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暖かい背中

 彩七の視線の先には、昨日の男性がいる。

 まちがいなく、昨日の彼が自分の目の前にいる、そう思ったら身体が勝手に彼を追いかけ始めた。

 初めて知った昨日の感覚が、また自分を襲い始める。


 どうして、ひと目しか見た事のない彼を追い掛けているのか、自分でもわからない。ただ――――――ひとつだけ確かなのは、彼を見た時のこの胸の熱い鼓動だけだった。


 彩七は引き寄せられるように無我夢中で彼を追い掛けたが、気がつくと何処なのかよくわからない場所にたどり着いていた上に、いつの間にか先を行く彼の姿を見失ってしまっているのだった。


 そして、タイミングの悪い事に快晴だった空がどんよりと曇り始める。

 風に揺れる木々たちが不気味に音を鳴らし始めた。先程、散歩していた林道とは違い辺りは色鮮やかな緑も美しい川のせせらぎも可愛らしい鳴声の動物たちもいない。


 そこは何もない場所、ただ暗い色褪せた林が続いていた。不気味な木立から何かガサガサという音が聞こえてくるのだった。

 あまりの怖さに後ずさると、足元の木の幹に足をとられてしまい、声が思わずもれた。


「キャッ! いたっ」


 足をぐねらせた彩七は痛さのあまりにその場から立ち上がれない。グネった足を恐る恐るみる。


「いたたたっ。足がすごい腫れてる…………どうしよう」


 足首をみて、完全に自力では歩けない事を悟った。それはあまりにも腫れあがった足で、黒いような紫色に肌の色が変色しているのだった。

 木の根元に座り込んだままの彩七は身動きが取れずに、どんどん暗くなる空を仰いだ。

 心配した通り、どんよりとした雲間からポツリポツリと雨粒が、彩七に向かい降り始める。


「とうとう、雨が降ってきちゃった」


 さぶさで冷たくなった手のひらを上に向ける。次々に途切れることなく、雨粒があたるのだった。


「なんとか、急いで戻らなくちゃ」


 決意をした彩七は、なんとか腫れあがる足を痛めないように立ち上がる為、四苦八苦しながら、辺りに手助けになるものを探り始めた。

 すると、またもや先ほど木立から不気味な音が聞こえてくる。

 恐怖で硬直して身動きが取れない。すると、背後からヌッと暖かい何かが、自分の肩に触れるのだった。

 それまでに感じていた恐怖がピークに。

 ホラー映画の主人公のような悲痛とも言える恐怖の悲鳴を林にこだまさせる。


「きゃあああああああああああああああああ」


 その場に彩七は腰が砕けたような形で再びヘタリ込んだ。

 彼女は勇気を出して、恐る恐る自分の背後に視線をやる。その先には追いかけていたあの男性が目の前にいるのだった。

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