草原の木
地平線の向こうまで続く緑の草原
ひっそりと寂しげな木を見つけた。
「もしもし、ちょっといいですか?」
「すー、すー」
どうやら眠っているみたいです。
グ〜ッ
「そういえばお昼だ。ご飯にしよう」
木の横にちょこんと座って、ぶら下げたかばんから木の皮で包まれたお弁当を取り出した。
中には大きなおむすびが2個と、3枚の白いたくあんが入れられていた。
はぐはぐ
ゆっくりと動く白い雲と、さらさらと鳴る葉っぱを見ていた。
ぽりぽり
体の中から全身に浸透していくように、草原の匂いは駆け抜けた。
陽だまりが午後を告げていた。
「ん、ん〜〜〜っ」
いっぱいに伸びをして目が覚めた。
「よく眠っていたね。実に気持ちよさそうに」
ぼ〜っとしたふくよかな感覚になりながら
「僕が来たときは、あなたが眠ってたんだよ」
と、教えてあげた。
「あっはっは。そうだったか、まったく気づかなかったよ。なにせ、ここは気持ちがいいもんでね」
やわらかい風が相変わらず僕のほっぺたを撫でていく。
「ひとりでつまらないんじゃないの?おもしろい?」
「あっはっは。君はおもしろい事を言うね。私が一人とは。あっはっはっは」
少しだけすっきりしてきた。
「ひとりじゃないの?こんなに広いところなのに?他に誰がいるの?」
「いいかい。確かに私は一人に見えるかもしれない。だけどね。見えるものだけで判断してはいけないよ。それは世界を狭くすることだから。」
大空を1羽の鳥が飛んでいた。
「ふ〜ん。そっか。……そっか」
立ち上がって木をぎゅっと抱きしめた。
ざらざらしていて少し痛かった。
「ひとりじゃない」
「そう。世界は支えあってできてるんだよ」
僕はなにか言おうとしたけど、今の気持ちを言葉にすることができなかった。
そんな僕を知ってか知らずか
「なんでも言葉にしようとなんてしなくていいんだ。自分の気持ちが、一番相手に伝わる表現をすればいい」
と、草原にたたずむ木は言った。
さっきよりも強く、木の皮が皮膚にめりこみながらも抱きしめた。
「きみは今、どんな話し上手よりも、多くを語っているよ」
「僕は行くよ。とても大事なことを教えてくれてありがとう。走りたい気分になったよ」
ふいに今までにはない強い風が吹いた。
「ばいばい」
手を振って別れを告げる。
孤独な冒険者はどんどん走って小さくなった。