等価交換
「貴方の叶えたい、自分のものにしたい願いを1つだけ叶えてあげましょう。どんなものでも1つだけ。」
――――……
「明日の食べ物?安全な住まい?信頼できる友?金?
……そんなちっぽけなものはやめましょうよ。
貴方には人生最大のチャンスが今まさに巡ってきてるのです。誰も手にできない、どんなに裕福な貴族でも手に入れられないものでも、1つだけなら貴方は手に入れることができるんです。
さぁもう一度。貴方は何を望みますか?」
――――…………
「……『娘が無事に産まれて欲しい』ですか?
自分の命の保証より子供? ……まぁいいでしょう。
お望み通り、貴方の胎内の子が無事現世に産まれてくることは叶うでしょう。
……せめて、残り少ない穏やかな人生をお幸せに。」
――――……?
「ああ、言い忘れていた事がありましたね。
等価交換という言葉をご存知ですか?自分が叶えたいという願いを実現させるには、それに見合った対価が要求される。
ほら、例えば高級ブランドバッグを買いたいなら、それなりの紙幣を払わないとですよね?それと同じです。
……貴方が今僕に望んだ願いに対する対価は、貴方の「魂」です。」
――――……!!
「ずるいじゃないか、って?
これくらい当たり前の事でしょう?
貴方は「命の欲」を願ったのですから。汚い欲には潔い結末がお似合いですよ。
それでは、さようなら。」
――――……
何故それを願ったのか、一体誰に願ったのか分からない。
神なのか、……それともあるいは悪魔か。
ただ一つ、何も分からない真っ白な世界で、無邪気な笑顔を貼り付けた残酷で無慈悲な少年の顔だけは酷く瞼の裏に焼き刻まれていた。