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「そんな事ないもん、亮ちゃんがほんの少し来るのが早かったのっ」

「そう? まぁ彩七がそう言うならね」


 瀬戸亮せとりょうは彩七の苦し紛れの言葉がおかしくて、笑いを我慢してそう答えた。


「もう、ホントなんだからね! 亮ちゃんのいじわるっ」

「ごめん、ごめん。機嫌直して森でも探索しよう、彩七」

「じゃあ、いいよ――――――――許したげる」

「それはありがとう、彩七」


 亮は自分の隣に彩七がいてくれさえすればそれだけで、幸せだった。これからもずっと変らないふたりでいられる事が一番の望み。だから、今隣で自分へと微笑んでくれている、この笑顔をみれるだけでそれでよかったはずだった。これから先も、お互いの関係はゆっくり時間をかけていけばいいとさえ、考えていた。


*****


 森の木々の間から指す、暖かな太陽光の中をふたりはゆっくりと肩を並べて歩く。

 近くには小川があるのかサラサラと水が流れるような音が聞こえてくる。


「ねぇ、彩七はもう聞いたのかな?」

「何の話?」

「だから、僕たちの将来の事」

「婚約の事? 彩七は…………」


 水のせせらぎが聞こえる中、ふたりは向かい合い見つめあった。


「僕は彩七が嫌じゃなければ、ゆっくりにでもいいから話を進めたい」

「あのね……もちろん、亮ちゃんの事――――――好きだよ。でも、でも……」


 どう答えたらいいのかわからない。ただ言葉が驚くほどでない。

 彩七の困惑する姿をみて、亮の手がやさしく彼女の両肩に添えられた。ふたりの間には沈黙がながれる。

 いつまでも黙っている彩七にしびれを切らした亮が優しく問いかける。 


「でも? どうしたの、彩七?」

「あのねもう少しだけ――――彩七はね、このままがいいの……亮ちゃん」

「ああ、僕も急かすつもりはないよ」


 風が木々の葉をそっと触れて揺らす中、また誰ともなく歩き出し始めた。

 しばらくして森の探索が終わって、森を抜けると、そこからコテージある方へ移動する。

 ふたりがいる辺りにも赤色の空が迫っていた。


 帰り道、彩七と離れるのが寂しい亮は、ずっと名残惜しそうな表情を浮かべていた。楽しそうに話しをする彼女の無垢な笑顔をいつまでも見ていたかったが、それは叶わなかった。

 すぐそこにはふたりのコテージが見えるからだった。


「それじゃあ、彩七、また夕食で」


 ふたりは夕食まではそれぞれの家族と時間を過ごす事になっていた。

 名残惜しそうな亮は、仕方なく彩七とのしばしのお別れに観念する。

 彩七も亮に笑顔で手を振りながら、彼が自分の両親と泊まっているコテージへ戻るのを最後まで見届けるのだった。

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