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彼は困ったような表情で頬をポリポリとかくとその手を震える彩七に差しのべる。
「ゴメン、驚かしちゃったね」
戸惑いながらも彩七は差しのべられた暖かい手を掴んだ。
「ありがとうございます。でも、あの―――――どうしてココに?」
「何も持っていない君の姿が後ろに見えたんだ。それに雨も降りそうだったから、君の事が心配になってね」
「…………あの」
彩七が声を掛けようとした時、男性は彼女の足の怪我に気づく。
「大丈夫、足腫れてるみだいだけど?」
「あっ、ちょっとそこの木で軽く痛めたんです」
「そっか、俺が驚かしちゃったせいだね、ゴメンな」
「いえ、あのっその前に自分で挫いたので。たぶん、大丈夫です」
「大丈夫なわけないだろ。雨もひどいし、ここじゃ手当てもできないから、移動しよう」
「移動……ですか?」
「ああ、この辺りに確か山小屋があるから、そこに雨がやむまで居よう」
と言ってから、男性はさぶそうに震えている彩七にソッと自分のナイロン製の上着を被せるとやさしく微笑んでみせる。
「はい、これ。それじゃ風邪引くよ」
「あのっでも」
今度は困惑する彩七に背をむけるとそのまま男性はしゃがみこんだ。
「いいから、俺の事は気にしなくていいよ。だから言う通りに。早く背中に乗って」
「で、でも重いですよ」
「大丈夫、安心してくれよ。君を落としたりなんかしないから、さぁ――――――」
「……じゃあ」
そう言って恐る恐る男性の肩へと腕を伸ばし触れる彩七。初めて父親以外の男の人におぶられると、また初めての感覚にとらわれるのだった。
彼の背中はすごく広くて温かい。とても安心できる温もりでホッとしているはずなのに、胸の鼓動はどうしてか、ずっとバクバクと早く脈打っていた。
彩七は不思議に思った――――――初めて言葉を交わしたのにこんなにも安らげる事に。それと同時に全くま逆の感情も生まれいた。胸の奥が締め付けられるような、それ以外に表現しがたい初めての感覚。
「着いたよ」
と男性の声にハッと我に戻った彩七。
目の前には見慣れない小屋が静かな森にひっそりとたたずんでいる。
「ここで待ってて、すぐ戻るから」
そう言って彩七をおぶっていた男性は彼女を小屋の中に降ろしてから、何かを探しにもう一つ奥の部屋へと行く。五分ほど経つと両手一杯に医療グッズを抱えて男性が戻って来るのだった。
彩七の前に男性が座り込むと彼女の足首を真剣な顔で、丁寧に触れ始めた。そして、腫れている部分に湿布を張り終わってから、包帯で固定した。
「はい、手当て出来たよ。足グネッただけで骨は大丈夫だから2日ぐらいで腫れと痛みが取れるよ」
手当てを済ませた男性は安心した様子で微笑んだ。




