2
朝の出来事は、親子の人生に今までなかった事。
病気だった頃彩七が出掛けるだとか以前の問題だった。
ところが、今当たり前の生活を取り戻し、日常生活が出来るようになった。
ピギーバック法で彩七自身の心臓を残しながら、他の心臓を移植するという治療を行ったからである。それでも健康な人とは違い色々と心配な事があるのも事実。
幾度となく彩七はそれを痛感する場面があって、ママたちが過保護になるのも仕方のない話、と感じているのだった。
彩七が色々想いを巡らし終える頃、目的の駅に到着する。
独りで展示会へは初めて訪れるのだった。
何処へ行くもいつも家族と一緒だった、ここ最近はたどこかへ出掛けるのは独りでする事で親からの依存を脱却する事を試みる様になった。
何事も起こらなければ、通常は親の順番で人生を終えるだろうという事もわかっている。だから、依存するわけにはいかない、自立をしなければという心境が逆に芽生えるのだった。
展示会への道はさほど遠くなく、迷う事がなかった。
彩七はすぐにたどり着く。
「ここね」
一言呟くと彩七は無事に着いた事を携帯で母親に報告した。
それからなおしていたチケットをポシェットから出して、受付に渡す。
展示会は様々な写真が展示されている。
何処から観て回ろうか彩七が頭を悩ませる程だった。
それでも足を動かし始める。
順番に巡って行けば、颯太さんの作品もきっと観れるはず、と彩七は思いながら色々と観て回った。
颯太の作風に似た作品前に来る度に作品の下の名前をゆっくりと声を出さずに口にする。
幾つめかだった、やっと颯太の名前を発見した。
「あった、これね」
視線を写真に向ける。ごつごつとした山肌に雪が積もっていたが、ところどころ雪が解け、植物が芽吹く瞬間を見事に収めていた。
厳しい冬のたまにしかあたらない光源を懸命に浴び、生き抜くその姿はとても美しく力強い。
その写真にしばし魅入る彩七。自分もこんな風に迷いなく生きぬけるか、考えずにはいられないのだった。




