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「ママ?」
「いや、ボクだよ」
その意外な声の主ですっかり目が覚めた彩七。
「りょ、亮ちゃん?」
「やっと、お目覚めかい?」
「うん、おはよう。でも、どうして?」
「おじさん達に言われて迎えに来たんだよ」
「そうなの。パパ達が」
「ああ、外で待ってるよ」
「うん」
扉を挟んで会話が終わると部屋には眩しい光がカーテンの隙間から射しているのに彩七は気づいた。窓に近づいてはカーテンの間から外を見る。
「眩しいけど、いいお天気」
そう言ってから、クローゼットの前に支度しようと立ったが、ふと思い直して、ベランダの方へ歩き近づく。そして、カーテンの隙間からこそっと外を覗きみるのだった。
「昨日のあの人、いるかしら?」
期待がふらむと胸の奥が妙に早く脈打つ。そして、向かいのベランダを見るがそこには誰もいないのだった。
それに落胆した彩七は、仕方なくクローゼットの前に戻る。
「まるで昨日の事が夢見たい。また、会えるのかな」
昨日の事を想い、目の前の鏡に映った自分へと話し掛けながら、服を着替える彩七。支度が終わると部屋を出た。彼女はそのまま廊下を真っ直ぐに進む。しばらく進むと目の前にドアがあらわれた。そのドアを開けると、ちょっとした応接間セットのある部屋に出た。
ソファには座って優しく笑みを浮かべた中年の夫婦がいる。
「おはようございます。パパ、ママ」
彩七は朝食がすんでお茶を愉しんでいる夫婦へ笑顔でそう挨拶をした。
父親の方は病院では副院長をしているだけあって、生やしている口髭がトレードマーク。指で自慢の口髭を触っている。身体つきは医者のわりに少し太めの身体、それと髪の毛や口髭は白髪交じりで灰色がかっている。
母親はというと、年齢のわりには肌も綺麗で、髪の毛は艶のある黒茶色。仕事は昔、看護婦をしていたが、今はやめて専業主婦だ。
そんな両親は愛娘へ満面の笑みで優しく挨拶を返す。
「おお、彩七か。おはよう」
「おはよう、彩七ちゃん」
「瀬戸君が待っているから早く行っておやりなさい」
「ママたちはゆっくりしているから二人で楽しんできなさい」
「うん、行って来るね。パパ、ママ」
夫婦がいる部屋を出る彩七。
そして、外へ続く廊下を玄関目指し歩き出した。コテージの玄関を出たら、目の前にはスラっとした笑顔の良く似合う男性がいた。
その男性は柔らかな視線を彩七に向けてから近づく。
「相変わらず、ネボスケだね、彩七は」
そう言って、彼は彩七の少し色づいた頬を優しく触れる。彼女のむくれた表情と愛らしい仕草を愛おしいそうに見つめた。