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その人の名は狂気――influence panic――  作者: 無道
第4章 その人の名は、狂気
35/73

反転

「……いよいよか」


 和彦が部屋を出て行ってからしばらくすると、外でガチャガチャと音が聞こえ、やがて扉が開く。

 光を背に立つのは、ウルフヘアが特徴の小柄な少女、早川知世だ。


「……姫路先輩たちは今さっき、学校から出て行ったっす……」

「俺が指示した準備の方は?」

「滞りなく全て終わらせてるっす」


 そこで早川は膝を付き、頭を垂れる。そして畏怖と敬意を込めてこう口にした。


「次はいかがいたしましょうか……“智也様”」

「……はっ」


 悪くない。俺は早川の一転した態度を見て口の端を歪める。

 普段の彼女は勿論、こんなことをするはずがない。こうなった要因は、二日前の夜まで遡る――。






「じゃ、今日もさっさと終わらせてくださいね」

「……ああ」


 屋外探索に向かう前日。その日の夜も水浴びを許可され、俺は早川と二人でプールに来ていた。

 服を脱いでいると、背中越しに布の擦れる音が聞こえる。最近は俺の監視のついでに早川も水浴びすることがほとんどだった。仕事にも慣れ、油断していたのだろう。

 だからこそ、俺はそこを突くことが出来た。


「ッ!」

「なっ――!?」


 早川が水を被った瞬間、俺は反転して早川に襲い掛かる。

 早川は動揺するも、水浴び中でも離さずに持っていた拳銃をこちらに向けるが、引き金を引くより一瞬早く、俺は蹴りで拳銃を叩き落とす。


「ちっ!」


 だが早川の対応は素早い。拳銃を失うと逆に彼女から間合いを詰め、顔に拳を放とうとする。


「……ほお」


 だが、それはフェイク。早川はパンチと同時に、それが死角になるようにして金的へ蹴りを放っていた。日々の鍛錬を思わせる正確なコンビネーション。だが、この攻撃には一つだけミスがあった。


「目線を一瞬下に落としたのは失敗だったな」

「嘘ッ!」


 すくいあげるような軌道の蹴りを手で受け止めた俺は、早川をそのままプールに放り投げる。

 水しぶきを盛大に上げて落ちた早川を追うように俺も飛び込む。


「ぷはっ――がっ!?」

「この日をどれだけ待ったか……」


 浮かんできた早川の首を片手で掴むと、手に力を込める。

 早川は苦しそうに喘ぐが、不意を突くように鋭いパンチを放ってくるあたり、もう少し力を込めてもよさそうだ。


「が……ああっ!」

「ふむ。これくらいか」


 早川が本気で苦しそうにするあたりで力を緩める。そして次の瞬間、早川の頭を水面へ押し沈めた。


「ばぼっ! ぼぼばっ!」


 大量の気泡を出しながら、早川はもがく。時々俺の身体を殴ったり蹴ったりと抵抗するが、水中ではろくな力も出ない。

 水中に頭を押し込んでから十秒。二十秒。抵抗が徐々に弱くなり始めたところで、早川への力を弱める。


「~~ぷはっ!! けほっけほっ! はぁあ――ぶっ!?」


 浮かんできた早川が何度かえずき、大きく息を吸い込もうとしたところで、また頭を水中に沈める。

最初は早川も、また水中でバタバタと暴れるが、しばらくすると、それもまた弱くなる。そのタイミングでまた抑えつけていた力を弱める。


「ぷはっ!! はぁあああ――ぼぼっ!?」

「三回目」


 顔を出し、一呼吸入れたところで再び水中へ沈ませる。しばらくしてからまた水中から顔を出したときには、流石に早川も俺のしようとしていることに気づいたらしい。必死に俺の手から逃れようとするが、そんなことを許す俺ではない。抵抗など意に介さず、水中から抜け出して空気を求めて喘ぐ早川を、またすぐに水の中へ沈める。これを俺は淡々と、機械的に何度も続けた。

 



沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。沈めては浮かべ。




「……ははっ」


 五回目までは、殴ったり蹴ったりと、激しい抵抗を見せた。

 六回目で、趣向を変えたのか、抵抗を俺の金的を握り潰そうとするものに変えた。

 一三回目で、水中から顔を上げた瞬間に俺の指を噛み千切ろうとした。

 三九回目で、早川は抵抗するのを止めた。

 八〇回を超えると、「もう赦して」「助けて」と泣き言を入れるようになった。

 一〇〇回を超えると、早川は何も言わず、空気を吸うことだけに忙しそうになった。

 一五〇回目の時、早川は何か期待した視線を俺に送ってきた。

 そして二〇〇回目で、ようやく俺は早川を解放した。


「~~~~ッア……がはっ!! げほっ! げほっ! ごほっ! …………はああああああ! はああああああ! はああああああ!」


 盛大に咳き込み、大きく息をする早川。俺が支えていなければ、立ってすらいられない状態だ。


「――どうだ、久しぶりの風呂は。気持ちよかったか?」

「はああああああ! はああああああ!」


 早川が返事をしなかったので、俺は早川を再び水中へ押し込んだ。今回は早川の髪を掴み、すぐに引き上げてやる。


「もう一度聞く。どうだ、気持ちよかったよな?」

「はあはあはあ、は、はい……。き、もち、良かった……はあはあ、です」

「そうか、じゃあもう一回行ってこい」

「~~ッがぼ!?」


 再び水中に早川をおしやる。

 先ほどと同じ要領で、沈めては浮かべるのを繰り返す。最初はされるがままになっていた早川だが、十六回目で恐々と言った様子で水中で俺を見上げてきた。


 ――いつまで続けるの?


 そう問いかけられたように思えた俺は、特別に彼女の疑問に答えてやった。


「――もう二百回って言った方が分かりやすかったか?」




――その時の早川の表情こそ、この世で最も尊く、美しいものだと俺は確信できた。




三九回目――二三九回目まで、早川は謝罪を止めることはなかった。

二四二回目あたりから、また早川は空気を吸うのに忙しそうになった。

三〇一回目で、またあの美しい表情を見ることが出来た。

三四二回目、早川が失禁した。

三七〇回目、さっきから早川の身体が小刻みに震えて止まらない。

四〇〇回目までやるつもりだったのだが、これでは本当に死んでしまいそうだ。

仕方ないので、三七二回目で早川を水中から引っ張り上げた。

水中から出ても、もう喘ぐ力すら残ってないようだ。

溜息を吐いた俺は、早川の胸部を軽く殴り、飲んだ水を吐き出させる。

大きく咳き込み、やっと喋れる程度まで早川が回復するのを待った俺は、再び彼女に問うた。


「――どうだ、気持ちよかったか?」

「はあはあはあ……ッ! そ、そんな、わけ……」

「――逆らうなよ」


 俺は右手の人差し指を、早川の左目に躊躇なく突き入れた。瞬きすら許さない速度で打ち込んだ指に、生暖かい感触が伝わる。


「ぎ、がああああああああああああああああああああああああああ!!」


 最早人間とは思えない獣のような雄たけびを上げ、早川は悶絶する。あまりにもうるさかったので、気道を止めて、意識を奪った。

 早川の身体が糸切れたように脱力する。

 俺は彼女を抱え上げると、そのままプールから上がった――。






 その後、消毒など早川の左目を処置したあと、目を覚ました早川を翌日の朝まで思いついた限りの方法で拷問した。

長時間の水責めに加え、左目を潰したのが相当堪えたらしく、早川が俺に従順な奴隷になるのに、それほど時間はかからなかった。最後の方で、早川が苦痛を与えると笑顔を見せるようになった時点で洗脳を終了した。

予想外だったのは、恐怖で俺に従うようになると踏んでいた早川が、何故か喜々として俺の命令に従うようになったことだ。

「……お前、なんでそんな嬉しそうなんだ?」

「はい! 実を言うと、加虐趣味はインフルエンス・パニックが起きてすぐに、感染者になった家族を皆殺しにした時に目覚めた性癖でして、元は自分、かなりのマゾなんすよ」

 ……こいつは笑顔で何を言い始めるんだ。

「だから、智也様がプールで自分を拷問したとき、自分の身体にちっちゃな傷が沢山あったの見たっすよね? あれは自分の父親が付けたものでして。家庭内暴力ってやつっすか? その影響で痛いのとかは受け入れられるように身体が自然と変化したからだと自分は考えてるっす」

正座してちょこんと座る早川が自嘲的に笑う。その左目には、以前まではなかった白い眼帯があった。

「……なるほどな。まあいい。後、様付けはやめろ。これから奴らと接触したときに余計な疑いをもたれる可能性がある。態度ももっとフランクで構わない」

「――お、じゃあこんな感じっすかね。了解です、智也先輩♪」

フレンドリーな調子で早川が右目でウインクする。こういうこいつの絶対的な従順さは価値がある。頭もそれなりに回るし、独眼だが腕も立つ。遠近感に多少の不備は出るが、銃を扱えるのも貴重なポイントだ。顔だって悪くないしな。

「……お前が俺の期待に応えるうちは使ってやる。だが、不必要だと判断したときは、地の果てまでお前を追って、前の拷問が優しく思えるほど凄惨なやり方で殺すからな。そっちがお好みなら今すぐにでも殺してやる」

「そんな脅さなくても大丈夫っすよ。これだけ苦痛(かいかん)を与えてくれる人を自分が放っておくわけないっすから。自分は先輩に付いていくっす。殺されるのは、最期のご褒美に取っておきます!」

「……お前も大概イカれてるよ」

肩をすくめると、俺と早川は同時に噴き出した。

「さて……それじゃあこっからは俺たちのターンだ。せいぜい足掻いて見せろよ、餓鬼ども――」

 既に人の消え失せた眼下の通りを見て、俺は心弾む気持ちで嗤った。


読んでいただきありがとうございます。

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