表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

広くんと京子ちゃん。

作者: コダマさん

「ごめんな、呼び出して」


神崎広は、クラスメートの清水杏子を学校裏に呼び出した。時間帯は放課後がいいだろうと思い、直接彼女に申し出た。

クラス内でも同姓にも異性にも人気があり、教師陣にも気に入られている。頭がいいわけではないが、明るい性格でクラスの中心となり、文化祭などの行事に積極的に参加。休み時間も京子の周りには生徒が絶えない。

部活動は、都内でも数少ない乗馬部に所属していて、そこでも部長という中心軸となっている。広が聞いた噂によると、親戚が畜産を経営しており、馬を所有しているから乗馬部に入部したらしい。

乗っているところは見たことはあるが、他の生徒とは違った、経験者のオーラを出していた。馬の足を痛めないように乗馬専用のグラウンド、砂の地面の数箇所に設置してあるポールをすいすいと飛ぶ様は、実に圧巻だった。もしも、自分がやってしまったら馬に殺されるのではなかろうか?と思ってしまう。

テレビなどで間接的に見るのと、実物大を直接的に見るのでは全く違う。


うわぁおっきいねぇー………としゅごく大きいぃいぃいいいっ!!ほどの違いだ。


「ううん大丈夫、今日は部活で練習ないし」

「そっか、良かった」


なんだか妙な空気が流れている。

広は、とあることをお願いしたくここに呼び出したが、なんだろう一種の甘酸っぱい青春の香りがした。

京子もなんだか落ち着かないようで、風になびく黒髪を抑えていた。


「えっとさ、そのーなんだ?そこまで緊張しなくていいんだぞ?」


何を言っているんだこいつは。緊張して見えるだけであって、本人が緊張しているといく確証はどこにもない。この時、広が、どれだけ焦っているのかが京子に伝わってしまった。


「ごめんね、私も結構してるんだ」


なんたることだ、女子に気を使わせるなんて。日本男児の恥である。

このままでは、当初の計画に支障をきたしかねない。広は口を開いた。

が、それは意識しないと出来ない代物となっていた。

いつもは無意識に動く口が震えている。

口内も軽くだが、かちかちと鳴っている。

春先なのに汗ばんできた。

呼吸も少しばかし荒い。


これが緊張というものなのか?己の心から想う言葉を紡ぎだす、ただそれだけの行為だけで、ここまで口から放つことが出来ないのか?

今までだってずっと想っていた。が、それを公の場で言ってしまえば、非難の目がこちらに向く。仮にも相手はクラスのアイドルなのだ。彼女のファンクラブは存在したりするのだろう。

そんな人物に、今、自分は。告白しようとしている。世間の目を度外視し、己の欲求だけを満たすだけに行動する。そうしなければ、この問題をこの想いを、相手に伝えることはできない。

広は震えてしまった声で、京子に言った。



「馬刺ってうまいんかな?」



「は?」

「いやぁ、ほら?お前が乗馬してるときにふと思ったんだよ!?なんとなくな!本当に!俺、鯨とかは食ったことはあるけど、馬は食ったことはないからさ!!で、旨いのか?」

「た、食べたことはないけど、草食動物だし美味しいんじゃないかなぁー?なんて」

「親戚が畜産を経営してるんだって?食えるのか!?」

「ごめん、趣味で飼ってるみたいだから………」

「そっかぁ、そりゃ残念だ。わりぃなこんなところ呼び出して!じゃあ!」

「え、あ、うん」


にこやかに広は去っていく背中を呆然と見ながら、京子はその場に立ち尽くした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ