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彼の様子で彩七も安堵からか表情が緩む。
「あっありがとうございます」
「ううん、大事がなくてホントによかったよ 」
雨音の激しく打ちつける音で、男性は小屋の窓から外の様子をうかがい見た。
雨は先程よりも激しさを増して降り続けている。地面から五センチ程の高さに跳ねかえる雨粒の様子がはっきりと目に映った。
これだけ激しく降ると身動きがとれないし、ましてや怪我人を背負ってコテージに戻るのは更に危険なはず。
男性がそう考えると自然に表情は険しくなっていた。
彩七はその険しい顏から状況を感じ取る。
「あの――――――ゴメンナサイ」
申し訳ないというような口調の彩七は、罪悪感を感じている様子。その様子で男性はハッと気が付いた、険しくなっていた自分の顔に。
「あっ違うんだ。外の雨が一層激しいし、俺、実はカミナリが苦手なんだ。今はちょっと帰れそうもなくて、ごめんな。」
恥ずかしさと困った感情がまざって、なんとも複雑な表情になる男性。
そして、その様子に彩七が顔を軽く横に振った。
「……そんなぁ、こうして助けてもらえて感謝です。本当にありがとう」
「ありがとう。そう言ってもらえると気持ちが楽になるよ」
照れた感じでハニカムと男性は微笑えんだ。
「はいっだからもう気にしないで――――――カミナリは、皆苦手だから」
彩七の自信に満ちた、その表情がたまらなく可笑しくなるのだった。
急にクスクスと男性が笑い始めて、キョトンとした表情になる彩七。
「クックッ……そうだね、カミナリは皆が苦手だよな。俺も気にしないよ」
「そうだよっ気にしちゃダメ」
今度は男性の瞳をしっかりと見据えた彩七は、真面目な表情で見つめる。
それは今までに見たことがないくらい綺麗に澄んだ瞳。その瞳で真っ直ぐに見つめられると、彼は逃げる様に彼女の前から移動する。そして、改めて隣に腰を下ろした。
「そう言えば、君のご家族心配されていないかな?」
「どうしよう……いつもはどこかへ寄る時はちゃんと言ってくるんだけど、今日は何も言わないでいちゃったから、今頃は――――――」
「……だろうね」
最後まで言葉を聞かなくても、十分に彼女の言いたい事が男性には伝わった。
「でも――――――今はまだ雨が激し過ぎるから危険だろうし、仕方がないけどもう少しここにいよう」
ウンウンと頷いたが、彩七はだんだん心細くなるのを感じられずにはいられなかった。
その不安そうな彼女の様子に男性は力強い言葉で元気づける。
「大丈夫。心配しないで-―――――必ず、君の事はご家族もとに帰すから」
軽く笑うと彼女は小さく頷く。それでふたりの会話が途絶えた。
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しばらくして、誰ともなくポツリポツリお互いの事をまた話し始めるのだった。名前だったり、色んな事を。
でも、またすぐに会話が途切れるのだった。すると、足の近くにあったリュックを急に探り始める。
「……そうだっ彩七ちゃん、コレでも見たら気が紛れるかもしれない――――――俺話は得意じゃないし」
話ながら、手にはしっかりと本を握っている。それは薄い本のような物で、何冊かあった。
その中に風早颯太と名前が書いてある薄い本を指差して不思議そうに彩七が訊ねた。
「コレ、なんですか?」
「これはアルバムだよ」
「もしかして……この名前の書いてあるのは?」
「そう、俺の。でも、これは作品として写真を収納しているアルバムだよ」
颯太は何冊かある内の一冊を彩七に開けて見せる。
たくさんの写真は新緑が青々としているものや、季節ごとの色鮮やかな花々。そのどれもが、ひとつひとつ丁寧にその姿本来の美しさがとらえられていた。
アルバムの写真を見る度に彩七の表情がコロコロと変わるのだった。




