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その人の名は狂気――influence panic――  作者: 無道
第1章 生まれ出づる狂気
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実験

 鉄パイプを持っていた男――加野は、これから始まる出来事に、どうしようもなく嫌な予感を覚えていた。元々彼は、浅川の立てたこの作戦には反対だった。彼ら三人は不良ではあったが、いつも最低の一線は越えない、どちらかと言えば分別のある人間だと自覚していた。


 それが今日、遂に俺たちは人を殺そうとした。


 言い訳は沢山ある。腹が減っていた。感染者たちの恐怖でまとも寝られず、正常な思考能力が麻痺していた。やらなきゃ自分がやられるかもしれないから。仕方がなかったから。

 だが、そんなことを言っても襲われたこの男は納得はしないだろう。そして、とんでもないものを俺たちは襲ってしまった。虎の尾を踏むとはこのようなことを言うのだろうか。加野は、目の前の男から発せられる独特のプレッシャーに、情けないと分かっていても震えを隠すことが出来ないでいた。


「よし、とりあえず近くに三体はいるな」


 男は、それまで喫茶店の割れた窓から顔を乗り出して通りを眺めていたが、そう言うなりこちらを振り返った。

 見た目はどこにでもいる青年だ。大学生くらいだろう。ただ、近くで見たら分かる引き締まった身体から、男が何らかのスポーツをやっていることは明白であり、こいつを襲うと決めて勝手に先行した浅川を、何かあったら死んでも呪うと加野は決意した。


「それじゃあお前ら、こっちに注目。顔をあげろー」


 俺たちは頭を上げる。手足はガムテープで縛られているため、身動きは取れない。ガムテープの縛りの固さは、俺たちを絶対に逃がさないという男の心情の表れのようで、絶望的な気持ちになりそうになる。


「て、テメエ! 俺たちにこんなことをしてどうしようって言うんだよ!?」


 先ほどまでのびていた浅川が声を荒げるが、その声量は決して大きくはない。近くに感染者がいると知って、声を潜めているのだろう。奴らは声にも反応をするからだ。


「だからさっき言ったろ金髪。俺の実験に見学者になってもらうってな」

「……あ? 頭イカれてんのかおっさん?」


 そう口汚く浅川は罵り、俺ともう一人の仲間、鈴木は怪訝な顔を作る。まあ鈴木の奴は、一番臆病なため、青い顔だったが。

 そんな俺たちの様子を一度見回して男は鷹揚に頷いた。その顔は、まるでレストランのメニューでも決まった時のような気軽さだ。


「うん、決めた。とりあえず――」


 男は俺たちのうちの一人に歩み寄る。その足音の先には――


「君にしよう、哀れな子羊君」

「へ!? 俺!?」


 突然持ち上げられた鈴木は、最早半狂乱だ。必死にこちらに救いの眼差しを向けるが、手足を縛られている状態じゃどうしようもない。やがて男は鈴木を抱えたまま喫茶店を出ると、喫茶店の窓の真ん前に立った。そこからなら、俺たちでもちょうどよく見える位置だ。

 ――そのときは、そこに男が立った意味を十分に理解していなかった。


「じゃあ、実験開始だ。この実験の趣旨は、感染者が俺を本当に視認できていないかを確かめる実験だ。本当はただ単純に感染者の前に立つとかするだけで実験するつもりだったが、偶然、ここにアシスタントの君たちが来てくれた。だから今回は少し芸を凝って実験するよ」

「な、なあ何言ってんだよアンタ! そんな大声出したら、感染者に見つかるかもしれないだろ!? は、早く建物の中に戻って――」

「はい、それじゃあ第一弾。デモンストレーション」


 鈴木が喚くのを無視して、男は鈴木を道路にほっぽりだす。更に慌てる鈴木を前に、男はポケットから箱型の小さな物を取り出した。小さい頃、それは俺も見たことがあった。そして、それが何かを悟った瞬間、俺は全身の血の気が引くのを感じた。


 男はその持っていたもの――防犯ブザーを、何の躊躇いもなく引っ張った。


御意見御感想よろしくお願いします!

次からは割とグロテスクになるかもわからないです……。

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