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第3話 美味しい紅茶と甘いクッキー

「じゃあ、何から話そうかしら」


ソフィアは良い香りのする飲物を飲みながら、話す内容は決まっているだろうに思案顔でそう問いかけた。彼女はテュラー達のこれからについて話をしたいと言っていた。テュラーは自分たちについて何か知っていると判断したため、危険を承知で話を聞きに来た。


てっきり、ソフィアが話したいことを聞いてから、テュラー達の聞きたいことを話してくれるものだと思っていたのだが、そうゆうわけではないようだ。


それならば、先に聞きたいことを聞いてしまおう。


「俺達について何か知っているなら、それを教えてくれ」


「そうね。あなた達はそれを知りたいだけなのよね。いいわ。教えてあげる」


言葉を切り、再びカップに口を付ける。


出された飲物と食べ物がさっきからとても良い香りを放っているのだが、よく分からない相手から出されたものを口に入れようとは思えなかった。もしかしたら出されたものに手を付けないのは失礼に当たるかもしれないが、幸いお腹は空いていないし、警戒されているのは相手も分かっているだろう。そのままにしておこう。


「でも、私が知っているのはあなた達があの場所にいた理由だけよ。その他については分からないわ。どうやって来たのかも、何をしに来たのかもね。そして、その理由を簡単に話すことはできないわ」


「なぜだ?」


「関係者以外に話してはいけない内容が含まれているからよ。あなた達が私に協力してくれるなら、多少は話せるのだけど」


「俺達はまだあなたを信用していない。その話が本当かどうか確かめようがないうえに、あまり重要な情報には思えない。協力しようとは思えない」


聞きたいなら組織に入れとでも言うのだろうか。その割には情報の重要性が低い気がするが。


「でしょうね。でも、こちらにも事情があってあなた達を野放しにするわけにもいかないの。そこで提案、あなた達行く当てがないのでしょう? 記憶が戻るまでの間、生活の面倒をみてあげてもいいわよ」


やはり断られるのは分かっていたようだ。


そして、おそらくこの提案がソフィアの言っていたテュラー達のこれからについての話だ。こう繋げるために先にテュラー達が聞きたがっていたことを話したのだろう。


「何が目的なんだ?」


「あなた達が何も問題を起こさないなら、わたし達は監視するだけよ。可能な限り希望は叶えてあげるし拘束もしないわ。ただ、ちょっと手伝いをしてもらうかもしれないけれど」


「監視? 手伝い?」


なんだか不穏なワードが混じっている。


「監視と言っても、四六時中お目付け役を付けるわけではないわ。手伝いも簡単なもので危険はほとんどない。あなた達にとって悪い条件じゃないはずよ」


こんどは食べ物に手を伸ばす。薄い円状のそれは口に入るとサクッと音がして、硬そうな色とは裏腹に簡単に食べられるようだ。そしてまたカップに口を付け、視線をこちらに戻す。


とてもリラックスしているように見えるが、もしかして全然警戒されていないのだろうか。


「単純な話、ただこちらの用意した家で暮らしててくれればいいのよ。私たちと争うのはあなた達も望まないでしょう?」


それは確かにそうだ。ソフィアの率いる組織は大きいみたいで、敵対してしまった場合アルギュロスと2人でどうこうできるとは思えない。問題を起こさないなら記憶が戻るまで生活の面倒をみてくれるというのは、今の2人にとってとても魅力的な提案である。


ただ、魅力的過ぎるがうえに妖しさが尋常じゃない。記憶喪失とは言え、初対面の人間にはたしてそんな提案をするだろうか。たとえ彼女が嘘を言っていないとしても、何か裏があるとしか思えない。


それにソフィアはテュラー達の選択に関係なく監視はするつもりなのだろう。どんな事情があるかは不明であるが、完全に目を付けられている。住処を提供するのは監視のしやすさの観点から見ればおかしくはないのかもしれない。


どうせ監視されるのならば、暮らしを確保できる方を選ぶべきか。普通に暮らしている分には自由でいられるのなら悪い話じゃないし、手伝いが何なのかは気になるところだが本当に危険がないなら問題にはならない。


「アルギュロス。君はどう思う?」


1人で決められることではないので、ここに着いてからずっと静かにしているアルギュロスにも話を振ってみた。


「………ん?」


彼女の方に視線を向けると、出された食べ物を美味しそうに食べている姿が目に入った。話を聞いていなかったのか、小首を傾げてキョトンとしている。


なにこれかわいい。


じゃなくて、警戒心が強いと思っていたのは間違いだったのか? 見れば、飲物の量もだいぶん減っている。気づかないうちに飲んでいたらしい。


「気にってくれたのかしら? そのクッキーはルナが焼いてくれたものなんだけど、市販のものよりもよっぽど美味しいわ。紅茶も私のお気に入りよ」


ソフィアは可笑しそうに笑っている。出された食べ物は『クッキー』、飲物は『コウチャ』というものらしい。見覚えのないものだったので分かっていたが聞き覚えもないものだ。『シハン』が誰だかは知らないが、ここに来る前に分かれたルナはその人より料理ができるらしい。とはいえ用意はしたけど食べてもらえるとは思ってなかったみたいだ。


「だ、大丈夫なのか?」


テュラーの心配をよそに、また一口飲物に口を付けてからこくりとうなずいた。


「問題はない。念のため調べてから摂取したし、相手が話し合いを望んでいる以上、変なものを入れることはないはず」


良かった。おかしなものは何も入れられていなかったようだ。まあ、力は圧倒的にあちらの方が上なのだから、そんな小細工をする必要もないのかもしれない。


「それと、ソフィアの提案には乗ってもいい。他意はあるのかもしれないけれど、悪意は感じない。現状は純粋な善意ではないということが分かっていれば十分。今のわたし達はソフィアの提案を断る方がリスクが大きい」


食べながらも話は聞いていたようだ。


淡々と語っていたその口元には、小さなクッキーの欠片がついている。それを見てテュラーも少し笑ってしまった。気づいていないアルギュロスの代わりにそれを取ってあげながら、果たして良い匂いのするこれはどんな味なのかと気になってしまいそのまま口に含んでみる。


サクッと音がしたかと思えばすぐに解けてしまった。甘すぎることはないが、飲物を飲みたくなるのが何となく分かる味だった。


「テュラー。この『コウチャ』?もおいしい。危険はない。飲んでみて」


クッキーの欠片を食べるのを見ていたアルギュロスが、自分の飲みかけの紅茶を勧めてきた。毒味はしてあるから大丈夫とでも言いたげだ。


銀色の瞳に押されたものあり、せっかくなのでそちらも味わってみることにした。アルギュロスからカップを受け取り一口。香りがフワッと広がり、微かに甘みがあり飲みやすい。


「あなた達を見ていると恥ずかしくなるわ。私が意識しすぎているみたいじゃない」


ソフィアは2人の様子を少し顔を赤らめながら見ていた。

その様子に、アルギュロスと同じく今まで黙っていた名無しさんが反応した。


「へぇ。興味はあるってことか? イチャイチャしているのをもっと冷めた目で見ているのかと思ってたのに」


「あら、あなたまだ居たの? 私はべつに恋愛自体を否定しているわけではないのよ。ただ、自分は生涯誰ともそういう関係にならないってだけでね。理解がないわけではないの」


「そうゆうものか。ってか、ここあたしの家だからな?」


「まあ。それでもあなたの趣味は理解しかねるけれどね。枯れ専って言うんだったかしら?」


「今あたしの趣味は関係ねーだろ! てか、誰が枯れ専だ! たまたま好きになったのが年上だっただけだ」


「年齢差はものすごくあるけれどね。でも、あなたもこの子達を見てて同じこと思わなかった?」


「リア充爆発しろ?」


「あなた、私の話聞いてた?」


テュラー達を置いてきぼりに、2人の会話はエスカレートしていく。

すっかりかやの外であるテュラーは、これでこの2人がどんな人物であるか見ることができると、できるだけ気配を薄くさせながらその様子を見ていた。


アルギュロスはクッキーが気に入ったのか、またもぐもぐしている。表情はほぼ無だが、よく見ると目がいきいきしている。


もしかしたら、まだ警戒心を解いていないのはテュラーだけなのかもしれない。少なくとも少女3人はそれを外に漏らしてはいない。


「まあ、あなたの感性はどうでもいいとして。今日はいないのかしら、あの子」


「さあな。いつもは退屈だって言いながら部屋に引きこもってるんだけど。散歩にでも行ったんじゃねーか?」


あの子とはここに来る前にソフィアが会わせたいと言っていた人物だろう。名無しさんと住んでいるということは家族だろうか。


その際アルギュロスの力をカテゴリーエラーと言っていたのが気になる。

アルギュロスの話では、異能力はありふれた力である。そのなかでも特殊なものに類するという意味なのか、はたまた違うのか。

それが彼女達が監視する理由にも関わってくるのかもしれない。


その後、あの子なる人物は現在行方不明なため、話し合いは解散の流れになった。


「ところで、こいつらはどこで暮らすんだ? お前ん家か?」


そういえばソフィアが提供してくれる場所に住むことに決めたが、それが何処にあるのかは知らされていなかった。

ソフィアはなかなかの食わせ者だ。出来れば一緒に住むのは遠慮したい。


「そうね。ここでいいんじゃないかしら」


「は?」


「だって、空き部屋がたくさんあるでしょう?」


「空き部屋くらいお前ん家にもあるだろ」


「うちは男子禁制よ。それに、まだ協力関係になっていない以上、あまりうちの子と接触させたくないのよ。そもそもここはこの子達のような訳ありな子の為の場所よ。忘れてるわけではないでしょうね?」


「ちっ。分かったよ。その代り誰か世話係をよこしな。あたしだけじゃ面倒見きれねぇ」


「分かってるわよ。記憶喪失の子達の面倒をあなたに任せたら常識知らずになってしまうもの」


「お前はあたしをなんだと思っているんだ」


「魔術バカ」


どうもソフィアはここにテュラー達を住ませようとしているらしい。最初からずっと彼女の手の平の上で踊らされていたのだろうか。ついでに名無しさんも一緒に踊らされているように見えるのは気のせいではないだろう。なんだかんだ言って全部彼女の思い通りに事が進んでいる。


「あなた達仲は良いみたいだけど、男女なんだから部屋は分けた方がいいわよね?」


名無しさんが何も言い返せなくなると、今度はテュラー達に話を振って来た。

初対面とは思えないほどアルギュロスとは打ち解けていると思うが、ソフィアの言う通り部屋ば別々にしてもらったほうがありがたい。


アルギュロスとの実力差から、仮に襲ったとしても返り討ちにあうだろうことは予想できるが、同じ部屋で夜を過ごすとなると悶々として休むこともできないだろう。

それくらい彼女は魅力的で、いわゆる美少女という容姿をしているのだ。


それに、さすがにアルギュロスも知り合ったばかりの男と一緒の部屋にはなりたくないだろう。協力関係にあるとはいえ、他人である事にはかわりないのだから。


「それは同意しかねる。わたしはテュラーと一時も離れる気はない。むろん夜も共に過ごす。部屋を分ける必要はない」


え?


「そう? なら2人用の部屋を用意するわね」


そう言ってソフィアはこの場から離れて行った。言葉通り2人部屋を用意するのだろう。


「テュラー、どうかした?」


何もおかしなことはなかったかのように、茫然としているテュラーを心配してくれるアルギュロス。

誰の発言のせいで言葉を失っているのか分かっていないのだろう。


「い、いいのか? 俺と同じ部屋にしちゃって」


なんとか声を振り絞る。まるでプロポーズのような言葉を聞いたのだからしょうがない。


「問題はない。テュラーのことは信用してる。だから、離れるより一緒にいた方がいい」


淡々としたその様子から他意は無いのだと分かるのだが、いかんせんこんなにかわいい女の子と同じ部屋で暮らすというのだから変な想像をしてしまう。


アルギュロスからすれば、一番信用できる人を常に近くに置いておきたいだけなのだろう。


「ったく。記憶無ぇのにラブラブってどうゆうこった。夕飯ん時にまた呼ぶから、ソフィアが戻って来たら自由にしてていいぜ。あたしはここにいるから、何か聞きたいことがあったら来い」


名無しさんはぶっきらぼうにそう言って、どこから取り出したのか書物を読み始めてしまった。

こちらへの関心が薄れたようだ。


今日からお世話になる建物だし、確認がてら探索にいくことにした。今のところ可能性は低そうだけど、念のため逃走経路も確保しておこう。


ソフィアが戻って来るまで、よほど気にいったのかアルギュロスは紅茶とクッキーを飲み食べしていた。

その様子がなんだか微笑ましくて、忘れがちだがやはり彼女の精神年齢は幼いのだと実感してしまった。

人物紹介

名前  ソフィア (真名は***)

異能力 不明


 金の髪と青灰色の瞳が特徴的な生徒会長。彼女の通う学校は特殊な********であるため、その*を**しようとするものから護る主命がある。

 お茶会が好きで、生徒会室にもセットが置いてあるとか。実力だけでなく**も持っているようで、その気になれ***できると言われている。

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