。


このままにしておくわけにもいかないが、離れたら見えてしまう。そもそもこの娘は、銀以外を着る気がないのだろうか? 


「こうすれば、冷たくない?」


テュラーが混乱していると、アルギュロスは何を思ったのかさらにぎゅっと抱きしめる力を強めた。

もう2度と離さないとでも言いたげに、やっと見つけたより所かのように寄りかかられている。


そう言えば、アルギュロスの精神年齢は幼いのかもしれない。彼女からしてみれば気がついたらここに来ていただけで、心は目が覚める前の幼いまま。だから、裸を見られても恥じらいを見せず、そのまま抱き付いてきたりするのだ。


テュラーはそのままアルギュロスが安心できるように、背中を優しくさすってあげた。身体の年齢は近いかもしれないけれど、精神年齢はテュラーの方が上なのだ。彼女が落ち着くまで甘えさせてあげよう。


「うん。大丈夫だ。でも、人前で服を脱ぐのは感心しないな」


「なんで?」


「なんでって。いろいろと問題が……」


「分かった。テュラーがわたしの裸を、誰にも見せたくないって言うなら、そうする」


それだとまるでテュラーだけに見せると言っているようなものなのだが、上目づかいの無垢な瞳の前に説明するのは恥ずかしくてそうゆうことにしてしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



なんとかアルギュロスに服を着させ、これからのことを話していると外から扉を叩く音が聞こえた。


「そろっと飯の用意ができるから降りて来いよ」


扉越しにそう言うと人の気配は離れて行った。声からして名無しさんだったのだろう。


アルギュロスと共に、最初に通された部屋に向かう。そこからなんだか良い匂いがしてくる。記憶がないとそれがどんなものなのか分からないが、初めて食べる楽しみがある。まだ完全に警戒を解いたわけではないが、当分は戦うようなことはないだろう。


「アルギュロス?」


急に止まる気配を感じて振り返ると、さっきまでとは違い少し怖い表情で固まっていた。


「強力な魔力反応を確認。これは、人間? 銀が怯えている。わたし以上の力の持ち主の可能性、大」


「ソフィア達じゃないのか?」


「彼女達も十分脅威。でもこの反応は、1対1でも対処できるか不明。何者かがこの建物に入って来たのは分かっていたけど、上手く力を隠していた。近づいてようやく分かった」


つまりソフィア達でさえ、アルギュロスは1対1なら対処可能だと思っているのか。そして、この先の部屋にはそれ以上の力を持つ存在がいると。


「このまま進むのは危険か?」


テュラーにはこの先の部屋に人が居る気配しか分からなかった。誰が居るのかはもとより、その実力など分かりようがない。


「敵対反応はなし。確認も含めて進む」


「分かった。警戒を怠らないようにする」


部屋に入ると眩しい金色の光が目に入った。それは1人の人物から放たれているもので、輝きの色こそ違うがアルギュロスのように髪が金属光沢を持ち輝いているのだ。


髪だけではない。肌の色は薄く褐色だが、髪型、背格好、顔の作りまでアルギュロスとそっくりだ。違いは金か銀が。姉妹、いや双子と言っても信じられるほどだ。


はじめは退屈そうな表情だったが、その金の瞳にアルギュロスの姿を映すと一変した。


「どうして貴様がここにいる。アルギュロス」


名前を知っているようだが、再会を喜ぶ様子ではない。それどころか、警戒をあらわにし攻撃を仕掛けて来た。


金の少女が魔力を放つと、アルギュロスの上にいくつもの黄金色の剣が出現した。アルギュロスの銀のように自在に動かすことは出来ないのか、そのまま重力に従って降り注ぐ。


アルギュロスは瞬時に服の一部である銀から球体を生み出し、自分やテュラーに当たりそうな剣を蹴散らした。


まあ、彼女がいきなり襲ってくるのも無理はない。彼女達の関係は顔見知りであっても、家族でも友人でもなんでもないのだ。彼女はアルギュロスの……?


まただ。また何か思い出しかけた。だけど完全に思い出す前に、隣にいるアルギュロスのキョトンとした表情を見たら消えてしまった。


「敵対反応あり。あなた、誰? わたしを、知っているの?」


どうやらアルギュロスには覚えがない様だ。彼女にそっくりで名前も知っていたが、失った記憶の中で出会った人物なのだろう。


金の瞳はアルギュロスの動きを1つも見逃すまいと睨みつけている。それはまるで因縁の相手を見ているようだった。

人物紹介 


名前  名無しさん  (本名は不明)

異能力 不明


 魔術バカの少女。ソフィアとは長い付き合い。魔術に関すること以外に興味がないが、ソフィアには逆らえないため協力している。いろいろあって独り暮らしすることになったさいに、ソフィアから今の住居を借りることになった。それまで以上に逆らえなくなったのは言うまでもない。

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