プロローグ
綺麗だと思った。
それは見たくない現実だけど、逃げたいとは思わなかった。
他に誰もいない放課後の学校の校庭で、銀の雨が降っている。
詩的表現であったなら、何もおかしなことはなかった。
ただその銀の雨は、本物の金属の一種である銀であった。
そして視界を遮るほどの銀の雨は物理法則に従って、やがて地面に降り積もる。
かつてそれが彼女を護っていた時は、不自然な力によって動いていたというのに。
これは現実だ。夢ではない。
それでも信じたくない光景。
こういった事が現実に起こり得ることは分かっているつもりだった。
しかし、今まで必死に目を背け続けて来た。
予言を信じていなかったわけではないけれど、どこか物語じみたものであると思っていたのだ。
目に見える真実が望んだものであるとは限らない。
誰の言葉だったか、全くその通りだ。
なぜならこんな真実は望んでなかった。
何が起きているのか、本当は見ていたくない。
いったい彼女が何をしたと言うのか。
少なくとも幼少期の彼女に罪はなかったはずだ。
ただ生まれた場所が、世界が悪かっただけだ。
目の前で眠りにつこうとしている彼女は、すでに覚悟を決めていた。
取り乱すことなく、全てを受け入れた。
思えばここ数日、彼女の為だけに動いていた。
彼女と出会ってからはずっとそうだったけど、最近は特にいろいろあって大変で忙しかった。
でも、彼女と過ごす毎日はとても楽しかった。
2人の抱える問題を解決するためにいろいろなことをした。
そして今日。俺たちは抱えている問題を解決した。いや、解決してしまった。
正直に言えば後悔している。
だってこれは今の俺たちが知っていいことではなかった。
きっとこれは永遠に、謎にしておくべきことだった。
本当は俺たちが忘れたままでいるべきだった。
あれが彼女にとっての何だったのか、ずっと知らなかった。
だけど、彼女に大きな影響を与えているのは知っていた。
彼女を救うにはこれしかなかったし、もうどうすることも出来ない。
せめて心からの歌声で、彼女を救ってあげよう。
それができるのはきっと、俺だけだから。
彼女を化物に変えてしまった、償いにしては足りないけれど。
銀色の雨が降り注ぐ校庭で、無力な俺は他に成すすべなく事の成り行きを見守っていた。




