怒りの矛先
林の中では他にふたりの男性が彩七を捜しに来ていた。
「全く彩七はどこへ消えてしまったのだろうか、瀬戸君?」
「おじさん、すみません。僕が彩七をコテージの中まで送らなかったばかりに」
「何を言っているんだ。きみは悪くないよ。きっと彩七の事だ、何か気になる物でも見つけて、もう帰って来ているかもしれんぞ」
「だといいのですが、こんな事になって本当にすみません」
「よし、もう少し捜したら一度コテージに戻ろう」
「――――――はい」
散歩の探索が終わって送り届けていたが、さっき彩七の父親から瀬戸亮は彼女がまだ散歩から帰って来ていない事を聞かされた。
居ても立ってもいられずに、コテージの周辺を捜したが彼女の姿はなく、コテージから離れた林道まで足を延ばした。
「あやなぁぁっ僕だぁ、どこにいるんだぁぁぁいっ!」
「彩七ぁぁ返事をしとくれぇぇぇぇ! パパが迎えに来たぞぉぉっ!」
林道でふたりは必死で今尚姿を現さない彩七を探すのだった。
*****
少しずつではあるが、彩七たちはコテージへ続く道を確実に進んでいた。
中には少しゴツゴツとした道を進むこともあったが、ほとんどは平らで進みやすかった。
足を遅くさせたのは道じゃなく、視界のせいだった。この辺り一帯に霧がでていた。それで視界が悪く、思ったよりペースが遅くなっているのだった。
それから程なくして、彩七を探しに来たふたりと同じ場所に、彩七たちもたどり着くのだった。
しばらくして、彩七の姿を探す亮の視界になんとなく影の様なものが見えた。
「あ、やな……」
「今、なんと言ったかね、瀬戸君」
「いえ、あのそこに確かに人影のようなものが。気のせいかもしれませんが」
「ふむ――――――彩七かもしれんないから近づいてみよう、瀬戸君」
「――――――はい」
ふたりは影の様なものへまっしぐらに駆け寄るのだった。
颯太も辺りを確認しながら進むと、遠くからこちらに来る人間の足音っぽいのが聞えた。
「もしかしたら、誰かいるかもしれないよ」
「ホントですか?」
「ああ、行ってみよう」
例え、それが彼女の親でなくとも、コテージまでサポートしてもらえるかもしれいない。そう考えると近づいてくる足音の方へ、颯太もまた足早に歩み寄る。
そして、お互いの顔が確認できる距離に近づくのだった。
「瀬戸君、彩七だよ――――――彩七」
「あ――――――彩七」
「亮ちゃんに、パパ」
彩七はさすがにおんぶ姿が誰かに見られるかと思ったら恥ずかしくて、颯太に下ろしてもらっていた。
亮たちの目の前に現れた時には颯太の方に掴まりながら、怪我をした足を少し地面から上げて立ってるのだった。
「彩七、早くおじさん方へ」
「んっうん」
彩七の横にいた颯太に、亮が気がつくとすぐに彼女を彼女の父親に託す。
父親としっかりお互いを抱きしめあった瞬間、それは起きるのだった。
いきなり拳で人が殴られる鈍い音がした。
彩七たち親子はというと亮の異常な行動にあっけにとられて、困惑する。
亮に殴られた颯太はそのまま勢いよく、ぬかるんでいた地面へと尻もちをつく。
何が起こったのかわからない颯太。驚く表情のまま、口の切れた部分の血を手の甲で拭うと付着した手の血を見るのだった。